防御の「出口」はターンオーバー。ボールを奪って攻めに転じることだ。
堅守が文化の埼玉パナソニックワイルドナイツには、そのターンオーバーの名手が複数、いる。各自、組織防御の効果を最大化する。
そのひとりはラクラン・ボーシェー。ニュージーランドの名門チーフスから今季から加わった27歳で、オープンサイドFLを主戦場とする。
身長191センチ、体重104キロとこの国にあっては大柄な部類に入るが、繰り出すプレーは小柄なタフガイのそれに通じる。倒れた相手の持つ球にしつこく絡み、そのまま奪ったり、反則を誘ったりするのが得意だ。ジャッカルの名手である。
5月22日のプレーオフ準決勝でも、前半終了間際に自陣深い位置でジャッカルを決める。
わずかなリードを背負っていた後半も、機を見てのジャッカル、さらにはランナーをつかみ上げるチョークタックルと、タフなプレーを披露し続けた。
東京・秩父宮ラグビー場で終始、身体を張る。巨躯ぞろいのクボタスピアーズ船橋・東京ベイを、24-10で下した。
いったいなぜ、ボーシェーはジャッカルができるのか。22歳にして入団5年目に突入の福井翔大は、「わからないです」と驚く。
東福岡高を卒業後にこのクラブでプロとなった福井は、元ニュージーランド代表のマット・トッド(現・東芝ブレイブルーパス東京)、元オーストラリア代表のデイヴィッド・ポーコックといった国際的なFLの薫陶を受けてきた。昨秋には自らもその位置で日本代表入りを果たし、現在は故障離脱中も将来が嘱望されている。
一流に学び一流となる過程にあって、いぶし銀のボーシェーをこう見ていた。
「特別、ウェイト(の数値)がすごいわけではないのに、ジャッカルに入ったら強い。ポーイ(ポーコック)には誰が見てもわかる(ジャッカル時の)姿勢のよさなどがあるのですが、ロッキー(ボーシェー)は姿勢が高い時もあるのに、なぜか(ボールを)獲れてしまう。ジャッカルに関しては、いままでの外国人選手と比べても一番すごいかもしれないです」
当の本人もまた「いったいなんでボールが獲れるか…。わからない」と笑う。そして続ける。
「ただ、練習を重ねることで、スキルを上達させてはいます。また痛いところに突っ込んだ時に立っていられるだけの太ももの筋肉、身体の柔軟性も養っています」
戦う舞台のレベルが上がるほど、防御側のジャッカルをはがす攻撃側のスイープの激しさも増す。それでもボーシェーが役目を全うできるのは、あらゆる圧を吸収しうる自分なりの強さを得ているからか。
29日、東京・国立競技場での決勝でも定位置の7番で先発する。攻撃の得意な東京サントリーサンゴリアスとぶつかる。
全身をしならせ、ワイルドナイツを勝利という名の本当の「出口」に導く。