オレンジ色の装飾にも西日が差す。江戸川区陸上競技場の観客席の一部、ファンの交換ゾーンは、クボタスピアーズ船橋・東京ベイのチームカラーで染まっている。
3月5日、リーグワンのディビジョン1・第8節の一戦が終盤を迎えると、現在首位のホストチームが苦境を強いられる。
ミスを契機に自陣に入られたのは後半10頃。約5分後の失点で、スコアを27-14としてしまう。保っていた20点差をじわりと詰められたうえ、その過程でイエローカードをもらっていた。23分までの数的不利が課された。
SHで今季初先発の藤原忍は、このように振り返る。
「疲れはもちろんあったとは思うんですけど、(何より)その疲れた状態で細かい(連係面の)トークをしきれてなかったかなぁ…と」
さらにその直後には、自軍HOのマルコム・マークスが負傷交代。この時のマークスは敵陣の深い位置でジャッカルを決め、再び30-14と点差を広げる一因を作ったが、その代償が、大きかった。攻守に力強さを示していた南アフリカ代表HOが、大事な場面で離脱したのだから。
元日本代表でCTBの立川理道主将は回想する。負傷交代の有無とは関係なく、さらなる引き締めが必要だったと。
「マルコムがどうこうというのはあまり(意識して)ないですけど、自分たちのやるべきことをチーム全体に言う、ということは意識しました。アタックで言えばなかなか継続できなかったですし、ディフェンスでもタックルの精度は低くなっていたので、その修正については言い続けました」
対する静岡ブルーレヴズは、開幕から3試合連続の不戦敗で当時11位だった。もっとも、シーズンを通して組織防御を立て直していた。
前半は27-7と、スピアーズの突破力、瞬時の加速に苦しめられる折もあったが、総じて粘ってはいた。
前半6分に先制トライを取られるまでの間は、スピアーズにアドバンテージを与えながらも鋭いタックルを重ねた。続く10分頃も、自陣ゴール前で列をなして向こうのオブストラクション(妨害行為)の反則を引き出した。
堀川隆延監督は言う。
「成長しているのはディフェンス。一人ひとりが自分たちのシステムを理解し、遂行し始めている」
そのタフさは、終盤も衰えなかった。マークスのジャッカルなどで16点差をつけられた直後は、キックオフを蹴った先へ圧力をかける。ここからしばらく敵陣に滞留し、最後はゴール前左のラインアウトから30-19と迫った。
マークスが去ったのも受けてか、ブルーレヴズはスクラムでも優勢に立つ。後半25分頃、敵陣中盤での相手ボールを押し返す。スピアーズの反則を誘う。
スピアーズはずっと、前方に巨漢を並べてその重さを活かしてきた。マークスが退く直前まで右PRに入っていたオペティ・ヘルは、この日の感触をこう述べている。
「ギャップ(相手との距離)を取ってヒットすることに集中しました。実際に圧力もかけられた。出た選手がしっかりステップアップしてくれて、自分たちのスクラムが組めたと思います」
もっともブルーレヴズ側も、例の一本に至るまでも好感触を得ていた。小さな塊を作って相手の懐をえぐりにかかるのが、このクラブの流儀である。
時間を追うごとに、そのイメージが具現化されたのだろうか。2列目から押していたLOの大戸裕矢主将は言った。
「最初のほうから、ヒットした(組み合った)瞬間にいけるようなフィーリングがあった。試合中はPR陣がだんだん(相手の塊の)崩し方をわかってきたんじゃないかと感じました。それで結果的に、後半になるにつれて崩し切れるようになった。PR陣はすごくいい経験ができたと思います」
件のスクラムで、ブルーレヴズは再び敵陣の深い位置に進む。ラインアウトからのモールで30-24と迫る。
それでもスピアーズは、耐えた。
36分の防御局面では、ブルーレヴズにパスミスが起きるまでがまん。その後はハーフ線付近でFWが身を削り、ボールを確保する。いったん、この午後好調だったWTB根塚洸雅を左端で走らせながら、敵陣22メートルエリアで再びラックを連取する。
追い上げるブルーレヴズに的を絞らせないよう、かつ、確実に逃げ切りにかかったのだ。立川は述懐する。
「3分半、FWだけを使って(逃げ切る)というのは難しい状況だった。チャンスがあれば(大外へ振る)というところで、うまく判断できました。そして、そこからうまく時間を使えた。一人ひとりの判断に、皆がリアクションできたのかなと」
試合終了のホーンは、ファンにスピアーズが首位を堅持した旨を知らせる。LOのルアン・ボタら主力FWをコンディション不良で欠くなかとあり、立川はこう安堵していた。
「あまり経験のない選手を出しながらでも試合に勝ち続けているのは、チームの自信にもなっている。しっかり勝って反省しながら、サントリー戦に向かっていきたいです」
11日には東京・秩父宮ラグビー場で、目下2位の東京サントリーサンゴリアスとぶつかる。