点は取れるうちに取っておくべきだ。スポーツの勝負にあって、この手の鉄則はそう変わらないだろう。いくら個々の体力、技術、戦術が進化しようとも。
ノックアウトステージでならばなおさらだ。5月21日、東大阪市花園ラグビー場。その普遍を再認識したのは東芝ブレイブルーパス東京だ。
6季ぶりの国内4強入りで、新設されたリーグワンのプレーオフの準決勝に挑んでいた。
24-30。東京サントリーサンゴリアスに屈した。相手には前身のトップリーグ時代から通算し、5季連続での国内大会(日本選手権を含む)決勝行きを許す。
敗れたSHの小川高廣共同主将は言った。
「フィジカルでは自分たちが上回っていました。ただサンゴリアスさんは上位チームでこういう舞台に慣れていて、落ち着いていて…」
レギュラーシーズンの直接対決を27-3で制していたブレイブルーパス。この午後も、飛び出す防御でサンゴリアスのミスを誘った。攻め込まれた先の接点にもFLのマット・トッドらがしぶとく絡み、攻めてはラインアウトからの攻めでジョネ・ナイカブラ、セタ・タマニバルといった強力WTBを単騎で走らせる。勢いがあった。
もっとも、後半開始時のスコアは17-17と同点だった。
攻め込みながらもインターセプトを許し、この試合最初のトライを獲られたのは前半24分のこと。まもなく3-7となる。
さらに17-10とリードして迎えた前半終了間際にも、ぶつかり合いで反則を重ねて自陣ゴール前右に後退する。
「自分たちは、試合中、あまり冷静でいられなかった部分があったのかな…」と小川。レフリーに接点から離れるように言われた際、反応しきれない状況がチームにあったという。
件のピンチでは結局、向こうのCTBのサム・ケレビ、FBのダミアン・マッケンジーのランで左、右と順に防御をかき回される。最後は複数のパスを介し、PRの石原慎太郎のフィニッシュを許す。直後のゴールキック成功で17-17。小川は続ける。
「感覚的には、リードして前半を終えたかった。でも最後、取られてしまって。もう一歩、引き離すことができなかったなと、波に乗れないな、という感覚がありました」
ブレイブルーパスが優勢に立ちながらしこりを残すかたわら、サンゴリアス側にもブレイブルーパスの強烈な圧力を織り込み済みとする節があった。
まず、件のインターセプトとトライを決めた尾崎晟也は明かす。
「相手の(飛び出す)ディフェンスを分析し、自分たちがどういうアタックをするかの対策はしてきた」
相手防御への対策のため、ライン全体の深さを保ったのだ。事実、その意識でフィールドの端側を攻略する時もあった。何より、その他の局面で向こうの網目に引っかかっても、「プレッシャーを受けることも想定していた」と尾崎晟。SHの流大も続ける。
「あれくらい(防御の激しさ)は想定している。どうがまんするかが大事だった。僕らは前半、風下。リードされても、敵陣に行けばDマック(マッケンジー)の3点(ペナルティゴール)がある」
その言葉通り、後半は「3点」が効力を発揮する。
サンゴリアスはハーフタイム明けこそ守備時に反則を重ね、ラインアウトからの鮮やかなムーブを許して17-24とされたが、9分、12分と、マッケンジーが40メートル超のペナルティゴールを沈める。23-24。そう。点は取れるうちに取っておく。
ちょうどその頃から、ブレイブルーパス側の空中戦での危険なプレーが目立つようになった。僅差リードを守らんとするなか、小川の指摘する「冷静さ」の領域にさらなるひびが入ったか。
逆にサンゴリアスは、落ち着いていた。追い上げるさなかの10分、最前列を揃って交代させる。日本代表候補左PRの森川由起乙にHOの堀越康介、国際経験のある右PRのセミセ・タラカイがスクラムで優勢に立つ。堀越はこうだ。
「今季のサンゴリアスは前、後半で(選手が)代わっても一貫してプレーができる。(スクラムを)丁寧に組むことで自分たちの力が発揮できると、FW全体が感じている」
心身両面における余裕、余力の有無は、19分の決定的なワンプレーにもつながる。
ブレイブルーパスが自陣ゴール前の接点周りに穴を開けたのを、サンゴリアスのCTB、中村亮土主将が見逃さなかった。
トライ!
コンバージョン成功。最終スコアが刻まれた。
以後もブレイブルーパスは、再逆転の機会を探る。
ただし23分、インゴールへの直進ではLOのシオネ・ラベマイのグラウンディングが認められなかった。
27分にはトッド、タマニバルが好走でチャンスメイクも、マッケンジー、中村亮のバッキングアップ、アドバンテージを背負ってからのFLの山本凱、SHの齋藤直人の相手をつかみ上げるタックルに阻まれた。
山本と齋藤も、堀越たちと同じく交代選手だった。
その直後を含め、数度にわたり、ブレイブルーパスはラインアウトで再三、ノットストレート(ボールをまっすぐに投げ入れない反則)を吹かれる。
投入役にとっては悔やまれるだろう。ただし前後の競り合いを鑑みれば、本質的な敗因はスローイングの技術そのものとは似て非なる部分にあったかもしれない。
「最後はラインアウトに苦しんだ。最優先でボールを獲得できるオプションを選ぶなど、冷静に判断すれば、残り10分間、ボールをキープしてプレッシャーをかけ続けられたかなと」
勝ち越せなかった小川がこう言えば、逃げ切った流はこうだ。
「どっちがうまいか、とかは変わらない。厳しい局面で頑張れるか(の差)」
ノーサイド。ブレイブルーパスのトッド・ブラックアダー ヘッドコーチは会見場で、「エクスキューション(遂行力)で自分たちにプレッシャーをかけてしまった」。窓の外ではまもなく、サンゴリアスが凱歌を熱唱した。