“チームジャパン”で勝ち取った歓喜の優勝だった。
カナダ・リッチモンドで開催された車いすラグビーの国際大会「2022 Canada Cup」。予選全勝・カナダとの決勝戦、延長にもつれこむ大接戦を制し日本が初優勝を果たした。
しかし、その最高の笑顔にたどり着くまでの道のりは決してたやすいものではなかった。
円陣を組み心をひとつにした日本は、これまでとは違うスターティングラインナップでティップオフに臨んだ。
「大会中あまり使っていなかったラインナップを起用することで、相手のプランをかき乱すのが狙いだった」とケビン・オアーヘッドコーチ(HC)はその意図を明かす。
オアーHCの読みは的中し、日本は順調なスタートを切った。
カナダはパスを有効的に使ってスピードを生み出し、ミスマッチの状況をいち早く作って得点を重ね攻撃に隙がない。さらに、正確なパスと統率のとれた連係、ザック・マデルの強さとスピードは精度を増した。
ひとつのミスが命取りになる緊迫した展開が続く。
両チームともに1点、2点…と熱くも冷静に得点を重ねていたが、日本はパスの乱れからターンオーバーを与え、残り14.8秒で逆転を許し13-14で第1ピリオドが終了した。
第2ピリオド、トライライン手前の「キーエリア」で日本はプレッシャーをかけ続け相手のキャッチミスを誘いノットトライ。これで同点に持ち込み、さらにボールプレッシャーをかけ続けた日本がチャンスを奪い逆転に成功する。
日本ベンチからはディフェンスポジションのアドバイスや相手の動きの情報がコートに逐一伝えられ、コートに立つ4人だけではなく12人全員で戦う。
前日とはまるで違う日本に戸惑いを見せたカナダだったが、最後に1点を押し込み、27-27の同点で前半を終えた。
「勝ちたい」という思いがぶつかり合った第3ピリオド。
パスコースを考えるボールキープのわずかな時間にも、走っている間にも、獲物を狙うハイエナのようにボールカットの手が伸びてくる。それがカナダの恐さだ。
相手のパスミスから日本がボールを奪うとそれをまたカナダがカット、スコアには表れない「1点」の間に起きるターンオーバーの応酬が観客を沸かせた。
37-37で第3ピリオドを終え、最後の8分間を前にオアーHCがベンチで発したのは「楽しくやろう!」という言葉だった。
日本とカナダ、どちらが勝っても大会初優勝となる試合はエキサイティングな展開が続く。
取っては取られ、取られては取り返す一進一退の攻防が続き、勝利の行方は最後の最後までわからない。そんな競り合いが続く最終盤で、オアーHCが自信を持ってコートに送り出したのは、長谷川勇基、小川仁士、橋本勝也。チームの中で、いわゆる「若手」といわれる3人がラインナップに入った。
日本が追いかける展開だったが、橋本がカットしたボールを島川慎一にパス。そのままトライまで持ち込み、逆転に成功した。
そのまま勝利の時を迎えるかと思ったその時、残り1秒でカナダの渾身のトライが認められ52-52の同点。カナダ応援団が大歓声をあげる中、試合は延長戦へともつれ込んだ。
気持ちをリセットして迎えた3分間の延長戦。
池透暢がティップオフを制すると、両者とも順当に得点を重ねていく。張り詰めた空気がコートを支配する。
55-55になったところで、日本は再び、長谷川—小川−島川—橋本のラインナップに思いを託す。
56-55、56-56、57-56。
17秒守り切れば日本の勝利…。深呼吸するコート上の4人、固唾をのんで見守るベンチ。
カナダのトライラインを目前に意地と意地がぶつかり合う。
「ピー!」ファウルを知らせるレフェリーの笛が響く。
カナダの痛恨のミスにより日本に攻撃権が移り、そのままボールをキープして試合終了。史上まれにみる大接戦を制し、日本がカナダカップ初優勝を飾った!
そして、優勝の瞬間をコートで迎えた島川慎一が大会MVPを獲得した。
選手、コーチ、トレーナー、メカニック、通訳、マネージャー。すべてのチームスタッフと会場にかけつけた現地ファン、そして日本からエールを送った応援団全員でつかみとった大きな勝利だった。
キャプテンの池は「チーム全員が同じ絵を描きながらプレーできたことが一番の勝因」と笑顔で語った。気持ちもパフォーマンスも「東京(パラリンピック)で止まっていた」と話す自身については、日本や各国の若手選手たちのエネルギーが刺激となり、「もっと成長したいと思える大会だった」と充実した表情をのぞかせた。
そして、今大会を通して一回りも二回りも成長した橋本勝也。カナダカップは代表戦デビューを果たした思い入れのある大会だった。
前回の2018年大会時(高校1年)のことを「何もわからないまま出場した」と振り返りながら、「4年間でこれだけ成長したぞ、これだけプレーできるようになったんだぞ、と見せつけたいと思って大会に臨み、それを見せることができてすごくよかった。一番障がいが軽いクラスのプレーヤーとして、ナンバーワンの自覚と責任、覚悟をもってやることでもっともっと強くなって、こうした大会で最高のパフォーマンスが発揮できるようにしていきたい」と、パワー全開で駆け回った4日間、6試合の疲れも見せずに頼もしく語った。
今大会の結果により、日本は史上初の「世界ランキング1位」に浮上することが確定的となった(7月にワールド車いすラグビーから発表される予定)。
東京パラリンピックから9か月、海外勢と試合をする機会がない中で、地道にトレーニングに励んできた。自分たちが取り組んできたことへの確信をもたらした今大会の経験は、さらに日本を押し進めるだろう。
車いすラグビー日本代表は、来月6月にアメリカで開催される、障害の重い“ローポインター”だけの国際大会「2022 World Games Low Point Tournament」に出場し、10月には世界選手権を迎える。
今年最大の目標である世界選手権での連覇を目指し、オールジャパンで突き進んでゆく。
◆2022 Canada Cup 結果
優勝 日本(5勝1敗)
準優勝 カナダ(5勝1敗)
3位 デンマーク(3勝3敗)
4位 イギリス(2勝4敗)
5位 オーストラリア(2勝3敗)
6位 フランス(0勝5敗)
※5位−6位決定戦はおこなわれなかったため、5位と6位のチームは予選5試合のみの結果