互いに圧をかけ合った。相手の強みを削ぐためだ。ロータックル、接点の球への絡みは、どちらにとっても不可欠だった。
3月27日の昭和電工ドーム大分では、ホストの横浜キヤノンイーグルスが東京サントリーサンゴリアスを迎える。今年度発足したリーグワンのディビジョン1の第11節。連続攻撃に矜持を持つ者同士が、衝突を重ねた。
サンゴリアスのインサイドCTBで日本代表副将の中村亮土主将は、「僕らとしては、自分たちのアタッキングラグビーをするためには(攻撃中の)ブレイクダウンをクリーンにしないといけない」。80分を通してのコリジョンを総括する。
「そこで(相手が圧をかけて)スローにするのはわかっていたので、そこ(攻撃中の接点へのサポート)をいつも以上に意識して準備しました」
最後は27-40。もともと首位のサンゴリアスが4位だったイーグルスを下した。試合時間が残り10分を切った後もイーグルスは27-28と競り合ったが、最後は、力尽きた。
就任2年目の沢木敬介監督は、「こんなもんじゃないすかね、まだ、うちは」。もともと前身のトップリーグで一時16チーム中12位と低迷していたクラブの進化を実感しながら、自分たちがいるべきステージをより高いところに置いた。
「サンゴリアスに対して、善戦して、以前のイーグルスだったら喜んでいると思います。ただ、それが悔しさに変わって…。そういう選手が増えていって…」
サンゴリアスの田原耕太郎コーチングコーディネーターは、「選手たちのパフォーマンスに満足しています」。この勝利により、異なるカンファレンス同士の交流戦を首位で走り抜けた。
「難しいゲームになるのはわかっていたんですけど、すごくタフなゲームのなかで、ここにいる亮土主将を中心に選手がアジャストしてくれて勝ってくれた」
ここでの「難しい状況」の背景には、対戦相手との関係性があったか。沢木は2018年までの3シーズン、サンゴリアスを指揮。前身のトップリーグでは2016年度から2連覇を達成し、それ以前も選手、コーチとしてこのクラブの栄華に携わっている。
「いろいろな感情は出ちゃうゲームなので、『いつも通りやれ』ということは大事にしたポイントです」
田原がこう語る一方、沢木はこう述べた。
「僕も、梶(インサイドCTBで今季新加入の梶村祐介)も、サントリーで育っています。サントリーのDNAが入っています。僕らはサントリーで育てられたと、自覚しています。ただ、いまはそういうチャンピオンチームだった、勝ってきた文化があるサンゴリアスにチャレンジできるという、そっちの喜びの方が大きくて。特別、意識しているわけじゃないですけども、より勝ちたいなという思いはありますね。はい」
イーグルスはキックオフから仕掛けた。右利きでSOの小倉順平が蹴ると見せかけ、隣にいた左利きのFB、エスピー・マレーに手渡した。マレーが右奥に蹴り込み、相手の蹴り返しをFLのコーバス・ファンダイクがチャージ。攻め始める。
先制したのもイーグルスだった。前半12分。敵陣10メートル線付近左のラインアウトから、NO8のアマナキ・レレイ・マフィが中央で突進。ラックを作る。
ここから多角度的なパスを交え、左、右、左とポイントを形成する。左端から右への折り返しで、小倉が、局面を打開する。
相手FWの隙間を潜り抜け、最後はサポートについたファンダイクがフィニッシュした。コンバージョン成功もあり、スコアは7-0となった。
サンゴリアスもタフだった。開戦早々の守勢局面ではNO8のテビタ・タタフが強烈なタックルを放ち、落球を誘う。その直後にグラウンド中盤で攻められれば、CTBの中村亮土、FLの小澤直輝がダブルタックルをさく裂させる。走者を押し返したとみるや、LOの辻雄康が加勢。こちらでもノックオンを引き出す。
何より要所では、好判断でも魅した。
7-5と2点差を追う前半25分。相手のキックオフを自陣22メートルエリア右で受けるや、接点の後ろからSHの流大がボックスキックを放つ。
WTBの尾崎晟也が再獲得すると、サンゴリアスは左へつなぐ。ハーフ線に近づいたところで、流は、低い弾頭を放つ。
奥側の相手が前がかりになっていたのを、見逃さなかったのだ。
イーグルスは駆け戻って蹴り返すも、サンゴリアスはハーフ線付近からのカウンターで右側を攻略。FBで先発していたダミアン・マッケンジーの、中央の防御に近づきながらのパスが効いたか。
右、左と順にフェーズを重ね、タップキックからの攻めもミックスさせ、まもなくイーグルスに反則をさせる。マッケンジーのペナルティゴールで7-8と勝ち越せた。
10-8と逆転されていた33分には、敵陣10メートル線エリア右中間で中村亮土が左大外へキックパス。イーグルスの防御が、自分たちから向かって左から右へとせり上がるのを見切った。
受け手はWTBのテビタ・リーだ。昨季トップリーグのトライ王は、複数名のタックラーを振りほどいて約30メートル、快走する。コンバージョン成功。10-15。中村亮土は言った。
「準備段階から、外側のディフェンスが上がってきてあそこが開くと把握していました。頭がクリアな状態でできたので、精度もよくああいうトライにつながったと思います」
サンゴリアスは10-18とリードしてハーフタイムを迎えようとしていたところ、終了のホーンが鳴る直前にタッチラインの外へ蹴る。イーグルスが期せずして迎えた得点機。敵陣22メートル線エリアのラインアウトからフェーズを重ね、数的優位を作った左のスペースでマレーが仕留めた。17-18。そして、互いにスペースとテンポを競い合うようなシーソーゲームは後半も続いた。
10分、イーグルスが防御ライン上で反則を犯す。マッケンジーが約40メートルの距離のペナルティゴールを決める。17-21。
12分、イーグルスが敵陣22メートル線付近中央やや左よりの位置で自軍ボールスクラムを獲得。サンゴリアスがコラプシング。マレーがペナルティゴールを沈める。20-21。
16分には、イーグルスの反則で敵陣22メートルエリア左に進んだサンゴリアスがラインアウトからの特殊なプレーでHOの中村駿太がトライ。ゴールキックも決まって20-28と突き放しにかかったが、イーグルスは、沈まなかった。
カンフル剤は山菅一史。8点差をつけられる直前に登場のSHだ。ハーフ線付近左からのキックをインゴールエリアまで通す。弾道を自ら追う。
直後のインゴールドロップアウトからはCTBのジェシー・クリエルが、マフィが、整備された防御に仕掛ける。敵陣22メートルエリアで球を保持するうち、接点でサンゴリアスの反則を誘う。ラインアウトからのモールでもさらにペナルティキックを得ると、しばしのアドバンテージを経て山菅がタップキック。LOリアキ・モリにパス。27-28。
1点差に迫った直後の後半24分頃、クリエルのランなどで自陣から敵陣の深い位置へ進む。しかし、オブストラクションの反則で流れを止める。
サンゴリアスはその約5分後、アウトサイドCTBのサム・ケレビのランをきっかけに相手側のゴールラインへ迫る。33分、敵陣22メートルエリア右のスクラムから計14フェーズを重ねる。
タックラーに近い位置の走者を突っ込ませたり、深いラインを作って大外に振ったりし、球を保持する。オフロードパスも駆使し、しぶといイーグルスの壁に亀裂を入れる。
最後は中村亮土が左大外へパスを放ち、球を受けたタタフが正面の防御を蹴散らす。直後のコンバージョン成功で27-35とする。中村亮土の述懐。
「ボールセキュリティの精度をよくしてフェーズを重ねていくと、自分たちのアタックができると思っていました。フィフティ・フィフティ(一か八かのパス)ではなく、がまん強く」
ずっと粘ってきたイーグルスがミスを重ねるのは、その後のことだった。
小倉のカウンターアタックとキック、周囲のキックチェイス、敵陣10メートル線付近左でラインアウトを得たのは36分頃だ。
空中で競り合うサンゴリアスがボールを奪いきれなかったことで、イーグルスは自軍スクラムでプレーを再開させる。望みをつなぐ。
しかし、接点で圧を食らううちにパスの受け渡しを誤る。サンゴリアスに攻撃権が映る。ケレビが、リーが走る。
ハーフ線付近の左で、SOへ入っていたマッケンジーが防御の裏へキックを放つ。
HOの呉季依典が追いかけて確保した楕円球は、ケレビ、右端のタタフと順に渡る。タタフが追いすがるタックラーをはねのけ、スコアボードを揺らす。
試合後の会見。中村亮土は、「キヤノンさんの素晴らしいプレッシャーのなか、また学ぶこと、課題が出た」。ファンの喜ぶ好試合から、反省点を見出そうとしていた。
「(自軍には)いいジャッカルプレーヤー(接点の球に絡む職人)がいる。最初のタックラーがしっかりと低くいけば(出足を止めれば)、いいディフェンスができていました。ただ、(防御を破られたシーンを思い返してか)そこでちょっと課題が出た。次に向けて、いい準備をしたいです」
かたや沢木は「勝てるゲーム展開のなかでも、自分たちから相手にチャンスを与えて、相手のペースをもう一回プレゼントしているというのが現状なのでね」。ミスをきっかけに失点を重ねた試合終盤を踏まえてこう述べた。
「プレッシャーのなかでの判断、スキルレベル(を上げたい)。プレッシャーを感じるなかで、そのプレッシャーを力に変える。そういうチームになっていければいいと思います」
「ただ、ネガティブになることは全然ない」
「サンゴリアスにはマッケンジーがいて、ケレビがいて、ショーン(・マクマーン)がいてと、タレントがいい(それぞれ強豪国代表経験者)。僕らのチームはひとりひとりの能力というより、それがチームとしての能力になった時にサンゴリアスよりも上回らなきゃいけない、というのが、勝てる手段だと思います。自分たちのスタイルを貫いて、勝つ! っていうね」
会見はサンゴリアス、イーグルスの順におこなった。ふたつめのセッションが終わりに差し掛かると、沢木は司会者に「あ、ちょっと待って、いいすか?」。再び、マイクを取る。
「きょうもね、ミスジャッジがあるんですよ。それは、選手を守らなきゃいけないところを、見逃している。レイトタックル(パスをした選手へのタックル)。うちもやっちゃっているし、うちも食らっているんですが、そこは、改善しないと。選手を守れないんで」
古巣との激しい衝突の連続を受け、安全確保のために注意喚起。「これ、書いてください。ありがとうございました!」と、帰路についた。