自分たちの形を信じ、忠実に取り組む。静岡ブルーレヴズの名嘉翔伍スクラムコーチは、開幕当初から言い続けていた。
「ルール、レフリングによるマイナーチェンジはありますが、大きな美学みたいなのは変わらないんですよ。自分たちが美しいと思っているスクラムを、このルールのもと、今年、どう出すか、です」
ブルーレヴズのスクラムの原型を作ったのは長谷川慎アドバイザー。前身のヤマハ発動機ジュビロで2011年からFWコーチを務め、かねて考案していた「コアの短い日本人に合ったスクラム」の形を落とし込んだ。
互いが密着する手順、姿勢を作る際に地面へ噛ませるスパイクのポイントの数といった、FW8人が一枚岩となるためのメソッドを順次、言語化。2014年度の日本選手権制覇、同年からの国内トップリーグ5季連続4強入りを支えた。
長谷川は2016年秋から日本代表のアシスタントコーチとなり、自前の型を国の基準にした。2019年のワールドカップ日本大会でアイルランド代表の塊を崩したシーンは、記憶に新しい。
2011年に明大からヤマハに入部の名嘉は、社会人となってからポジションを後列のLO、FLから最前列のHOに転向。一時は故障に泣かされながらも、いまなお主力を張る元日本代表の日野剛志と定位置を争ってきた。
昨季はプレイングコーチを務め、今季から指導に専念。サンゴリアスやサンウルブズの指揮官を務めた大久保直弥ヘッドコーチには「僕のコーチ1年目の時よりもいい」と評されるが、本人は実践を伴わない形でのコーチングに試行錯誤を重ねていた。
「去年は自分が実際に(練習の)なかに入っていたので、『いま、こうでしょ?』と(組んでいたスクラムの)すべてが理解できていたんです。身体全部がセンサーになるから、(内部での)力の抜け、漏れがすぐにわかった。それで『4、5番、こうして』『1、3番、肩は合ってる?』と(対応策)がすぐに出てきた。ただ、いまは(そばで見て)ひとり、全体に対して瞬発的にコーチングをしなくてはいけない。身体の使い方、作りが僕と違う場合には選手には、(自分が感じたものと)同じことを言っても伝わらないことがある。その、難しさはあります」
果たして今年発足のリーグワンにあって、シーズン中盤の日野は「もっとできる。もっとブルーレヴズらしいスクラムを組める」。立ち合いで相手に変化をつけられたり、笛への対応に戸惑ったりした時にエラーを起こしていたようだ。こうも述べる。
「レフリー(の解釈)や相手のやり方が思っていたものと違った時、『あれ? あれ?』となるとなかなか対応できない。そういう時に何が大事か。『相手がこうだからこう』ではなく、『まずは自分たちの形にフォーカスしてやってみよう』なんです」
裏を返せば、自分たちの形を抜かりなくおこなえば好感触を得られる。第8節以降から先発出場を続ける日野は、さらに語る。
「スクラムでは、(最前列両脇の)PRが考えなければいけないことが多い。ただきつい時って、いろいろと(必要な手順を踏む意識が)抜けちゃうんです。そこで僕は、どんなにきつい状況でもいいセットアップを組めるように(周りを)助ける。感覚的に『違うな』と思ったら、『○○できてる?』『××を意識して』と言う。それで(指摘された選手が)ハッと気づくことで、いいスクラムが組めることもあります。何かうまくいかないことがあったら、ブルーレヴズという軸に立ち帰りましょうということです。その軸が大きければ大きいほど、ぶれないと思うんですよ」
いつでも「自分たちが美しいと思っているスクラム」を組む。いわばテーマは「再現性」か。名嘉も前から話していた。
「どうやって再現性を出すか、です。いまは、リーグワンでスクラムが強くなったチームの選手はほぼほぼ慎さんから指導を受けたり、何かしらのエッセンスをもらったりしている。状況としては大変です。ただ、そのなかでも当たり前に勝ち続けるスクラムを追っていく。追い続ける。そうして、ヤマハスタイルから進化したレヴズスタイルができると思います」
チームはいま、世代交代と戦法のアップデートを進めている。感染症の影響で計4試合を不戦敗としながら、第13節までにおこなった実戦は4勝5敗。トータルでは4勝9敗で、12チーム中8位につける。
ただし第11節では、昨季日本一となった埼玉パナソニックワイルドナイツに25-26と迫った。横綱を土俵際に追い込み、ファンを魅了した。
その中心軸には「ファイブハーツ」という普遍的なプレースタイルがあり、その一端を担うのは「KSC」。スクラムを指す。指導陣、選手を刷新しながら、様式美を勝利に直結させたい。
23日、本拠地のエコパスタジアムで第14節に挑む。目下6位のトヨタヴェルブリッツを迎える。