「予期してなかったシナリオだった。運が味方してくれた」と試合を終えたロマン・ンタマックはインタビューで答えた。
欧州チャンピオンズカップ準々決勝、マンスター（アイルランド）対トゥールーズ（フランス）は延長戦を経ても決着がつかず、PK戦で勝者を決める激しい戦いとなった（24－24）。この大会でPK戦にもつれ込んだのは、2009年のカーディフ対レスターで争われた準決勝以来のことである。
「何から何まで信じられないことばかり。そもそもアビバでマンスターと試合をすることから信じられないこと」とンタマックが言う通り、マンスターのホームスタジアムであるリムリックのソーモンドパークが歌手のエド・シーランのコンサートで使用できないため、ダブリンのアビバ・スタジアムでおこなわれたのだ。それでもマンスターのサポーター『レッド・アーミー』でスタンドは埋め尽くされていた。
開始から速いテンポで激しく強度の高い試合になった。前半を同点で終え（14－14）、後半早々マンスターのFBマイク・ヘイリーがトライを決める。その後トゥールーズのLOロリー・アーノルドが危険なタックルで10分間退場と厳しい時間帯が続いたが、66分、トゥールーズボールのラインアウトからHOペアト・モヴァカのノールックパスを走り込んできたWTBマチス・ルベルが受け取り、マンスターWTBサイモン・ゼボをステップでかわしてトライ。
「今週練習していたプレーだった。まだ3点リードされていたけど、このトライで試合の流れが変わった」とンタマックは振り返る。
FBトマ・ラモスがその後のコンバージョン、そして10分後にこの試合で4度目のスクラムでのペナルティで得たPGを成功させ同点に追いつき、80分を終えた。前後半10分ずつの延長戦でもスコアは動かず、ついにPK戦へ。
各チームから3人のキッカーを指名し、ゴールに向かって右、左、中央に1人ずつ位置し、それぞれが22メートルから1本、40メートルから1本ずつゴールを狙う形式でおこなわれた。
「アントワンヌ（デュポン）は中央から、僕は利き足で狙いやすい左へ、ずっとプレースキックを蹴っているトマ（ラモス）が蹴りにくい右を担当することになった」とンタマック。
自分の位置につくと、同じ位置で待機していたマンスターSOジョーイ・カーベリーと談笑している。
「試合を振り返って互いの健闘を讃え合い、また互いの幸運を祈った。その後は何もかも忘れて自分の世界に入り込み、何百回もこのPKを蹴ってきたと自分に言い聞かせた。他の選手からのプレッシャーも感じず、禅の境地に入れていた」とPKを蹴る前の心境を語る。
まずマンスターのコナー・マレーとデュポンが22メートル正面から成功させる。続いて右からマンスターのベン・ヒーリーが失敗、ラモスが成功。左からはカーベリーが成功させ、最後に蹴ったンタマックはボールがポストの間を通過した瞬間、両手を突き上げてガッツポーズをした。
「最初の3本で決着が付かなかった場合のみ、引き続き40メートルからの2巡目があるものと思っていたから、これで勝ったと思ってポーズをしてしまった。でも誰も動かないからそうじゃないんだと気づいて恥ずかしかった。特にマンスターの選手に対して申し訳なかった。試合後、謝りに行った」とインタビューで打ち明けた。
ゴールから40メートルの地点から狙う2巡目ではマレーが失敗した後、デュポンは落ち着いて決めた。そしてその後のヒーリーの右からのキックが左にそれた。
試合開始から約3時間、やっと緊張から解放された。トゥールーズの選手たちもほっとしているが駆け寄って大喜びはしない。
「マンスターの選手やサポーターへのリスペクトだ。僕たちが彼らの立場になっていたかもしれない。もちろん勝てて嬉しいけど大騒ぎする必要はない」と対戦相手を思いやる。
「今季のチームのパフォーマンスには波があるけど、こんな試合にも勝つことができるんだ。この数週間でチームのレベルが上がってきている。まだ改善するべきところはあるけど自分たちのプレーができるようになってきた。今日は信じられないシナリオで最後に運が味方してくれた。今のチームのマインドセットを誇りに思う。1週間後またここに戻って来てレンスター（アイルランド）と対戦だ」とンタマックはインタビューを締めくくった。
レンスターは、プレミアシップ首位のレスター（イングランド）に23－14のスコア以上の力の差を感じさせて勝利している。また、トゥールーズはこの試合で19回ターンオーバーされているのが気になるところだ。100分間タフに戦った疲労もある。来週もハードな戦いになることが予想される。