違いをもたらしたのはトム・テイラーだ。
3月19日、東京は秩父宮ラグビー場。参戦するリーグワンの第10節で、東芝ブレイブルーパス東京の背番号10を5試合ぶりにつける。
相手はクボタスピアーズ船橋・東京ベイだ。戦前の時点で順位は自軍が6位なのに対して向こうは2位。前身のトップリーグでの優勝回数こそ「5対0」と上回るブレイブルーパスだが、直近の成績でいえば挑む側にあたる。
テイラーはニュージーランド代表3キャップの33歳。来日2シーズン目の今季は、開幕からプレーメーカーに定着していた。一時のコンディション不良から脱して迎えたこの日、己の役目を心に秘める。
「まず、自分自身がプラン通りにやれるようにする」
7点差を追う前半10分、スピアーズの反則を受けて敵陣の深くに侵入。鋭く仕掛けながらのオフロードパスを試み、連続フェーズに勢いをもたらす。
ブレイブルーパスはその流れで、グラウンド右端のスペースに球を運ぶ。ニュージーランド代表FLのマット・トッドらが、追っ手にタックルをされながら巧みにパスをつなぐ。SHの小川高廣がフィニッシュ。テイラーがコンバージョンを決め、7-7と同点に追いついた。
最近のブレイブルーパスは、ワイドな展開とオフロードパスを交える。グラウンド中央付近の選手が攻防の境界線へ鋭く仕掛け、両端に作ったユニットへ球をつなぐ。
日本代表WTBのジョネ・ナイカブラら、快速ランナーを活かすのに適した枠組みに映る。同時に、「スタンディングラグビー」を黄金期の部是とするクラブの背景ともマッチする。
2019年就任のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチは、かねて言っていた。
「いまの自分たちを作り上げてくれたものが何なのか、東芝のDNAが何かを考えるようにしています。振り返ると、東芝はタフなセットピース、タフなキャリー、プレッシャー下でスキルを使ったプレーをしていました。常に人をわくわくさせ、新しいラグビーを発明しました。その昔の東芝と、いまのブレイブルーパスを結び付けるようにしています。このような考えは、着任1日目から持っていました。それを受けて、アタックを担当するジョー・マドック アシスタントコーチとどんなビジョンを持って戦うかを考えてきました」
現体制初年度にあたる2020年のトップリーグは、第6節で不成立となった。さらに翌21年は、シーズン前の練習試合数を十分に確保できず。本番はプレーオフ2回戦敗退で終えた。
ただし今季に向けては、多くのトレーニングマッチを組んで戦い方を再確認できた。秋口の猛練習で心身を鍛えたのも奏功してか、リーグワン元年は理想通りに動く機会を増やした。テイラー欠場前最後のゲームとなった第5節では、静岡ブルーレヴズに59-26と大勝できた。
共同主将で現役日本代表でもあるFLの徳永祥尭は、こう述べる。
「僕たちがいままでやってきたラグビー――コーチ陣が用意しているプラン、スキルセット――がいいものである。それが自分たちの得点につながっています」
温故知新の趣がにじむブレイブルーパスのパフォーマンスは、今度の優勝候補との戦いでも確かに示された。しかし、最終スコアは28-43。今季5敗目を喫した。
攻めては向こうの大型FWに球出しのリズムを乱され、「自分たちが圧力を受け、ミスをしてしまった」とテイラー。何より序盤に機能していた前進する防御が、時間を追うごとに攻略された。後半28分までに、14-36とされた。
鋭い出足で相手との間合いを詰めるのもまた、いまのブレイブルーパスの目論む動きのひとつだった。迫りくる走者を待ち構えるより、相手との間合いを詰めて動きを制限するイメージか。
ただしこの日は、スピアーズが試合中に攻撃ラインの深さを調整。飛び出す相手の背後にロングパス、キックパスを通すようマイナーチェンジを図っていた。
実力者にいなされたのを、ブラックアダーはどう受け止めたか。スタイルを変えるのではなく、スタイルの遂行力を高めたいと言った。
「ゲインライン(攻防の境界線)にアタックして勢いをつけてきたスピアーズの選手を、(ブレイブルーパスの)ファーストタックル、セカンドタックルの選手が仕留めきれていなかった。ラインスピードを出せている(防御の出足が鋭い)時はゲインライン上で相手を止められている。1人目のチョップタックル(相手の下半身へのタックル)、2人目が身体を当てるプレーをしっかりとやっていかなければいけない。また向こうがキックを蹴ってきた時、我々はフィールドを埋めるようなディフェンスができなかった。スペースを取りきれなかった。そのような状況には、うまく対応できるようにしていきたい。今回はラインスピードを出したいと思う部分があり、できた部分もありました。ただ、タックルをそれに必要なレベルで決めきれなかった。そこに関しては継続して強化したいです」
ここ数試合は復帰したてのテイラーのほか、今季大ブレイクのジェイコブ・ピアスら複数の主力候補がけがなどで抜けていた。元ニュージーランド代表主将という、泣く子も黙るキャリアを誇るブラックアダーは穏やかだ。
「毎週、いろいろなことがあるなか、私が大事にしているのはコンビネーションです。選手選考の材料にしていることは、試合に向けて準備ができているか、グラウンド上でのパフォーマンスがいいか、コロナ禍という難しい環境下で適応できるか。自分たちのラグビーを信じで遂行できるかなどがあります。我々がプレーヤーを信じて、プレーヤーがしっかりプレーできる環境を作らなければ、この大会は戦えません。彼ら(けがなどで一時離脱した主軸候補)以外の選手たちでも、その彼らから高いスタンダードを学んで、同じレベルでプレーできるようであれば、誰かが抜けても負けるようなことはない。いまは、いいスタンダードを学んだ選手が、いいパフォーマンスを出す準備ができているように感じています」
テイラーは続ける。
「(スピアーズ戦は)全体的に、ミスが多すぎた。ボールを維持する時間が十分ではなかった。ディフェンスでは自分たちのミスによるソフトトライ(簡単な失点)もあった。ただ、ポジティブな面もあった。学ぶべきことを学び、状態を整え、次の試合に臨みたい」
3月27日は、コベルコ神戸スティーラーズを向こうにスタイルを提出する(東大阪市花園ラグビー場)。