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【ラグリパWest】たったひとりの4年生。竹下尚太 [大阪学院大主将/ロック]

2022.03.09

大阪学院大ラグビー部のたったひとりの4年生であり主将の竹下尚太。ロックとしてプレーでも中心になる。右は松井寛将監督



 大阪学院は吹田(すいた)にある。浪速の人々には母なる淀川のその北になる。

 この総合大学は7学部8学科を持つ。短大や大学院、付属高校も併設する。校舎は茶色のタイル張り。瀟洒な佇まいである。

 地元では「ガクイン」と呼ばれる。高橋尚子の母校である。2000年のシドニー五輪でマラソン金メダル。国民栄誉賞も受賞した。

 野球は関西六大学、サッカーは関西学生リーグの1部。同じ強化クラブながら、ラグビーは関西大学リーグの3部、Cリーグにいる。

 新主将は竹下尚太(しょうた)。たったひとりの4年生だ。

「部をやめたいと思ったことはありません。好きでラグビーをやって、それでスポーツ推薦で大学に入れてもらいました。同期がいる、いない、は関係ありません」

 チームは竹下の入学前の2年ほど、運営がうまく行かなかった。試合中における部員のケガ対応が問題になったり、関西ラグビー協会に払い込む登録料の滞納もあった。監督2人が相次いで辞めた。噂はリクルートに影響する。それでも竹下は入学を決めた。
「卒業まで面倒を見させてもらう、よかったら来てほしい、そう言ってもらえました」
 竹下の通っていた東大阪大柏原に大学関係者らが来て説明をしてくれた。

「中学も同じような状況でした」
 競技を始めたのは大阪の放出(はなてん)。この中学でも竹下の学年はひとりだった。孤独はすでに経験している。
「大学では1つ上の先輩が協力して仕事をしてくれました。ボール出し、水汲み、グラウンドのライン引きなんかですね」
 上級生は優しかった。

 竹下は171センチながらロックである。
「このポジションは足りてないからすぐに試合に出られるよ、と言われました」
 1年は右肩を手術。2年はレギュラー。3年も右ヒザを痛めたが、最終のBリーグとの入替戦には間に合った。試合は15−28。昨季は12校構成のCリーグの4位だった。

 竹下の入学と同時に監督になったのは松井寛将(ひろまさ)だ。今年、不惑を迎える。大阪桐蔭、近大、近鉄(現・花園)でバックスリーをこなした。左足のキックの飛距離や正確性は日本代表クラスだった。兄の祥寛(よしひろ)は近大のコーチを退任。4月から古巣の神戸にチームスタッフとして戻る。



 松井は5年前に現役引退。その翌年、週末コーチになった。先にチームにコーチとして関わっていた近鉄同期のタウファ統悦の誘いがあった。
「ラグビーを教えながら生きていきたいという思いが強くなりました」
 翌2019年、監督に昇格する。タウファは花園の普及担当などの主業があった。松井は近鉄バスを退社する。外部指導員で年俸は下がった。悩みの中、妻の順子が背中を押す。
「好きなことをやったらいい。アカンかったらその時に考えよう」
 2人の子育てをしながら、会社員として働く順子は肝っ玉の嫁であり母である。

 この春で監督4年目を迎える。この間、あいさつや礼儀を教え込んだ。
「お話し中、失礼します。よろしいですか?」
 会話の間、部員たちは正しい行動をとる。
「それがラグビーをする基本やと思います」
 就任当時は練習をアルバイトやヘアカットで休んだり、早退する者もいた。
「スポーツ推薦で入って、奨学金をもらっている者もいる。それはない。そういう学生とは何回も何回も話し合いました」
 経済的な理由がない限り、アルバイトは3年生から活動に差し支えなければ許可をした。

 その奮闘を周囲も認めるようになる。
「摂南さんが練習試合を組んでくれました」
 松井は声を弾ませる。Aリーグチーム。河瀬泰治を総監督に抱き、瀬川智広が監督に座る。河瀬はバックローとして日本代表キャップ10、瀬川は東芝(現BL東京)や7人制日本代表を監督として指揮した。

 松井の下、ガクインは竹下と3年生を中心に10人のリーダー制をとる。
「自主性を持ってほしいのです」
 竹下は話す。
「松井さんやトーエツさんから言われるんじゃなくて、自分たちで作れるようにしていきたいです。その方がいいチームになります」
 3月1日、ベンチプレスの測定などで2022年度のチームは本格始動した。部員数は竹下の代から順に1、6、21。新1年生は9人の入部が決まっており、計37人になる。

 竹下と松井の目標は同じだ。
「Cリーグで全勝優勝して、Bに昇格する」
 後輩たちのために竹下は置き土産を残したい。1年生の時はBだった。ガクインは最上のAで戦ったことはない。創部は学校設立4年後の1967年(昭和42)。今年、部ができて55周年になる。主なOBは安藤哲治(てつじ)。石見智翠館の監督として、冬の全国高校大会出場31回の強豪に仕立て上げた。

 そのチームをつなぎたい。松井は竹下を評する。
「まじめです。ひとりだけの部員なのにラグビーを続けてくれました。精神的にも強いです。1年の時に試合でタックルミスをして、悔し泣きした姿が残っています」
 たったひとりの4年生は唯一無二の主将でもある。

 ガクインのスローガンがある。
<Logos And Pathos>
 ギリシャ語で「理性と情熱」。その2つを胸に秘め、勝利と昇格をつかみ取りたい。