さながら山の天気だった。
4月10日、岐阜メモリアルセンター長良川競技場。トヨタヴェルブリッツは、好プレーの後にエラーを犯した。
この日はリーグワン・ディビジョン1の第12節で、東芝ブレイブルーパス東京と対戦。後半14分までに17-32と15点差をつけられながら、その12分後までには31-32と肉薄する。しかし、要所で隙を突かれた。
ハイライトは、1点差に迫った直後の攻防である。ヴェルブリッツは自陣の深い位置まで攻め込まれ、トライラインを背負う。
この瞬間こそ、3人がかりの防御で失点を防いだ。直後のインゴールドロップアウトは、ハーフ線よりも向こうへ蹴り込めた。
悔やまれるのは、この先だ。ドロップアウトからのボールを複数の選手が列をなして追っていたが、切り返しにかかる走者にあっさりと前に出られる。SOのトム・テイラーのパス、FLのリーチ マイケルのランとオフロードパスが重なる。
間もなく、ヴェルブリッツ側から見て左端のスペースをCTBのセタ・タマニバルが破る。最後はこの日が誕生日の徳永祥尭にフィニッシュ。ヴェルブリッツは31-39と突き放され、終盤にも加点された。31-53。
ヴェルブリッツの11番、高橋汰地は、例のピンチでトライを防いだ1人だ。手痛い敗戦をこう総括する。
「せっかくインゴールで抑えても、その後に簡単に(トライを)取られてしまう。全部は細かいミス(が要因)。それで、いい波に乗れなかったのかなと。誰かがいいプレーをしたら、その波に乗って全員がいいプレーをし続けていれば、自ずと結果が出ると思うんですけど…」
今度の80分で、それぞれ5位、6位としていた順位は入れ替わった。ランクを落としたヴェルブリッツは、上位4強によるプレーオフ行きへ厳しい条件がつきつけられている。ただし収穫があったのも確かで、そのひとつが高橋の復調ぶりだった。
高橋は昨年11月の日本代表合宿で、左足首のじん帯を断裂。今年1月からのリーグワンでは、3月18日の第10節(対 横浜キヤノンイーグルス/東京・秩父宮ラグビー場/●9-20)から出場を果たしていた。
復帰3試合目となった今度のブレイブルーパス戦では、前半15分、後半24分と、抜け出す味方を援護する形で計2トライをマーク。爪痕を残した。
さらに際立ったのは、5点差を追う前半29分のワンシーンだ。
ハーフ線付近左の自軍ボールラインアウトから展開が始まると、高橋は、左中間のラックからの球を左端で受ける。加速して目の前のスペースを駆け上がり、飛び出す防御の裏側へキック。インゴールまで弾道を追う。
果たして、その左隣を走っていた姫野和樹がグラウンディング。直後のコンバージョン成功で、17-15と一時リードを奪う。高橋は、トップスピードの状態で相手の裏をかいた背景をこう語る。
「うまく内側の選手がボールをつないでくれたことで、前にスペースがある、スピードに乗れる状態でした。後ろにも大きな(キックを蹴り込める)スペースがあった。そこは、試合の準備の段階から狙っていけと言われてきたところです。以前の自分よりは、プレーの幅が広がっているとは思います。スキルアップしているのかなと」
身長180センチ、体重91キロの25歳。明大の4年だった2018年度は大学選手権を制覇し、ヴェルブリッツでも早々に出番を得た。昨季は前身のトップリーグで9トライを奪い、日本代表に初選出された。
その代表のキャンプでけがを負うのだが、その際も、得るべきものは得た。途中離脱を回避し、国内外でのツアーに帯同。代表戦へ挑むチームの日常に触れた。
「(足首を痛めていたため)無理して帯同するのが正解だったかどうかはわからないですが、ひとつひとつのレベルが高い環境で練習できて、どういうコミュニケーションを取ったら(周りの選手が)やりやすいのか、試合では内側の選手は(WTBに)どんな動きをして欲しいと思っているのかなど、それまで深くは考えてなかった部分についても勉強させてもらいました」
かねて有する爆発力の活用方法について、再考するきっかけを得た。
帰国後はメスを入れないながらも、コンディション回復を優先させた。ようやく復帰が叶ったいまは、秋に得られた無形の財産を活かしにかかっている。チームが安定感を求めながらシーズン終盤を迎えるなか、希少なXファクターは期待を背負う。
16日、大阪のヨドコウ桜スタジアムでのNTTドコモレッドハリケーンズ大阪戦にも、持ち場のWTBで先発する。