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尾崎晟也は「自分たちの高いレベルを出す」。サンゴリアス快勝の裏に「ダイス」と「意識」。

2022.03.22

シャイニングアークス戦でハイボールをキャッチするサンゴリアスの尾崎晟也(撮影:松本かおり)


 ボールを動かして大量得点。そのきっかけは、ボールを持っていない時に生まれていた。

 リーグワンのディビジョン1で首位の東京サントリーサンゴリアスは3月20日、東京は秩父宮ラグビー場でのホストゲームでNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安と対峙する。

 ゲーム主将を務めたひとりは尾崎晟也。最後列のFBで先発した26歳で、2歳年下でSHの齋藤直人とともに大役をシェアした。この日はCTBの中村亮土主将ら複数の主力がベンチにも入らず。若手、ここまでの控え組が複数、登用されていた。

 リザーブには、尾崎晟也の弟で1年目の尾崎泰雅がスタンバイ。後半4分に初登場し、試合終了間際に初トライを決めることとなる。

 この午後までの約1週間の準備について、普段はWTBをすることの多い尾崎晟也が語る。

「今週はメンバーの変更とか、いろんなことがあったなか、いい準備をしてきました。自分たちのマインドセットをしっかりしてゲームに臨もうと話していました。やるべきフォーカスポイントを毎回の練習でしっかり意識し、相手がどうとかではなく、自分たちの高いレベルを出すことを心掛けました」

 リーグ随一の選手層を誇る、サンゴリアスならではのマネジメントだろう。国内外の俊英がただ在籍するのではなく切磋琢磨し合っている。仮に大きく期待されながら出番を得られぬ選手がいても、それは競争の結果なので「飼い殺し」にはあたらない。ある選手は「毎回の練習で、命がけです」と述べる。

 その緊張感を生み出す下地を、クラブは長年をかけて培ってきた。

 現イングランド代表指揮官のエディー・ジョーンズが監督を務めた2010年度からの2季を起点に、グラウンド内外での規範を定義づけた。以後はベテラン選手が選手会長となり、ロッカー室の清掃、服装規定の遵守などをリード。いまでは複数名からなる「カルチャーグループ」が、クラブの健全化を目指す。

 給水ボトルを所定の場所に戻し忘れた選手がいれば、内輪のグループLINEでその証拠写真をシェア。ここから続くのはサイコロのスタンプだ。ボトルの持ち主は翌日のミーティングで「ダイス」を振る。全員の前でカラオケをする、おかしな格好でウェイトトレーニングをするといった、出た目に書かれた罰ゲームを実施する。

 楽しみながらも、抜かりがないことを是とせんとする。その延長で公式戦に臨む。

 本当の意味での組織力がシャイニングアークス戦のプレーに現れたのは、3-0のスコアで迎えた前半5分以降。中盤での相手ボールラインアウトからの攻めを、サンゴリアスは2度続けて防いだ。

 深めに並んだ青い攻撃ラインに対し、黒と黄色の防御ラインが鋭く圧をかける。パスのいく先々にタックラーが飛び掛かり、その背後にはキック、抜け出す走者への対応のためカバー役が立つ。

 サンゴリアスから見て右から左へ連なるひとつめの攻めでは、アウトサイドCTBの中野将伍、WTBのテビタ・リーがラッシュ。左奥に立っていた相手選手がキックした球は、尾崎晟也が駆け戻って確保する。タッチラインの外へ大きく蹴り出した。

 かくして始まったふたつめの攻めには、まず、中央やや右中間寄りの位置で中野将伍がタックル。さらに右へ展開されても、一枚岩のラインがタッチライン際へスライドしてラインブレイクを許さない。チーム内での約束事からか、いちばん右端にいたWTBの中鶴隆彰が左斜め前方に飛び出しタックルを仕掛ける。

 シャイニングアークスはその圧をかいくぐる形でパスをつなぎ、タッチライン際の走者が奥側へのキックで活路を見出そうとした。ところがその弾道へは、尾崎晟也ら2人のサンゴリアス勢が先回りしていた。

 尾崎晟也がセービングしたところへ、鋭く駆け込むシャイニングアークスの選手が危険なプレーをしたと判定される。

 組織の法則に沿って迅速に動くことで、向こうの規律を乱したサンゴリアス。直後の中盤右での自軍ラインアウトから、中野将伍のラインブレイクと倒れながらのパスで一気に敵陣ゴール前まで進む。

 いったん球を奪われたが、まもなく敵陣22メートル線付近左でラインアウトを得る。モールを起点に攻め、反則を誘発。ゴール前右まで進むと、少ない手数で加点した。10-0。

 攻撃力を看板とするサンゴリアスとすれば、ボールを持たぬ時に勤勉でいれば大量の得点機を創出しうるのだ。その勤勉というフレーズがサンゴリアスに根付いているのは、歴史が証明している。

 シャイニングアークス戦の前半28分。帝京大から2018年に入部の尾崎晟也が持ち味を発揮する。

 自陣22メートル線付近で相手のキックを得ると、カウンターアタックを仕掛ける。目の前のチェイサーをかわす流れで、その向こう側の防御網も攻略する。CTBの森谷圭介の2トライ目をおぜん立てし、直後のゴールキック成功で17-7と点差をつけた。

 ここからサンゴリアスは、ハーフタイムを迎えるまでに4本連続でトライを奪う。

 31、34分のフィニッシュは、相手のパスミスを拾ってからのランや継続で決まる。

 37分の1本までは、サンゴリアスが自陣深い位置で回したパスの乱れを尾崎晟也がカバー。相手よりも先にこぼれ球を拾うと一気に加速し、自陣10メートル線付近左でリーへバトンを渡す。リーはそのまま駆け抜け、直後のゴール成功も招いて36-7とした。尾崎晟也はこうだ。

「チームとしてトランジション(攻守の切り替え)へのリアクションは意識して練習してきました。いい準備してきたからこその皆のスイッチの入り方、反応の速さがあった」

 ハーフタイムまでに41-7と、勝負を決定づけた。もっとも、最後はチームが総じて反則を増やしてしまった。69-29での今季9勝目(不戦勝を含む)にもリーダーは反省する。

 理想像は、まださらに高い位置にあると言いたげだ。

「久しぶりにプレーする選手がいて、やろう、やろうという気持ちが出ているのはよかったのですが、そこでの正しいプレーをできるかどうかの判断の部分に、課題があったと思います」

 第11節は3月27日、昭和電工ドーム大分でおこなう。対する横浜キヤノンイーグルスの指揮官は沢木敬介。旧トップリーグ時代のサントリーで選手、指導者として多くの優勝を経験した。いわば、サンゴリアスの文化に携わったひとりだ。

 20歳以下日本代表ヘッドコーチを務めた頃、学生だった尾崎晟也を指導してもいる。かつての教え子は、「沢木さんには感謝していますし、リスペクトを持って、思い切りぶつかりたい」と応じた。日本代表復帰に向けて防御時の連携、圧力も磨いている堅実な走者。ファン注目の一戦でも高い「スタンダード」を示すか。

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