新入社員の研修と練習を両立させ、2022年度組のデビュー一番乗りを飾った。
飯沼蓮。昨季の明大主将で、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安所属のSHだ。
加盟するリーグワンでの出場が解禁となった4月から、第12、13節終了までに2試合連続で先発フル出場を果たす。テンポよく球をさばき、防御の穴を素早く埋める。
直近のゲームでは横浜キヤノンイーグルスに5-35と敗れるも、ロブ・ペニー監督からの評価は高いままだった。会場の東京・秩父宮ラグビー場で、指揮官はこう述べる。
「飯沼は若くて才能のある選手。日本のラグビー界に長期的にいいインパクトを残すと思います。きょうはFW(接点)が負けている展開でしたが、そのなかでもいいパフォーマンスを示していた。それが彼の選手としてのよさを物語っている」
飯沼は規律を重んじる。本人が大学2年時、専門誌の取材に応じた折のこと。撮影用に明大の「9」のジャージを着ていた青年は、ふと風で目の前に飛んできたビニール袋のようなものを拾い、自分の懐か脇にしまった。
4年で主将となるや、神鳥裕之新監督が打ち出す「凡事徹底」という言葉に共感したと強調。果たして、2季ぶりに大学選手権決勝へ進出。帝京大に14-27と敗れて頂点は逃すが、「やり切った感があった」。ラストゲームに至るまで、悔いなき道を歩んでいたからだ。
加盟する関東大学対抗戦Aを5勝2敗の8チーム中3位で終えた後、最上級生同士で練習の精度や強度を見直した。
何より、自身の在り方を見つめ直した。実直かつ、挑戦心のあるSHとなるよう意識したのだ。果たして最後の選手権では、好守でピンチを救うこともあった。
殻を破った背景は。
田中澄憲前監督(現・東京サントリーサンゴリアスのゼネラルマネージャー)、2018年度主将でSHの福田健太(現・トヨタヴェルブリッツ)の言葉を思い返した。
「よくキヨさんには、『お前はまじめ過ぎる。それがプレーに出ている。健太さんみたいに相手の嫌なところを見つけ、スキを突く意地悪なプレーをしていけ』と言われていた。2、3年の頃にはそれができるようになっていたんですけど、4年生になると、難しくて…。特に対抗戦ではチームにフォーカスしすぎて、自分にフォーカスできない時期があって。前は『ここをこう攻めたい!』とわくわく感を持ってプレーしていたんですが、(一時は)形にはまりすぎて、正統派になり過ぎていた。キヨさん、健太さんに相談した時、『試合中はプレーがリーダーシップになる』と。この時は大石(康太・副将)、江藤(良・寮長/現・横浜キヤノンイーグルス)にも『チームのことは俺たちに任せていいから』と言ってもらいました。そこで、自分の強みは何なのだろうと考えた。選手権では、自分が100パーセント満足できる動きはできなかったですが、チームにいい影響を与えられたのはよかったです」
約90人の部員を引っ張る立場で、発露すべき自我を発露してきた。その経験を踏まえ、新社会人としての抱負をこう述べていた。
「この1年、組織をまとめる大変さがわかりました。皆が満足できるようにまとめられたかはわからないですが、この経験は会社員としても活かせると思います。リーグワンに行ってもリーダー的な立場にいたいです。もともとSHはそういうポジションなので。控えめになるんじゃなく、持ち味をアピールして、チームを引っ張る存在になりたいと思っています」
チーム内での評価は上々だ。元スコットランド代表主将でSH兼SOのグレイグ・レイドローは、「飯沼のキャラクターで突出しているのは競争心」と見立てる。ここから続く言葉には、チーム作りにおける普遍がにじむ。
「そのようなマインドの選手をリクルートしていくことはチームにとって大事なことです。勝つ意欲の強さは、ラグビー選手としての能力よりも重要です。もちろん彼は、選手としての能力も高いのですが」
飯沼の、シャイニングアークスの「競争心」が本当に問われるのはこれからだ。現在チームは12チーム中11位。序盤に不戦敗が重なったこともあり、思うような成績を残せずにいる。
活動を見直すNTTドコモレッドハリケーンズ大阪を除く下位2チームは、下部との入替戦に出る。シャイニングアークスがその事態を回避するには、まず目の前のゲームで勝ち切ることが必須だ。次節は柏の葉公園総合競技場であり、実戦未勝利で12位のNECグリーンロケッツ東葛が相手である。