この人ならではのパフォーマンスがあった。
3月5日の夕暮れ時、ジョネ・ナイカブラは東京の秩父宮ラグビー場で疾走また疾走。東芝ブレイブルーパス東京の14番をつけて2つのトライを奪い、ピンチをピンチでなくするファインプレーでも光った。
前半28分頃だ。チームは敵陣の深くまで攻め込みながら、対する横浜キヤノンイーグルスにパスをインターセプトされる。
球を得たエスピー・マレーは、ブレイブルーパス側から見て右のタッチライン際を駆け上がる。ハーフ線付近に到達し、向こう側の無人のスペースへキックを蹴る。トライに近づく。
驚きが、生まれた。
快足を飛ばしてマレーを追いかけていたナイカブラは、ボールが相手の手から離れるや、さらに、ギアを入れる。
楕円球の転がる先へ、ともに追うイーグルスの選手2名よりも早く到達する。自陣22メートルエリア右で宝物を得ると、目の前にいたマレーをかわしてタッチラインの外へ蹴り返す。事なきを得た。
試合はFW戦で苦しんでいたブレイブルーパスが、21-18で辛勝する。ほとんどの人がまねのできない走りを攻守で活かしたナイカブラが、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。
当の本人が、例の場面を振り返る。
「前半だったので自分にエネルギーがあった。あきらめずにいけました」
身長177センチ、体重96キロの27歳。フィジー出身で、ニュージーランドのケルストンボーイズ高を経て2014年に来日していた。
摂南大時代はけがに泣くこともあったが、2018年に入った東芝ではそのスピードで台頭。昨秋、初めて15人制の日本代表に選ばれた。2019年のワールドカップ日本大会で8強入りした、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる集団に招かれたのだ。
「とてもその環境を楽しめました。バックスリー(ナイカブラが務めるWTBを含めたポジション群)として多くを学んだ。特に、オーバーラップについて学べました。自分がボールに関与していない時のプレーで、いかに(自軍の攻撃ラインが)相手防御よりも枚数で上回れるか」
本来はタッチライン際に立つWTBも、状況に応じて接点や司令塔の周りで球を呼び込む。そうすれば相手に対しての数的優位を作ったり、向こうの防御にひずみを生んだりできる。そう再確認できた。
つらいこともあった。組まれたテストマッチ4試合では一度も出番がなく、「厳しい時間でした」と後述する。
しかし、メンバーから外れるたびに首脳陣にレビューを要求。課題を整理してきた。このチームで戦うすべてのWTBが求められるプレーを、さらに磨くべきだとわかった。
「週の初めに(数日後の)試合の出場メンバーが発表され、そこに私の名前が入っていなかったのを受け、コーチ陣と話をしました。ハイボールの処理、ダブルアクション――ボールをもって前に出て、いったんボールを離して、さらにボールを拾って前に出る――についてもっと取り組んで欲しいと言われました」
所属先へ戻ってからも、日本代表遠征で得られた課題と向き合っている。特にトレーニングを重ねるのは、「ハイボール」と呼ばれる高い弾道のキックの捕球。それまでは持ち前のバネを活かして胸に収めていたが、いまはボールを腕で囲い込む意識を徹底。身体能力と同時に、技術を使って捕る。
「腕は、頭の上に。なるべく速く、なるべく高い位置でボールを捕れるように…。ブレイブルーパスでは、(ハイボール処理のほかに)ディフェンスでの上がりも意識しています。自分が先頭に立って高い位置に上がるんです。次に代表合宿に帯同できるようなことがあれば、その時はしっかりメンバーに選ばれるようにしたいです」
日本代表は今年6月以降、ウルグアイ代表、フランス代表と計4試合を国内で実施。念願のデビューを果たすべく、ナイカブラならではの動きと、日本代表で必ず求められる動きの両方を磨きたい。
13日は秩父宮で、NECグリーンロケッツ東葛とぶつかる。