「同じフィールドにいても、厳しさが違うと思った、試合にも全然出られてませんでした」
170センチ、98キロのプロップが振り返るのはリーグワンの舞台でも入れ替え戦で D2チームと戦った感触でもない。新潟・新発田農業高校から進んだ山梨学院大学時代の思いだ。当時はCTBでプレーしていた。
「高校では花園も出たことないし、弱小校で…」
命運を変えたのはPRへの転向だった。間藤郁也(まとう・ふみや)はブルーシャークスできょう、1番を背負ってリーグワン2部昇格をかけた今季最終戦に出場する。
2017年加入の社会人6年目。昨季までは1シーズン2試合か3試合ずつ先発を重ねてきた。今季は開催された12試合中11試合に出場。先発は9試合に上り、ルーズヘッドPRの正位置を張る。試合中は走り回ってさまざまな役割をこなす。接近しながらのパススキルにはCTB時代の経験も生きている。このワークレート、試合に出続けるタフネスではリーグワンでも屈指の存在だ。
ポジション変更のきっかけはひょんなことだった。大学2年の菅平合宿。食事で目の前に座ったコーチが、170センチの間藤に声をかけた。
「お前、食えるね」
しんどい合宿中でも衰えない食べっぷりの良さが目を引いた。合宿が終わってからプロップ転向の提案を受けた。当時から120 人規模の大所帯のラグビー部だ。PRが特別手薄だったわけではない。見込まれた体幹の強さでレギュラーにのし上がるが、転向してすぐは、あまりに大きな体の負担に面食らった。特にスクラムは入ってみると特殊な世界だった。味方の最前列に位置し前後から15人に挟まれる密集の中。息もできないような圧力を感じた。
「高校1年生がやるように、基本の姿勢から教わりました。変わってすぐの頃は、スクラムの中ではその姿勢を取ることさえ難しかった。すぐに崩れてしまって」
1年後の北海道・北見合宿。チーム同士のスクラムセッションで清水建設の高橋修明監督(当時)の目に留まり、社会人選手への道がひらけた。
今は、スクラムの中で感じる景色も変わってきた。味方の押しを前に伝えることを意識している。
「8人で固まって、姿勢がしっかり取れれば、後ろの押しを伝えるだけでみんなで前に出られます。今は後ろからの押しが本当にいいので」
チームは間藤が支えるセットプレーの安定を基盤にリーグ戦を2位通過、スカイアクティブズ広島との入替戦に臨んでいる。第1戦は見事勝利を収め、きょうの結果でD2昇格を決めるつもりだ。
間藤は社員選手だ。仕事とラグビーともう一つ、妻・麻里菜さんと長男・夕紫(ゆうし)君、家族も大切に守りながら、今季も過ごしてきた。奥様は高校時代の同級生。夕紫君の名前は、二人で見たふるさとの浜辺の光景にちなんだ。
「ブルーシャークスでは、レベルの高いプレーを一つひとつの目の当たりにして、貴重な体験ができていると感じてます。これからもD1目指して頑張りたい」
新潟、山梨、東京へと繋がった旅で、このシーズン最後の試合にたどり着いた。リーグワンディビジョン2-3入替戦・第2戦は間もなくキックオフ。