愛称は「ジェイ」。横浜キヤノンイーグルスへ入りたてのシオネ・ハラシリが、リーグワンの終盤戦でインパクトを残している。
出場が解禁された4月以降、第12節からの4試合で4トライをマーク。公式で「身長180センチ、体重120キロ」という体躯で壁を破る。守っては地面の球へ絡み、向こうの反則を誘う。
1試合あたりの平均出場時間は約16分と短いだけに、かえってインパクトがある。本人は笑顔だ。
「リーグワン、楽しいです」
いずれもバックロー(FW第3列)としての途中出場だが、直近の第15節へは左PRの控えとしても準備した。母国トンガから来日して目黒学院中、高を経て入った日大でも、スクラムを最前列で組むこの位置へチャレンジしてきたのだ。
ずっと主戦場としてきたFW第3列のNO8では、自身よりも上背のある選手が好まれるかもしれない…。国際市場をシビアに見立て、冬に合流したイーグルスでスクラムの「テクニック」の習得にいそしむ。
「大学の時は(シンプルに)組むだけでしたけど、リーグワンでは(首尾よく組むために)テクニックがないといけない。いまは、相手よりも速くセットする(姿勢を作る)ことを意識しています。日本代表に入るには、PRをやりたい」
沢木敬介監督は、デビュー当初こそリーグワンに慣れさせるため「ジェイ」をFW第3列で起用。ただし中長期的には、背番号1を競わせる構えだ。
着任前の2018年度、チームは前身のトップリーグで16チーム中12位と苦しんでいる。大卒選手の獲得に苦労がついて回りそうななか、沢木監督は自身の母校でもある日大の「ジェイ」をかねて注目していた。
「(サイズが)小さいから、他のチームからは声がかからないかも…とは思ったんです。ただ、あれだけリーグでトライを取って、あれだけジャッカルをしている。そんなこと、何かがないとできない。(実際に)ラグビーセンス、ありますよ。トライを取れるところでボールタッチをする嗅覚、みたいな」
確かに、日大の加盟する関東大学リーグ戦1部で貴重なトライを奪ってきている「ジェイ」。個性を活かし、急上昇中のクラブと縁をつないだ。
今季は途中まで12チーム中4位と上昇気流に乗るクラブにあって、「先輩も優しいです。チームは雰囲気がファミリーみたい」。クラブが重視する実戦仕様の練習メニューにも、首尾よく対応する。栄養指導によりファストフードを控え、体重はこの数か月で約「3キロ」も減らした。
「日大では練習が1日2回ありましたけど、ここでは1日1回。午後はリカバリーができる。(沢木監督からの要求は)『ぶち当たれ!』って。いつも、アタックのことを言われています」
最終節を残し、4傑によるプレーオフへ行ける可能性はすでに絶たれている。それでも「ジェイ」は、明るい未来を切り開くためいまの戦いに挑む。