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イーグルスのジェシー・クリエル、オミクロン株拡大で入国遅れも「試合ができれば幸せ」。

2022.04.29

横浜キヤノンイーグルスのジェシー・クリエル。南アフリカ代表51キャップ(撮影:Hiroaki.UENO)


 加入3季目にあたる2022年シーズンも、随所に持ち味を発揮する。

 タックル、ラン、オフロードパス…。身長185センチ、体重95キロと大きく、強くて速い。

 横浜キヤノンイーグルスのジェシー・クリエルはいま、クラブ初の国内4強入りへまい進している。

 4月23日にはホストエリアにある日産スタジアムで、3位の埼玉パナソニックワイルドナイツとの第14節を24-33で落とす。5位に下降した。

 ただ、4位の東芝ブレイブルーパス東京との勝点差は3。イーグルスは残り2試合で最大10の積み上げができるとあり、生気は保っている。

 なかでもクリエルは、クラブ有数の国際経験を誇るアウトサイドCTBとして期待を集めているだろう。

 2019年には南アフリカ代表の一員として、ワールドカップ日本大会で優勝した28歳。ひとつひとつの勝利を目指しながら、もうひとつの目標も達成したいという。

「いまのところ、キヤノンでは感染者がひとりもいないのがラッキーです。毎週、毎週、試合をすることが大事で、これからもキャンセルがないよう祈っています。毎週、試合に向けて準備して、試合をする。それができれば幸せです」

 話をしたのは2月中旬。通訳のいるクラブハウスと自宅、記者の出先をつないだオンラインでの取材機会でのことだ。確かに当時からいまに至るまで、自軍の感染者発生を起因とした試合中止は経験していなかった。

 自分や仲間のほか、会場へ訪れるファンにもメッセージを添える。

「ラグビーの試合よりも皆さんの健康と安全が大事。それを祈っています」

 母国の南アフリカで新型コロナウイルスのオミクロン株が発見されたと知れ渡ったのは、昨年11月のことだった。

 当時のクリエルはヨーロッパでの代表活動を終えたばかり。一時帰国を経て年内にはチームに戻る予定だった。ところが変異株への対処のため、日本の水際対策が見直される。クリエルが空を飛んだのがちょうどそのタイミングだったため、トランジット先の韓国でとんぼ返りをすることとなった。

 同乗していたトヨタヴェルブリッツのウィリー・ルルーとともに、短期間で丸一日前後のフライト。陽気なクリエルとて、「イライラしていた。早くチームに合流したかった」。いったん帰国したのち、アフリカ東海岸のインド洋上にあるザンジバルへ渡った。隔離のためだ。

 ザンジバルには約14日間、滞在した。自身やルルーのように、リーグワンへの参戦予定が狂った南アフリカ代表勢も一緒だった。砂浜を走ったり、木材や石が利用された簡素なトレーニング器具で負荷をかけたりして、ゲートが開くのを待った。

「ここでコロナにかかってしまっては、また帰国しなくてはいけなくなる。ザンジバルにいる間は、走る時もなるべく人と遭遇しないようにするなど、身の周りには気を付けて過ごしていました」

 ザンジバルからの日本行きが叶い、国内での隔離を終えてイーグルスに合流したのは1月中旬頃か。1月23日の第3節から試合に出始め、いまに至る。周りへ頭を下げる。

「帰国させられてからも、イーグルスの方々には私がどういうルートを取れば日本に来られるかを探ってくれた。とても感謝しています。コーチ陣とはまだ南アフリカにいた頃からLINEで連絡を取り合っていました。そしてこっちへ来れば、身の回りにいるいい選手にいろいろと(合流前のチーム状況や戦術を)教えてくれます。それで、うまく(チームに)フィットできました」

 もともとはパートナーとの渡航を希望していたが、ビザの取得が難しいためずっと単身で日本に訪れる。

 それでも自らの不遇についてはあまり触れず、改めて周囲の「安全」を祈っている。

「周りには家族みたいなチームメイトがいる。それに、長らく子どもに会えていない外国人選手もいます。自分はまだラッキーな方です」

 リーグワンのクライマックスを戦ういまは、社会情勢と対峙した日々の延長線上にある。シーズン終了を告げるプレーオフの決勝は、約1か月後にある。

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