ナイター照明の焚かれた人工芝グラウンドに、仕事を終えたサラリーマンが続々とやってくる。
グラウンドを所有する清水建設の社員ばかりではない。トヨタ自動車、クボタ、NTTコミュニケーションズ、キヤノン……。
さまざまな会社の社員が夜7時30分以降に始まる練習開始に合わせて到着し、サラリーマンからラガーマンに早変わりする。
社業の都合によって練習に遅れる場合もある。すいません。9時から参加します――連絡用のグループチャットに連絡が入る。照明は夜10時に消えるため参加時間はわずかになるが、それでもやってきて、楕円球を追う。
NTTリーグワンのディビジョン3に所属する清水建設江東ブルーシャークスは、ラグビー経験者のリクルートが始まったという1980年代半ばから、基本スタンスは「仕事をした後にラグビーをやる」ことだ。
「仕事とラグビー、どちらの分野も100%でやることがポリシーで、そこはプライドをもってやっています」(越野愉太GM)
2001年にクラブチーム制度を導入し、外部からも選手を募集する。現在もチーム公式ホームページのナビゲーションに、リーグワンチームには珍しい『選手募集』の項目がある。
かつての練習拠点は、東京・駒沢オリンピック公園のそば、世田谷区の住宅街にあった約半面の「深沢グラウンド」だった。報徳学園-明治大学の越野GMは「代わりばんこで練習をしていました」と約半面のグラウンドを懐かしむ。現在は2018年、横浜市都築区に完成したクラブハウス併設の荏田グラウンドが拠点だ。
そんなサラリーマン集団のブルーシャークスが、今季躍動している。
第4節では宗像サニックスブルースを26-19で撃破。第5節では12-17で敗れたものの、トップリーグを経験している豊田自動織機シャトルズ愛知を相手に後半ロスタイムまでリード。第7節終了時で、5勝2敗(実戦4勝2敗)。順位はシャトルズに次いで2位だ。
躍進の理由を問われ、チームOBで近鉄でもプレーした大隈隆明監督がこう語っていた。
「プレシーズンマッチからレベルの高いチームと練習試合をさせていただいて、レベルの高いラグビーを経験してきました。『練習から厳しい雰囲気を持とう』と、今年はチームスローガンに『ReBorn』を掲げました。昨年までは練習に厳しい雰囲気はなかったですが、今年は練習から闘う集団をつくっていこうという話をしています」
プレシーズンマッチの相手はすべて上位ディビジョンのチームだった。ディビジョン1所属が4チーム、ディビジョン2所属が3チーム。1勝6敗で、静岡ブルーレヴズには初戦で勝った。
「春夏から元トップリーグのチームと練習試合をしてきました。大敗もありましたが、目指すのは『そこ』だよ、と伝えながらやってきました」
そう語るのはトヨタ自動車で13年間プレーした元日本代表スクラムハーフの麻田一平HC(ヘッドコーチ)だ。
麻田HC自身もフルタイムで働くトヨタ自動車の社員。昼休みや業務後など、隙間時間をフル活用しながら戦術立案や試合レビューなどをこなしている。
昨季はスポットコーチだった新任の麻田HCが話した『そこ』とは、ディビジョン1のことだ。
仕事も100%、ラグビーも100%で、ディビジョン1まで上ってみせる。そのためには一層のハードワークが必要だった。
「監督やS&Cコーチ、メディカルとも話しながらフルコンタクトの練習をかなり増やしました」(麻田HC)
麻田HCが「チームマンが多い」と語る外国人選手の存在も大きい。
プロ契約でラグビーに打ち込める環境にある彼らも「仕事も100%。ラグビーも100%」を理解し、サポートしている。
神戸製鋼でプレーした新任の吉田永昊FWコーチは、外国人選手の姿勢に感心している。
「外国人選手はチームの『仕事も100%、ラグビーも100%』の方針をよく理解してくれていると感じます。シアレ(・ピウタウ)、クーニー(コンラッド・バンワイク)は『この練習でいいのか』とみんなのモチベーションを上げてくれる存在です」
「また、たとえばフォワードの外国人選手は相手のラインアウトの分析をしてくれます。その上で、夜から合流する日高(駿)などのリーダーに『どう思う?』と投げかけます。彼らが協力してくれるので助かっています」(吉田FWコーチ)
社員選手が合流するまでに「できること」をやる外国人選手。仕事の後にフルコンタクト練習に励む社員選手。良い雰囲気に誘われるのか、近年は入団希望選手が増えているという。
まだまだやれる。最高のパフォーマンスを見せたい――。楕円球への熱い思いを抱いた男たちの『ReBorn』は今シーズン、どんな結末を迎えるのだろう。