謝りたいことがある。
NECグリーンロケッツ東葛の大和田立は3月6日、東京・秩父宮ラグビー場にいた。リーグワン・ディビジョン1の第8節で、リコーブラックラムズ東京と対戦していた。
ことが起きたのは後半15分頃だ。
7番で先発の大和田は、敵陣22メートル線付近の左中間で対するCTBのジョー・トマネにタックル。引き倒し、起き上がったら、ちょうど脱げたスパイクが右手に引っかかった。
脇に除けようとしたら、反動がつきすぎたのかバックスタンドまで飛ばしてしまう。このことが理由でペナルティを取られた大和田は、観客の安全を心配してか「本当に申し訳なく思っていて…」と述べた。
「悪気はなかったんです。タックルして、リロードしなきゃと思ってポン、と投げたら、思いのほかすごい勢いで飛んでいってしまって…。あれは、めちゃめちゃ反省しています。よくなかったな、って」
この件を話したのは試合の4日後の朝。車中で端末を開いた。
2歳になる子どもの送り迎えで、保育園へ出かけていた。看護師の妻には一定の拘束時間があるなか、助け合って生きる。
最近、ヘッドキャップから覗く襟足がうねっているのも、家族の仕事と関係しているのだと笑う。
「自分がコロナになると奥さんに迷惑がかかるからと、ここ2年ぐらいは自分で髪を切っていて…。ただ、1か月くらい前に美容院に行く機会があって、そこでパーマをかけてもらいました」
他チームの選手へも好漢ぶりの伝わる30歳は、入部8年目。身長178センチ、体重95キロのサイズで、粘り腰に定評がある。
北海道の美幌高時代は全国大会とは無縁も、帝京大に入るや1年時から1軍に絡む。結果的に9まで伸びる大学選手権での連覇のうち、V5までの4回を現役学生として体験した。最終学年時には、練習後のグラウンド周りを掃除する姿勢でも知られるようになった。
勝ち続ける空間に身を置いてきた大和田はいま、グリーンロケッツにも好循環が訪れつつあると強調する。
下位に低迷することの増えた昨季までのトップリーグ時代よりも、トレーニング中にエナジーを体感できる。
「練習中に激しい喧嘩みたいなことが起きることはあまりなかったんです。でも今年になってからは、本気でやってきているからこそのぶつかり合いがある。ひとりひとりの勝ちたい意欲が強いと感じます」
今季のリーグワン発足に向け、グリーンロケッツは改革を断行していた。指導陣を改め、2019年のワールドカップ日本大会に出た田中史朗、レメキ ロマノ ラヴァら新戦力を補強した。いわば閉じていた窓を開け、外気を取り込んでいた。
「何かを変えないと勝てないと思っていたので、体制が変わったことはポジティブです」
大和田が特にいい兆しを感じたのは、コベルコ神戸スティーラーズとの第5節を17-48で落としてからだ。翌週に皆で本拠地に集えば、ディレクター・オブ・ラグビーのマイケル・チェイカが口を開く。
元オーストラリア代表指揮官のチェイカはいま、選手たちとは通信機器でつながるだけの間柄だ。全体ミーティングで口を開くことはそう多くないが、この時は今後の方向性、さらには実施された3試合すべてで2桁にのぼった反則数について言及したようだ。
大和田の述懐。
「リーダー陣にはいままでも何かを言っていたかもしれないですが、(開幕後に)チーム全体に具体的なことを話したのは、その時が初めてだったと思います」
ブラックラムズ戦は18-21で惜敗。「行ける雰囲気があった。負けたことが、いまでも、悔しいです」。反則数も18と、数値上の改善はまだ先に映る。
ただ、接点周りの指南役を担う大和田はこうも話す。
「スティーラーズ戦の後から、全体的に皆の意識が変わってきたかなと個人的には思いますね」
ちなみにこの試合から、ハーフタイムにロッカールームへ戻る前にグラウンド上で円陣を組むようにした。
自分たちが勝つために必要な習慣を、自分たちで考えている。
「スティーラーズ戦も、その後のブルーレヴズ戦も、前半の最後に失点して終わったと思うんです。そこでブラックラムズ戦からは、(気持ちの)切り替えのために、グラウンドで前半についての話し合いをして、そこからロッカーに戻ろうと決めました」
感染症の影響とも無縁ではないリーグワン元年。折り返し地点を過ぎ、「接戦を増やし、かつそこで勝ち切れるようなチームにしていきたいです」。13日、秩父宮。東芝ブレイブルーパス東京から今季実戦初白星を狙う。