ラグビーリパブリック

松島幸太朗インタビュー Vol.1◎「日本はもっと試合をした方がいい」

2022.05.26

フランスでタフな経験を積んだ。(©ASM Clermont Auvergne Rugby)



 松島幸太朗がフランスのクレルモンとの2年間の契約を終えて日本ラグビー界に復帰する。
 6月、7月の日本代表活動には参加しない。疲労の蓄積とケガからの回復期ということもあり、代表首脳陣が休養期間を与える判断をしたからだ。
 2年間、フランスに身を置き、経験して感じたこと、またフランスから日本を見てきて思ったことを話してくれた。

 コロナの規制で外出制限もあり、また飲食店を含み商店も全て休業していたフランスでの1年目。トレーニングと家を往復するだけの毎日でストレスマネージメントが難しかったという。

 その中でも大会は続けられた。試合は無観客だった。
 シーズン終盤に規制が緩和されはじめ、少しずつスタジアムに観客の姿が戻ってはきたが、上限は5000人だった。

 2年目に観客数制限の規制が解除され、ようやくタッチライン側の立ち見席までサポーターに埋め尽くされたホームスタジアム『スタッド・マルセル・ミシュラン』を知った。

——ミシュランの雰囲気はどうですか?
「フランスはどのチームも応援がすごいけど、ミシュランもすごく熱気がある。地域密着型で、街を上げて応援している感じがとてもあります」

——ホームとアウェーの違いを感じますか?
「アウェーはまさにアウェーという感じ。ホームはホームという感じ」

——チームによっては、アウェーではディフェンディングポイントの1点が取れればいいというところもあります。
「ホームで勝つことがとても重要だし、アウェーで勝った時のチームのみんなが喜ぶ度合いもすごく違う。それは日本では味わえなかったところです」

——街でサポーターに声をかけられることも?
「しょっちゅう声をかけられます。みんな『頑張って』とか声をかけてくれる」

——そんな時のサポーターとの距離感は日本とは違いますか。
「違うと思う。フランスは子どもとは写真を撮ることはあっても、大人はさっぱりしていて、『がんばって〜』と声援だけと言うのが多いですね」

——チームとしてもサポーターとの関係を築くため、先日もクレルモン=フェランから60キロ離れたヴィシーというところで公開練習をおこなった。その後はファンと触れ合いの時間もとり、地元のラグビースクールの子どもがとても喜んでいましたね。
「クレルモン=フェランまでなかなか来られない人たちのために、そういう機会を作っています。そうすることでファンも増えると思うし、もともとファンだった人との繋がりも強くできると思う。そういった意味でも大切なことだと思います」

 プレシーズンも含むと11か月続く、フランスの長いシーズン。1年目は27試合に出場、プレー時間は1995分。2年目は5月17日現在で18試合に出場し1333分プレーした。
 アウェーの試合はバスで3時間、ときには5時間かけて移動。21時キックオフの試合だと試合終了後スタジアムを出るのが24時。再びバスに乗り帰宅するのが午前3時や4時になることもあった。

——タフなスケジュールで疲労も蓄積し、フィジカルもメンタルもコンディションの維持がかなり難しくなるのでは。
「メンタルは勝っている、負けているという状況もあるが、次に向けて頑張りたいというモチベーションがあれば全然問題ないと思います。でも身体的には、試合を終えて何時間もかけてバスで帰るというのはコンディションを作る上では難しいてすね。本当に疲れているということを監督たちに言わなければ、練習でケガをする可能性もある。自分の身体がどういう状態なのか、しっかり考えながらやっていかないと、すぐケガにつながる。コーチたちに『いける』と思われれば、どんどん使われます。使ってもらえるのはいいことだけど、ケガをすれば数週間無駄になるから自分のコンディションをしっかり把握することが大切です」

——実際、ケガ人がとても多いですね。
「BKで17人怪我しているという時期もあり、試合にはエスポワール(アカデミー)の選手を起用して、ギリギリのところでやっていました」

クレルモンに限らず、今季のトップ14は特にケガ人が多かった。どのチームにもギリギリのところでやっていかなければならない時期があった。
 シーズン前半はトゥーロンがそうだった。代表試合のある期間はトゥールーズがそうだったし、最近ではボルドーやモンペリエが苦戦した。長くてタフなシーズンの皺寄せがきているのではと懸念されている。

——トップ14とチャンピオンズカップの2つの大会が並行しておこなわれることについては?
「僕はおもしろいと思っています。雰囲気も全然違うし、違う国と試合できることもあるし、そこがおもしろかったですね。モチベーションも違う感じもある」

——フランスでは、トップ14とインターナショナルレベルの間がチャンピオンズカップだとよく言われています。
「まさにそんな感じだと思います。インテンシティーも一つ上がるし、両チームとも負けたくないという空気もあるので、トップ14とは違う雰囲気を味わえます」

——スタジアムも対戦相手もレフリングも変わるとも言われている。まずフランスのレフリングについてはどう感じましたか?
「ホーム戦とアウェー戦と結構露骨に違うこともあった。そこはすごいなとは思いました」

——それはトップ14のテレビ中継の解説でも言われることもありますね。一方、チャンピオンズカップのレフリーはフランスと対戦チームの国以外の中立国のレフリーになります。
「公平を保とうとしてくれるので、さらにインテンシティーが上がるのかなと思います」

——シックスネーションズなどで代表選手、つまりチームの主力選手不在の期間もリーグが継続されることについては?
「層が厚ければ多少はやっていけるとは思いますが、トゥールーズのようにごっそり抜けてしまうと最下位のチームにも負けることもある。トゥールーズがその時期までに多く勝てていれば問題ないが、勝てていなければ(順位争いなどで)かなり厳しい状況になる。11月のテストマッチなら他国の代表選手が多く在籍するチームもですが、特にフランス代表は抜ける期間も長いので、多くの代表選手を抱えるチームにとっては難しいでしょう」

 11月末の時点で首位だったトゥールーズはシックスネーションズの少し前からコロナ感染の影響を受け、さらに代表選手不在期間中に負傷者も続出し、現在6位でプレーオフ進出を目指して気の抜けない状態だ。
 一方、トゥーロンのように主力がケガから復帰して順位を上げているチームもあり、残り1節となった今でも9チームがプレーオフ進出を意味するトップ6の座を巡って混戦状態だ。

——それだけ力が拮抗したリーグということでしょうか?
「プレーオフに出られるか出られないかという意味では9チームだが、他のポイントから見ればどのチームも近い(競っている)。トップ14のコンペティションがいかにタフなのかということがわかりますね」

——この2年間で特に思い出に残っている試合は?
「昨季チャンピオンズカップのワスプス戦(2020年12月、82分に松島が同点トライを決め、カミーユ・ロペスがコンバージョンを成功させ逆転勝利、松島はMOMに選ばれた)と、昨季トップ14の準々決勝(2021年6月、対ボルドー、16-25でクレルモンは敗退)です」

——チームとしても勢いのあった試合でしたが、準備段階からチームの状態はいつもと違いましたか?
「みんな気合いは入っているけど、そこまで行けばやることはそんなに変わらない。いつもやっていることをいかに試合で出せるか、だと思います」

——日本や南半球ではコロナ禍で大会が止まっていましたが、フランスを含むヨーロッパでは大会が続けられていました。その影響は。
「フランスでは試合がキャンセルされることはほぼなくて、チケット収入やテレビ放映権などで収益を出そうとしているので、なんとかして試合を実施しようというのがとても伝わってきました。一方日本ではすぐに中止になってしまうじゃないですか。完全プロ化していたら収益を出さなければならないからそんなことにはならなかったでしょう。プレーする側の選手としても、(中止でなく)延期することは悪いこととは思わない。なので、試合はなんとしても実施した方がいいと思います。日本はシーズンが6か月ぐらいしかなく、中止にすると試合数が少なくなる。そういう観点からも、そうしてほしいと思います。ヨーロッパと日本の試合数の差は、次のW杯にも響いてくると思います」

 昨年11月のテストマッチでは、ラグビーを止めていた国と止めなかった国の差が感じられた。
 2023年大会に向けて、日本や南半球は止めていた期間の遅れをいかに取り戻すか、また北半球、特に代表選手に疲労が見られるフランスは、選手のコンディションをどのように調整していくかがポイントになりそうだ。

松島幸太朗インタビューVol.2はこちら▼
https://rugby-rp.com/2022/05/27/abroad/84450

Exit mobile version