移籍してよかった。出番と心持ちが安定してきたからだ。
「昨年まで自分で感じていた試合ごとのパフォーマンスのムラは改善されていると感じていて。無茶苦茶いい試合は数多くないのですが、よくなかったなというゲームも減ってきています」
梶村祐介。横浜キヤノンイーグルス所属の26歳だ。ここまで加盟するリーグワン・ディビジョン1の実戦9試合すべてに先発する。
「昨年までは少ないチャンスで100~120パーセントの力を出さなきゃいけないと思っていましたが、今年は100パーセント出そうとしていながらも80パーセントも出せればいいか、というふうに、楽に試合に臨めているところはあるかもしれません」
2018年に入った現:東京サントリーサンゴリアスを、昨季限りで退団した。プロ選手としての契約期間が残っていたため出るのは簡単ではなかったが、思うように出番が得られなかったのを受け、決断していた。
2019年のラグビーワールドカップ日本大会へ挑む日本代表にあっては、最終選考合宿で落選した。所属先に戻れば、そのワールドカップで活躍した現日本代表の中村亮土とインサイドCTBの位置を争うこととなった。中村は2020-2021シーズンから主将となり、ほぼ不動の存在となっていた。
2023年のワールドカップに出るためにも、多くの公式戦でアピールしたかった梶村。明大時代に採用として声をかけてくれた田中澄憲ゼネラルマネージャーに、シーズン中に固めた決意を伝えた。
新天地の指揮官は沢木敬介だ。2015年のワールドカップ・イングランド大会まで日本代表のコーチングコーディネーターを務め、2016年度からの3年間はサンゴリアスの監督を務めた。在任期間中は毎年プレーオフ決勝に進み、2度の優勝を果たした。
梶村がサンゴリアスに入ったのは、沢木体制3季目のこと。当時は主力に抜擢されていた。
2人は20歳以下日本代表でも、ヘッドコーチと選手の間柄だった。いま、恩師のもとでスターターに赤いジャージーの12番を着られるようになった梶村は言う。
「社会人1年目の頃はいろいろと怒られましたが、いまは『ここまで(のプレー)はできるだろう』と(力を)理解してもらったうえで、サンゴリアス時代とは異なる観点で指導してもらえています。僕がプレーしたいジャパンのスタンダードで課題を与えてくれ、常に向上心を持たせてくれます。(具体的には)ゲーム全体を考える力がまだ足りないと言われています。流れが来そうなときにフィフティ・フィフティの(一か八かに映る)プレーをしたり、ゲームの肝になるシチュエーションでいつもと違うことをしてしまったりすることが何度かあったので」
2022年発足のリーグワンにあって、イーグルスはここまで7勝3敗で12チーム中4位。ただし沢木が就任する前の2020年まで、しばらく下位に低迷していた。梶村は客観視する。
「いま、トップ4と戦える力は十分にあると感じています。ただ、毎回、100パーセントの準備をしないと(相手が誰であれ)戦えないチームでもあるかなと。トップ4にチャレンジしないといけないなか、それ以外のチームとの試合を落としてもいます(第8節では現在6位の東芝ブレイブルーパス東京に18-21で惜敗)。現状のトップ3のチームみたいに、楽にゲームを運ぶ力はないのかなと思います」
上昇気流に乗っており、発展途上にもあるのだろう。さらなるステージアップを期して迎える第11節の相手は、なんとサンゴリアスだ。
昨季のトップリーグで準優勝を果たした梶村の古巣。イーグルスの現場ではWTBの松井千士、佐々木隆道FWコーチも同部OBだ。
梶村は記者との問答の末に「無意識でも力は入るんじゃないですかね。敬介さんも、僕も、千士さんも。気負うわけではないですが、ほかの試合よりも楽しみではあります」と応じはしたが、「あまりサントリーだからというの(特別な感情)はあまりなくて」とも語る。
「サンゴリアスはどこからでもスコアチャンスを狙ってきます。自分たちは相手にいかに速いテンポでプレーさせないかを大事にします。(攻防の起点の)ブレイクダウンでプレッシャーをかけなければいけない。これは僕の勝手なイメージですが、お互いのラグビーが似ている。ボールを動かし続ける者同士がぶつかるとどうなるのか、楽しみです」
特別な瞬間にも、いつも通りのマインドで立ち会わんとする。ただし、当日、気分が高揚してもおかしくはない。