よい文化はよい人が作るのだろう。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイのフラン・ルディケ ヘッドコーチは、2016年の就任より心掛けてきたのが「正直なフィードバック」。試合のメンバーから外す選手への理由の説明といった繊細な事柄を、本人に包み隠さずに伝える。
果たして組織の風通しを変え、各自がそもそも持ち合わせる前向きな資質と競争心を引き出す。昨季のトップリーグで初めてたどり着いた国内4強の座へ、今季からのリーグワン1部においてもたどり着いた。
「正直なフィードバック」は、対外関係においても同じか。
東京は秩父宮ラグビー場でのプレーオフ準決勝を2日後に控えた5月20日、オンラインで会見。それまで故障で離脱していた、マルコム・マークスの状況を聞かれた。
「マルコムに関しては残念。ハムストリング(の故障)でもう少し時間がかかります」
スクラム、肉弾戦に多大な影響を与えうる南アフリカ代表46キャップ(代表戦出場数)のHOは、3月5日の第8節を後半17分に退く。間もなく、帰国した。腰を据えてリハビリを重ね、プレーオフの戦列復帰が期待された。しかし、この日に発表のメンバーには入らなかった。
指揮官は、その旨を率直に明かしたわけだ。さらに、翌週の決勝もしくは3位決定戦での出場の可能性を問われれば、こう言葉を選んだ。
「決勝に向けてというより、まずは準決勝にフォーカスしたい。各週、各週、そのプロセスは変わらないです。…正直に、駆け引きなしで言うと、(現状では)決勝(に進んだ際にプレーするの)も厳しいと思います」
繰り返せば、ボスのこの態度こそが部内の実力者を一枚岩としてきた。今度はけがから戻った戦力もいて、そのひとりがジャバ・ブレグバゼ。スクラム大国のジョージア代表で67キャップを得たHOだ。
マークスの故障を受け、チームは今季途中にブレグバゼと短期契約を締結していた。そのブレグバゼもあばらにトラブルを抱えてしまっていたが、今度の一戦へリザーブに復帰。左PRで先発の海士広大はその効果を語る。
「ジャバはスクラムにはチーム1のプライドを持っていると思います。目の色が変わる。頼もしい存在です。ジャバの言葉で印象的なのは『タイトになれ』。(バインドを)固めたら、俺が(先陣を切って)行く、切り開いたる…という感じです」
カムバック組にはライアン・クロッティもいる。
ニュージーランド代表48キャップのCTBは、マークスよりも約1年早い2019年に加入。球を持たぬ際のハードワークや攻守両面におけるスペース感覚、明朗な人柄が買われていた。
今度の一戦でぶつかるのは、埼玉パナソニックワイルドナイツ。ブレグバゼ、クロッティが欠場した第16節での直接対決時は、14-35で敗れている。敵陣ゴール前でモールを押し込んだり、相手のキック処理のエラーを突いたりしてトライラインを割ったものの、向こうの看板たる防御ラインは一枚岩を保った。
今度のリベンジマッチでは、向こうの岩盤を崩す策とその遂行力が注目されよう。
クロッティは「細かい話を伝えるのは難しい」としながら、ワイルドナイツの壁に風穴をあける術について示唆。接点において「基本」を徹底し、ひとつの箇所に複数のタックラーを巻き込めるか。
「いいキャリーをすれば、前に出られる。そこでできたラックからクイックボール出せれば、相手のディフェンスがセットする時間もなくなる。そのような基本を、どれだけできるか(が鍵)。特にアタック時のブレイクダウンでは前回、相手に圧力を受けました。そこは練習で修正してきた点です」
試合は東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれる。ルディケは「プレーオフに出られる機会にエキサイトしています。しっかり準備ができています」と、力強く言った。