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慶大に一般入試で合格。常翔学園の元主将、CTB山本大悟の受験物語

2022.05.24

慶大入学後のCTB山本大悟。(写真提供:慶應義塾體育會蹴球部)



 大阪・常翔学園高校にとって2022年1月1日は記念日になった。

 第101回全国高校ラグビー大会の3回戦で、島根・石見智翠館高に20−12で勝利。名将・野上友一監督の下、大阪工大高時代から数えて花園通算100勝を達成したのだ。

 花園100勝をピッチで味わったキャプテンの名は、山本大悟(やまもと・だいご)。

 大阪生まれ大阪育ち。布施ラグビースクール出身。中高でオール大阪を経験したタックラーだ。

 常翔学園は2日後の準々決勝で東海大学大阪仰星高に敗れ、チームの2021年度シーズンは終わった。しかし山本にとっては本格的な受験勉強の始まりだった。

「受験生として勉強を始めたのは1月7日で、試験日まで数えたら44日でした。朝6時に起きて勉強して、朝食後の8時から12時、昼食を挟んで13時から18時、夕食後は21時から24時まで勉強する——という生活を続けました」

 志望校は慶應義塾大学の一校のみ。滑り止めの大学は受けない。「泥臭いスタイルが自分に合っている」と思った慶大蹴球部(ラグビー部)でプレーできなければ、浪人する。

 無謀でした——オンライン取材を受けた山本は、そう言って笑った。

「高校3年の4月時点で、志望校は慶應大学に決めていました。最初はAO入試で入れたらと思って9月の出願へ向けて準備したんですが、10月末の一次審査の報告で落ちてしまって(笑)。でも周囲に慶應に出願したことは言っていましたし、曲げるのもダサいなと思って、11月には一般入試を受けることに決めました。野上先生には『本気か』と言われました(笑)」

 ラグビー部員の一般受験は異例中の異例。しかしやると決めたらやる性格だ。

 頑固一徹の山本は4人家族の長男で、3歳下に妹が一人いる。父はクラブチームでもプレーしてきたラガーマンだが、小学5年でラグビーを始めたのは自分の意志だった。

 高校の進学先を「勉強のしやすさなら常翔学園」と決めたのも山本自身。意見を尊重してくれる両親の下、「周囲に流されない性格」で突き進んできた。

 しかし受験勉強は「それまでノータッチでした」。山本は、中学時代から好きだった英語と小論文の2教科入試が選択できる環境情報学部に狙いを定めた。偏差値は72.5。毎日勉強したかったが、主将を務める常翔学園はすでに花園出場が決まっていた。

「ラグビー部は休部するつもりは当然なかったです。ただ部活をしながらなので、頑張っても1日2時間くらいしか勉強ができませんでした」

 そのぶん花園後の44日間は無我夢中だった。

 周囲に一般受験の仲間はおらず、とりあえず探し出した過去問を片っ端から解くなどした。合格を信じ、ひたすら机に向かう日々。孤独でした——山本は44日間の闘いをそう振り返った。

 上京前日のことだった。

 野上先生に挨拶をしてから、受験に行こう。そう考えた山本は学校に足を運んだ。

「授業はなかったんですが、上京の1日前に学校に行きました。職員室に入ったら、そこに学年の先生たちが勢揃いしていました。職員室に先生が勢揃いすることはかなり珍しいらしく、『ラッキーやな』と言われました。そうしたらそこに野上先生も入ってきて(笑)」

 不安と闘いながら勉強を続けてきた山本は、勢揃いした先生たちに力をもらったような気がした。野上監督と固い握手を交わし、言った。先生、受験行ってきます。

「野上先生と固い握手を交わして、『頑張ってこい』と言って頂きました。それまで家に籠もっていたので、上京前日、先生方に良い励ましをもらいました」

 そして迎えた運命の試験日。

 上京して神奈川・横浜のホテルに宿泊した。翌日、試験会場である慶大の日吉キャンパスへ。目にする自分以外の受験生はみんな賢そうに見えた。いざテストに向かったら「問題が奇抜すぎて笑ってしまいました」。山本は心のどこかで、人生の大勝負を楽しんでいた。

 たぶん無理やったわ。大阪の実家に帰った山本は、家族にそう言った。

 合否は一週間後の午前10時、ネット上での発表だった。発表当日、真っ先に見てやろうと画面を開いた。自分以外の家族は出払っており、飼い猫を抱いて画面に向かった。

「学部は2つ受けていたんですが、手応えのあった総合政策学部は普通に不合格でした。『うわー手応えあった方や』と思って、なかば諦めていたんですが、環境情報学部の発表で『合格』と出て。うおー!と一人で叫んで、それからいろんな人に電話して」

 両親は大喜び。妹は自分よりも喜んでいた。

 山本は「無謀」なチャレンジを努力で成功させた。

 それからは引退ライフをしばし楽しみ、3月下旬に上京。山本は堂々と念願だった慶大蹴球部の一員となった。栗原徹監督には「期待してるぞ」と励ましをもらった。

 慶大では授業が「今年から対面授業が増えた」という。日吉のグラウンドで汗を流しながら、学部生として湘南藤沢キャンパスにも足繁く通う。

「ラグビーでは、栗原監督の下、ラグビー知識を使って相手を崩していくラグビーに慣れて、もし試合に出場できたら1年生らしくエネルギッシュにプレーしたいです。学部生としてはいろいろな分野を学べる環境情報学部で、ゆっくり方向性を決めていきたいと思います」

 一念岩をも通す。次は黒黄ジャージーを掴み取る。


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