ニュージーランド代表41キャップ。ラグビー王国のトップランナーとして多くの代表戦でプレーしてきたパトリック・トゥイプロトゥが、日本でも本領を発揮した。
4月30日、東京は秩父宮ラグビー場。新加入していたトヨタヴェルブリッツのLOとして、リーグワン・ディビジョン1の第15節に先発する。リコーブラックラムズ東京に64-17と大勝するまでの間、防御を突き破る突進と強烈なタックルを重ねる。
身長198センチ、体重120キロの29歳。試合後の会見で笑う。
「どのような状況でも満足をせず、戦い続ける。そのマインドセットで今節をおこないました」
前身のトップリーグ最終年度では4強入りのヴェブルリッツは、十分な戦力で知られる。昨季は当時2年目で元ニュージーランド代表主将のキアラン・リードをNO8で、オーストラリア代表主将で1年契約だったマイケル・フーパーをFLで登録。限られた外国人枠をきらびやかにした。
今季もトゥイプロトゥ、さらには南アフリカ代表58キャップのピーターステフ・デュトイといった大物の補強で、開幕前から話題を集めていた。各国の代表経験者は17名と、ディビジョン1では4番目に多い。
ところがふたを開ければ、第14節までで9勝5敗。中盤戦では昨季8強の横浜キヤノンイーグルス、同16強の東芝ブレイブルーパスとの直接対決でも敗れ、順位で上回られていた。
ブラックラムズ戦で躍動できた背景には、名将のひと声があった。
前節の静岡ブルーレヴズ戦を18-15と辛くも制したのち、チームは複数のミーティングを実施。結論として、3月上旬に合流したディレクター・オブ・ラグビーのスティーブ・ハンセンが「テイク」という標語を紡ぎ出したようだ。
FLの古川聖人は補足する。
「このチームにいい選手、いい人間、いいコーチングスタッフが集まっている。ただ、うまくいかない状況に対して、チームではなく、個人、個人でプレーしてしまったり、自分でコントロールできないところにチームでフラストレーションをためてしまったりということがありました。そのなかでの気づきが、『テイク』というマインドセットに行きついたのかなと。自分たちでコントロールできることだけをコントロールしにいく…。(主導権を)相手からテイクしにいくことは、自分たちでコントロールできる…と」
ハンセンは、2019年のワールドカップ日本大会までニュージーランド代表のヘッドコーチとして活動。この日の殊勲者となったトゥイプロトゥにとっては、出世を支えてくれた恩師でもある。
ハンセンがヴェルブリッツにもたらしたもの、ハンセンと自身との関係について、トゥイプロトゥはこのように語る。
「スティーブはチームに合流してから、マインドセットの部分で影響を及ぼしてくれている。スティーブは私の人間性や、私にとって何がモチベーションになるかを知っている。そうしたことで私はトヨタ行きを決めましたし、それはいい判断だったと思っています。最高のラグビー選手になることはできないと思いますが、日々、切磋琢磨することはできるとは思っている。それをスティーブは、いい形でプッシュしてくれます。私はサイズがあるのでスピードを武器にすることは難しいです。そこでスティーブは『最初の5メートルを速く動け』と促すのです」
戦力を得点板に反映させたこの日は、暫定4位に浮上した。5月1日の他会場での結果を受けて5位となったが、4チームからなるプレーオフへの道は絶たれていない。5月7日、目下首位の東京サントリーサンゴリアスとレギュラーシーズン最終戦をおこなう。場所は本拠地のパロマ瑞穂ラグビー場だ。
「ほかの状況で自分たちの結果が変わってくることは承知しています」とトゥイプロトゥ。来季以降の去就を踏まえてか、「日本に来てよかったという思いと、帰りたくないなという思いで、複雑です」とも語った。