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【ラグリパWest】チームの主軸。大沢櫂、ホルス陸人 [石見智翠館高校]

2022.03.23

石見智翠館高校を引っ張る大沢櫂主将(左)とホルス陸人副将。チームは今月25日に開幕する第23回選抜大会に出場。1回戦で奈良の天理と対戦する。



 しまった。死のヤマに入ってしまった。

 石見智翠館の関係者はそう思ったに違いない。今月25日に開幕する23回目の全国高校選抜大会(埼玉・熊谷)の組み合わせである。

「ここを勝ち切って、ひと皮むけたいですね」
 監督の安藤哲治(てつじ)は気合が入る。普段は笑みを絶やさない顔は引き締まる。48歳はまた社会科教員でもある。

 初戦は天理。勝てば東福岡×國學院久我山の勝者。3校ともに冬の全国大会を制している。優勝回数は順に歴代4位の6、6、5。智翠館は4強進出が最高だ。そのジャージーは青を基調に紺と白が入る。

 相手どうこう以前に安藤は自らの不利を感じる。昨年の先発15人はすべて3年生。チームはまったく別物になる。

 その新しい集団のけん引役として期待を寄せるのが、主将の大沢櫂(かい)と副将のホルス陸人(りくと)である。新3年生2人はFWとして前線からチームを鼓舞する。

「性格的にバランスが取れていると思います。前に出て話をする大沢と後ろでカバーするホルスという感じで、いいコンビですね」

 大沢は171センチ、84キロのフランカー。7学年上の先輩、岡山仙治(ひさのぶ)をほうふつとさせる。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの岡山とは当時の体つき、役職、ポジションとも同じだ。

 智翠館が軸に据えるディフェンスからの切り返しを大沢は体現する。速さと低さで、相手のひざ下に刺さる。プレーももちろんだが、その統率力を安藤は買っている。

「嫌なことやしんどいことを率先してやります。この学年はおとなしいですが、経済的な理由のひとりを除いてやめていません。30人を彼がまとめてくれました」

 大沢の出身中学は大阪の桃谷。中3の時に通っていた勝山と鶴橋が合わさってできた。大沢は生徒会長として否定的な見方をする同級生らを説得した。教員らは感謝する。
「その話を聞いて、彼に興味を持ちました」
 安藤は振り返る。

「みんな考えや意見を持っています。それはそれでいいと思います。それらを踏まえてどうするのか。AかBかどちらかを選ぶのではなく、良い面、悪い面を見極めてC案を作ったらいいのではないかと思います」

 電気系の自営業をしている父・弘吉(ひろよし)の影響を色濃く受ける。
「父は普段からフレンドリーですが、お酒が入ればもっと変わります」
 他者に常に親愛の情を抱く父を見て育つ。



 ホルスは178センチ、91キロの体でコンタクトの中心になる。安藤は評する。 
「強さがあって快足。仕事をしてくれます」
 冬の101回目の全国大会では全2試合に交替出場する。2回戦は大分舞鶴を45−0、3回戦では常翔学園に12−20で競り負けた。

 常翔学園戦では5点差の残り6分で起用された。
「決められたことができませんでした」
 ラックでのファイトは外側、と示されていたが、焦りもあり、相手の選手も多い中央部分で勝負をかける。反則を取られ、PGを決められた。その反省が心に残る。

 この101回大会で智翠館は31年連続31回目の出場とする。最高位の4強進出は95回大会(2015年度)。31−46で桐蔭学園に敗れた。岡山が3年、仁熊秀斗(にぐま・ひでと)が2年生ウイングで出ていた。現在は東京サントリーサンゴリアスに所属する。

 ホルスが競技を始めたのは小2から。兵庫県ラグビースクール。大沢は小4から阿倍野ラグビースクールだった。ともに友達に誘われる。「ホルス」という姓は祖母がアメリカ人の祖父と再婚。その姓である。祖母も「4か国くらいの血を受け継いでいるはずです」。

 2人が寮生として通う智翠館は島根の江津(ごうつ)にある。東西に長い県の西寄り、山口に近い。目の前には青い日本海が広がり、自然は豊かだ。旧校名は「江の川」(ごうのかわ)。創立は1907年(明治40)。大阪から江津までは最速でも4時間はかかる。
「広島まで新幹線で行って、そこからレンタカーで浜田自動車道に乗るのが一番です」
 安藤は以前、説明してくれた。

 ホルスは入学の理由を口にする。
「親元を離れて大人になろうと思いました」
 出身中学は神戸の鷹匠(たかしょう)。当時は朝に弱かった。ここに来てから、スマホのアラームを3分おきに10回鳴るようにして、その弱点を克服した。体重も入学時から23キロ増。1回の食事で800グラムに指定されている白ごはんを1キロ食べた。

 大沢とホルスを軸に挑む選抜大会は2大会連続10回目出場になる。最高位は13回大会(2012年)の準優勝。東福岡に22−24と2点差で惜敗した。昨年の22回大会は8強敗退。東海大仰星に3−14だった。安藤は言う。
「去年の成績を超えたいですね」
 連勝すればまず昨年に並ぶ。天理戦は開幕の25日、14時30分に始まる。

 この選抜を終えると選手46、女子マネ1の計47人の新入部員がやって来る。部員の総数は109人となり、1990年(平成2)の創部以来、33年目で最多となる。

 新入部員たちは大阪から最速4時間の距離や寮生活を知った上で入学を決めた。安藤の努力がうかがい知れる。この4月から指導25年目。好成績でもって、家庭を離れる15歳たちを迎えたい。

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