完璧ではなかった。埼玉パナソニックワイルドナイツは序盤、笛に足止めされることもあった。
攻め込んだ先で接点へのカバーが遅れたり、立ち合いで相手が先手を取りにかかるスクラムで腰を浮かされたり。対するクボタスピアーズ船橋・東京ベイの圧力と相まって、前半のペナルティの数は向こうよりも4つ多い7つにのぼった。
それでもロッカールームへ帰る頃のスコアボードは「14-3」。ワイルドナイツの「お手付き」は、さほど得点には影響しなかった。
攻防の起点にあたるスクラムでは、HOの坂手淳史主将いわく「レフリーが『ヒット(組み合う瞬間)でどちらが前に出ているかで優劣を出している』とゲーム中に話してくれた。そこにアプローチすることでだんだんよくなっていった」。
他の領域でも、適応力が奏功したのだろう。同じ失敗を最小限にとどめ、果たして24-10で白星をつかんだ。ロビー・ディーンズ監督は言った。
「プレーオフは選手にとっても、レフリーにとってもプレッシャーがかかる試合です。判定に毎回、毎回、納得できるわけではないですが、それを含めて理解して、適応するのが何よりも大事なのです」
現場判断と同時に、事前の準備も実った。
わずか4点リードで迎えた前半33分以降、自陣ゴール前左でラインアウトモールを3度も仕掛けられる。相手の得点パターンだ。
ただし、「我々はモールへのディフェンスにプライドを持っている」とディーンズ。直近の最終節での対戦時にその形で失点したとあり、対策を練っていた。
合法の範疇で鋭角に刺さる。向こうの軸を回す。最後列のボール保持者を孤立させ、その手元に絡む。3度、その手法を取った。
前半33分の1本でその流れの「フィニッシュ」を決めたのは、ラクラン・ボーシェー、ベン・ガンターの両FL。地上で球を獲り返す。ガンターはこうだ。
「相手の球出しを遅らせるのが我々の仕事」
2本目に関しては、勢いに屈して反則を取られてはいる。ただし、判定されれば即7失点のペナルティトライだけは免れる。
誠実さで鳴らすスピアーズのフラン・ルディケ ヘッドコーチが、つい「ペナルティトライが生まれたのではと思うところもあったが、それもラグビー。自分たちががまんしきれなかったところもある」と漏らしたこのシーンを経て、3本目では、ワイルドナイツがモール防御をスコアにつなげる。
それまでの2本と同じように、塊に右方向への圧をかける。地上戦に持ち込む。
フェーズを重ねられながらも、刺さっては起き上がっての繰り返し。勤勉さと対話で成り立つ組織防御は、ワイルドナイツのお家芸である。
竹山晃暉。この時、右端に立っていた先発WTBはこのように言う。
「がまんしてくれた。モールのディフェンスが素晴らしかった。(ワイルドナイツの防御は)相手だったらどうやって崩すのかなとは思います。全員が規律を守り、コミュニケーションをとっています。それを80分間やり続けるのが、ワイルドナイツの強さ。皆さん、(役割を)遂行できているのかなと思います」
球はワイルドナイツ側から見て右へ展開されたが、そこにはガンターたちとは違う意味でのスナイパーが待っていた。
竹山だ。
対するSOのバーナード・フォーリーが放つラストパスのコースへ、忍者の足取りでカットイン。球をさらうや向こうのゴールラインまで駆け抜け、笑顔でダイブした。
竹山の右側にはさらに相手が2人、残っていたとあり、パスが通ればそのまま失点しうる場面だ。
スピアーズ陣営では、CTBの立川理道主将がこう述懐する。
「テンポもよくなかったので――結果論なので(正否は)わからないですが――(大外の)バックスに回すべき(のが妥当)だったのか…。あれがつながっていれば(自分たちも)トライで、相手(のインターセプト狙い)もギャンブルではあったと思います。ただ、彼(竹山)はあのプレーが得意だとわかっていた。あの場面でそれが出て、チームとして痛い失点となりました」
当の竹山は、「ギャンブル」ではない旨を強調した。
「状況的には(人数を)余らされていました。こちらが上がりすぎてしまうと(パスカットを読まれて)フォーリー選手にキャリー(突進)される。ただ、引きすぎてしまうと(数的有利を活かして)トライされてしまう。駆け引きをしながら(飛び出す)」
抜け目がなかったワイルドナイツに対し、スピアーズは頑張りを結実させられなかった。新人WTBの根塚洸雅は言う。
「プロセスは悪くなかったのですが、あと一歩というところで相手にいいプレーをされた」
さかのぼって22分頃、スピアーズは左側にできた狭い区画へ切り込む。攻略しかける。しかしその直後、接点でラフプレー。好機をふいにした。
後半も開始早々、敵陣ゴール前右での得点機を逃す。さらに膠着状態だった11分には、自陣10メートル線左付近でのパス交換を狂わせる。ここでは何とかこぼれ球を確保も、ボーシェーに転ばされる。
最後はガンターに絡まれ、ペナルティゴールを与えた。
17-3。
この日に関しては、この時点でワイルドナイツが安全圏に近づいたと言える。
立川がこう続けた。
「プレーオフでは少ないチャンスをものにできないとこういうゲーム(敗戦)になる。それは相手も同じでしたが、(ワイルドナイツは)しっかりポイントを取ってプレッシャーをかけてきた。(ワイルドナイツには)ジャッカルする選手たちがたくさんいる。うちはそれをはがさないと…というところがあったのですが、そこが反省点になりました」
前年度のトップリーグ最終年度も制しているワイルドナイツ。「連覇」を期待されて迎えたこの午後は、かすかに隙を見せながらも結局は順調にファイナルへ進めた。
それは、今季の足取りと重ねているようでもあった。レギュラーシーズンでは開幕からの2戦をパンデミックのせいで不戦敗としながら、以後は唯一の実戦全勝を決めている。
29日、国立競技場。東京サントリーサンゴリアスとの頂上決戦へ挑む。2季連続の対戦だ。HOの堀江翔太(後半14分に登場し、強靭さと軽やかさを攻守で発揮!)は淡々と述べた。
「頑張ります。勝とうが負けようが、悔いなく『自分たちがやってきたことをやった』と言えるように」