白地に黒で「7」と刻まれたジャージィ、黒いヘッドキャップをつけた山本凱が、自軍にいるニュージーランド代表のダミアン・マッケンジーの右隣りから駆け上がる。
4月24日、東京は秩父宮ラグビー場でキックオフを迎える。国内リーグワン1部でのデビュー戦だ。東京サントリーサンゴリアスのFLとして、リコーブラックラムズ東京とぶつかる。
笛が鳴り、FBのマッケンジーの放つ弾道が宙を舞う。山本はほぼ一直線に走る。
サンゴリアス側から見て右にいたブラックラムズの捕球役が、グラウンド中央付近にパス。それを受け取ったばかりの走者の足元へ、「7」が、刺さる。
なぎ倒した相手はNO8に入ったアマト・ファカタヴァで、山本より18センチ、20キロも大きい。「7」が濡れた芝の上で拍手を浴びるなか、灰色のジャージィの「8」の真上を白いジャージィの面々が通過する。ターンオーバー。
勢いを生んだファーストプレーについて、「意識が頭にあって、来るな…と思って、(間合いを)詰めました」。この時の相手の動きが、サンゴリアスのセッションでも想定していたものと重なったようだ。内なる手ごたえを淡々と続ける。
「結構、(タックルが)きれいに決まったんで、『これ、(味方が接点の上を)越えられそうだな』という感触でした」
サンゴリアスはそのまま簡潔な突進、パス、陣形の整備を重ねる。その間、山本も肉弾戦でファイトする。1分前後で先制点を奪う。
今度の第14節では結局、フル出場を果たす。30-3のスコアでシーズン13勝目(2つの不戦勝を含む)を挙げるまで、タックル、突進で爪痕を残す。
「何も考えずにエナジーを出してやっていこうと思っていた。いいメンタルでできました」
身長177センチ、体重98キロ。一線級のFLにあってはやや小柄も、慶応高、慶大にいた頃から国内有数のクラッシャーとして知られた。
年代別代表に入れば、強豪国の有望株へインパクトのあるタックル、ジャッカルを浴びせた。元サンゴリアスで慶大監督の栗原徹氏には、下級生の頃から「2019年(ワールドカップ日本大会)には間に合わなかったとしても、2023年(同フランス大会には)手を挙げて欲しい」と言わしめた。
複数クラブから関心が集まるなか、国内外の俊英が集うサンゴリアスを選んだ。合流したのは今年の冬頃から。関係者によると、公式戦出場が解禁される前の練習試合で持ち味を発揮していた。主力組で爆発するのは時間の問題だったか。
東京は府中市内の練習場でしのぎを削るのは、サンウルブズの練習生としてスーパーラグビー行きに迫った箸本龍雅をはじめとした大器たちだ。さらに実戦練習で何度もマッチアップするのは、NO8のテビタ・タタフら各国の代表勢だった。
フレッシュな「7」が今回、リーグワンの圧力に動じなかったのは、自然な流れだった。
「サントリーで強い人たちと日々、練習している。それに慣れていたので、(試合での激しさにも)うまく対応できた。いつも練習で、テビさん(タタフ)とかに吹っ飛ばされている。強度の高い練習に食らいつこうとしているところが、自分の成長につながる」
ミルトン・ヘイグ監督は言う。
「彼は姿勢やフィジカリティの部分でコーチにいいアピールをしていたし、選手たちからも求められる存在になっていた。この試合のスターターを勝ち取るまでに、いい働きをしていました。本当に将来性のある、より素晴らしくなる選手です。継続して、自分が成長させるべき点に取り組んでいって欲しいと思っています」
レギュラーシーズンは2試合を残すのみとなった。5月下旬からのプレーオフへの1位進出が期待されるサンゴリアスは、5月1日、第15節で目下4位の東芝ブレイブルーパス東京とぶつかる。山本はこうだ。
「何回もタックルに行って、しっかり相手を倒して…。強みを伸ばしていけたらと思います。今後の目標は、サントリーでスタメンを勝ち取って継続して試合に出続けることですね、はい」
クライマックスの緊張感も味わいたい。