ラグビーリパブリック

リーグワンのコミュニケーション不足が招いたレッドハリケーンズ戦、直前中止の背景。

2022.05.07

秩父宮ラグビー場に掲示された中止の発表(撮影:BBM)

 5月7日に予定されていたリーグワン・ディビジョン1の最終節、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪vsブラックラムズ東京の試合は、当日に中止が発表された。
 コロナ禍の影響で試合前日の23時ごろに中止となったケースはあったが、当日(試合開始約2時間半前)の中止発表は最終節にして初めて、きわめて異例のことだ。

 リーグはリリースの中で、「試合直前での中止を招き、ファンの皆さまならびに関係者の皆さまにご迷惑をおかけしていることを、深くお詫び申し上げます」と謝罪。
 試合会場となった秩父宮ラグビー場では、東海林一専務理事や太田治常務理事らリーグワンの幹部が試合開始時刻までの約3時間、ホストチームのブラックラムズが配布するベースボールシャツを受け取りに来場したファンに対して、繰り返し頭を下げた。

 同会場ではリーグへの憤りを隠せないドコモファンの姿や、中止を告げる掲示物を前に立ちすくむ高校生の姿も見られた。レッドハリケーンズの下沖正博GMは「ファンの方々に申し訳ないです。大阪や北海道、九州から来てくださった方もいると聞いていました」と話し、こう続けた。

「選手たちもこのメンバーでできる最後の試合だったので、スタッフ含めそれぞれにそれぞれの思いがあったと思います」

 レッドハリケーンズは今季終了後、シャイニングアークス東京ベイ浦安とチームの再編成をおこなう。そのため現体制のチームで戦う最後の試合だった。
 NTTドコモが運営するチームは、主に社員選手で構成されるなどチーム方針が変更されるため、来季はディビジョン3からスタートとなる見通しだ。

 リーグは勝ち点や再試合の可能性などについて、別途協議の上、あらためてリーグより決定、発表するとしている。東海林専務理事は「日程のこともあるので、早急に検討し来週の前半までに方針を決定します」。

 だがレッドハリケーンズに所属する海外選手は、週明けにはそれぞれの母国へ帰国予定。2週後には入替戦が組まれており、再試合は現実的ではない。仮に両チームに責任が生じない試合中止となれば、引き分け扱いで両者勝ち点2が与えられる。いずれにしても入替戦回避がかかっているブラックラムズにとって、勝ち点の扱いは死活問題だ。

 東海林専務理事はこの日、記者の取材に応じて約45分間、事の顛末を話した。レッドハリケーンズから同日にリリースされた試合中止に至るまでの流れに、東海林専務理事が話した内容やコメントを、下記の時系列の説明を加えた。
 

●試合中止に至るまでの経緯

5/2(月):選手・スタッフ全員にPCR検査を実施し、13人が陽性と発覚。結果と併せて再検査の実施をリーグへ報告。

5/3(火):再検査の結果、13人のうち7人が陰性者となり、リーグへも確認し試合実施を判断。併せて三度目のPCR検査実施を判断。

⇒毎週明けの定時検査(PCR検査)の結果を受け、保健所に陽性者の発生を報告するまでのプロセスは各チーム異なる。民間の検査機関の結果をもとに判断するチームドクターもいれば、医療機関で検査し専門医が出した結果をもとに判断するチームドクターもいる。後者は、ラグビーを専門とするチームドクターは感染症の専門家ではないという観点から、より専門的な医療機関で信頼性の高い判定を得るケースだ。RH大阪は後者だった。

RH大阪は通常、医療機関で定時検査をしていたが、今週はゴールデンウイーク期間中とあり、早めに結果の出る民間の検査機関で検査を予備的に実施。その後、保健所に報告するため、医療機関で2回目の検査(再検査)を実施した。

この流れについてリーグ側は適切なプロセスとして承知していたものの、1回目と2回目の検査で陽性者の人数に差異が生じたため(1回目から2回目で陽性者が7人も減った)、2回目の検査が定時検査として反映されることに対し、BR東京から疑義が生じた。検査機関での1回の検査で判断するBR東京側から見れば、RH大阪の2回目の検査は不要であり、公平性と安全性に欠ける。この点についてBR東京は、リーグへ問題提起をおこなっていた。

5/5(木):改めて三度目のPCR検査を実施し、1名を除く全員の陰性が確認できたため試合開始の48時間前である14時半にメンバー登録を実施。
⇒1回目と2回目で陽性者の人数に差異があったため、3回目の検査も実施された。

5/6(金):20時頃にリーグから改めて時系列の確認が入り、5/3の再検査が認められない可能性があると通達。状況を確認すると5/3の再検査の話がリーグ内で伝達されていなく、判断ミスをしたと突然の通達。チームは保健所からも陰性と認められて試合を行えることを主張したが、試合を中止する方向となった。

⇒リーグはBR東京にRH大阪の検査結果こそ伝えていたが、2回目や3回目の検査をする経緯の説明や合意形成を怠り、問題提起への解答も遅れた。そうしたコミュニケーション不足により、5月6日になってから問題が一気に噴出。結果、両チームが納得する解を導くことができなかった。「マネジメント不能に陥った」

相互の信頼のもとに試合をできる手立てを失ったため、東海林専務理事は23時ごろに中止の可能性があることを下沖GMに伝えた。「6日におこなった議論の材料は、3日には挙がっていた。そこで議論すべきだった。3日に方向性を見出せていれば、ファンやチーム、選手に多大なご迷惑をおかけすることはなかった」

5/7(土):9時半にリーグから正式に中止を案内される。

⇒RH大阪に加えて他チームに対して試合中止を説明、10時半ごろ終了。リリースの文言を書く上で三者(リーグ、RH大阪、BR東京)の調整が一部必要だったため、発表が12時前となった。「それもミスであり、ファンの方々に一刻も早く伝えるべきだった」

 レッドハリケーンズは前節でもコロナ禍により試合中止を余儀なくされ、最後のホストゲームを開催することができなかった。だが試合当日は急遽呼びかけた場内イベントに、約850人ものファンが来場。
 下沖GMは感謝を述べ、「直接、お礼を言いたいという選手たちがたくさんいます。ファンの方々はコロナになってから、南港のグラウンドにもなかなか来られない状況でした。なので、そうした機会をぜひ作りたい」と話した。

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