ヒート一筋、12年。
誰よりもヒートを愛し、ヒートに愛された男が、ついにそのジャージーを脱いだ。
三重ホンダヒートのWTB生方信孝は、グリーンロケッツ東葛との入替戦2戦目(5月27日)を、現役最後の試合と決めていた。
試合後、チームから花束を渡され、後輩2人に肩車をされながら花道を通る。笑顔を絶やさなかった。
「約12年間、積み上げに積み上げて、ハードワークしてきました。それに関しては自分で自分のことを褒めてあげたい。ラグビー人生に後悔はひとつもないです」
チーム最年長の34歳。言葉遣いはいつも丁寧だ。試合後の記者会見は、「お疲れ様です。本日はありがとうございました。ウイングの生方です」と切り出し、最後の試合を振り返った。
「まず前半は自分たちのラグビーに挑戦しようと声をかけて、それが実現できたことを誇りに思います。後半も同じ気持ちで試合をドミネートしようと話しました。ただキックオフのミスから流れを持っていかれてしまった。もう一度自分たちのラグビーにチャレンジしようと話しましたが、うまく流れを掴むことができず、相手の勢いに押されてしまいました」
ヒートはこの日、序盤から試合を支配し、前半を19-3で折り返す。ディビジョン1に上がるための大逆転勝利(24点差以上での勝利)を、射程圏内にとらえていた。だが後半、立ち上がりから3連続トライを奪われ一時は逆転も許す。終盤にひとつトライを返し、24-22の2点差で勝利するも、ディビジョン1昇格はならなかった。
「ディビジョン1に上がることはできませんでしたが、今日、勝利できたこと、ディビジョン1のチームに勝てたことはホンダヒートの価値です。シーズン最初と比べてここまで成長したところをファンの皆さまに見てもらえた。本当に誇りに思います。これからどんどん成長してくれると思います」
大東大一高でラグビーを始めた。ポジションはスクラムハーフだった。大東大卒業後の2010年度シーズンに、ホンダヒートに入団。2年後には「SHとしては戦力外」となり、WTBに転向した。そこで才能は開花した。走力、運動量を買われ、セブンズ日本代表にも呼ばれた。
「1対1の強さ、足腰には自信があります。小さい(169㌢)わりには強い、というのがウリです(笑)」
ヒートでも出場を重ねた。かつての同僚でこの日は対戦相手だったレメキ ロマノ ラヴァとは、両WTBで何度もコンビを組んだ。
「寂しくなるね。うぶは僕の1個上で、11番と14番でずっと一緒に戦ってきた。一緒にお酒を飲んだり、仲良くしていたから引退するのは寂しいね」(レメキ)
ヒート1のハードワーカーは、30歳を超えても衰え知らずだった。昨季はほぼ全試合にフル出場、ワークレートは常にトップに居続けた。今季も出場した(全12試合中)9試合はすべて80分間、グラウンドに立った。
豊富な運動量もさることながら、生方最大の魅力はチームを鼓舞し続ける「声」だ。劣勢の時ほど、その声は大きくなる。
この日も連続トライを許していた時間帯で、「相手じゃない、自分たちにチャレンジしよう!」「ディフェンスから、ディフェンスから!」と、その声ははっきりと花園ラグビー場に響いていた。
以前のインタビューでは「昔からそういう(声を出す)キャラでした」と笑い、こう続けた。
「自分の声でチームが勢いづいてくれればいいなと。若手もすごく多いので、しんどい時は僕の声に反応して少しでもスタンダードに戻ってきてくれたらなと思ってやっています」
いつでも仲間、後輩を思った。
会見では、そのチームへの愛を問われた。
「僕はヒートのことが相当好きです。これはもう間違いないです。ヒートが大好きです。約12年間の長い間、第一線で出させてもらって、入替戦や自動昇格、自動降格、さまざまな経験をしました。負けてる数の方が圧倒的に多いです。
でもヒートは何度も崖っぷちに立たされて、そこから何度も這い上がってきた。本当に何度もどん底を経験しました。そこから何回も成長しています。今も成長段階です。いつか日本一を掴み取る日が必ず来ると信じています」
あふれるヒート愛は、グラウンドを離れても決してなくなりはしない。