クラブの象徴とも言えよう。
小澤直輝は、東京サントリーサンゴリアス所属の社員選手。国内外のプロ選手がひしめくジャパンラグビーリーグワンのディビジョン1にあって、33歳の社員選手ながら爪痕を残している。
3月、複数社共同のオンライン取材に応じる。「こんにちは、小澤です。聞こえていますでしょうか」と切り出す。
「直近はリカバリー(激しい運動後もケア)も、昔より意識してやるようにはなっています」
ポジションはオープンサイドFL。身長182センチと一線級では大柄ではないものの、体重103キロのフィジカリティで繰り出すタックルとジャッカル、それらを継続的に繰り出す運動量と感性で光る。
相手のボールに絡む。奪いかける。ただし、そこで担当レフリーの注意を受ければ、笛を吹かれる前に撤退する。順法精神を示す。
「(守備時に)横(の選手)とのコネクションが取れていて、(接点に絡むかどうかの)判断が自分のなかでより明確になっていると感じます。きちんとレフリーの声も聴けていると思います」
全体練習後は、昨季までチームのS&C(ストレングス&コンディショニング)部門に携わっていた若井正樹氏(現・リコーブラックラムズ東京)から授かった「ZUU」というセッションに取り組む。動物の行動を模した全身運動で、機動力を高めている。
入部した2011年当時は、世界的選手と時を共にした。自身と似た体形でオーストラリア代表111キャップ(代表戦出場数)を獲得したジョージ・スミスから、多くを得てきた。
「ジョージ・スミスはいつも練習後に自分で道具を片付けていて、お酒を飲んだ翌日は朝6時からリカバリーをしていた。一流が行動で示すところが、チームのカルチャーになっています」
大物に学ぶかたわら、未来の大物候補とも切磋琢磨してきた。
昨年まであった国内トップリーグで最多タイとなる5度の優勝を味わったサンゴリアスには、毎年、大学ラグビーシーンの有望株が加わる。田中澄憲ゼネラルマネージャーの言葉を借りれば、このクラブの黄色いジャージィは「つかみにいくもの」だ。
熾烈な競争が課されるのは、今年発足したリーグワンにあっても同じ。2020年度明大主将の箸本龍雅、2021年度慶大副将の山本凱といった有望株が集うなか、小澤は最終節までにあった実戦13試合中10試合に出場。たくましさもつかんでいた。
力のある日本人選手が競い合うクラブの環境について、小澤はこう話したこともあった。
「チームとして、選手を成長させるプログラムを組んでくれます。また、いいお手本になれる選手がたくさんいます。その人たちが(プレーの)技術はもちろん、プライベートの際の規律の部分も、若い子たちに伝えられている」
今季2敗目を喫したのは5月1日。東京は味の素スタジアムでの第15節である。雨天下、東芝ブレイブルーパス東京に3-27で屈した。小澤の見せ場であるコンタクトシーンで、向こうの圧力が際立った。
「東芝さんは僕たちのボールキャリー(保持者)に対してタックルを2人で入って、サントリーのテンポを遅らせてきた。そこの差かなと」
組織対組織の領域でも、後手を踏んだ。
サンゴリアスはパスを出す選択肢を複数、作りながら攻め続けるのを理想とする。ところがこの日は、ブレイブルーパスの飛び出す防御にスペースを遮断された。
「たぶん、天候のこと(影響)もあって、(ブレイブルーパスの)ディフェンスラインが思い切り上がってきていて、(サンゴリアスの)ボールキャリーのオプションを消していたと思います。うちも1対2(人数の多い相手に圧力をかけられる状態)みたいになってしまって、アタックのシェイプもあまりうまく作れないままアタックを繰り返してしまい、ゲインライン(攻防の境界線)を下げられたり、ターンオーバー(攻守逆転)をされたりした」
再戦が叶う。21日に東大阪市花園ラグビー場であるプレーオフの準決勝で、サンゴリアスはリベンジの機会を得た。
ブレイブルーパスの防御を崩すべく、「(再戦までには)チーム全体として、中盤のエリアでどうアタックするかを考えなくてはいけない」と語る小澤は、この日も当時と同じく背番号7をつける。
ともに身長2メートル超というワーナー・ディアンズ、ジェイコブ・ピアスの両LO、リーチ マイケル、マット・トッドとそれぞれ日本とニュージーランドの代表でキャップを獲った戦士へタフに挑む。