組み合う前から勝負が始まっている。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイでスクラムを教える後藤満久アシスタントコーチは、次戦への意気込みを問われてそう言いたげだった。
3月5日にホームの江戸川区陸上競技場でぶつかるのは、静岡ブルーレヴズ。前身のヤマハ発動機ジュビロ時代から、FW8人の力を濃縮させてスクラムを押してきたチームだ。
今季就任の後藤アシスタントコーチは「レヴズさんはスクラムにこだわりを持っていて、私もリスペクトしています」と意気込む。
「8人全員でまとまっているという印象があります。レヴズのペースに負けない。それが、私たちのフォーカスしてきたことです。細かいところは試合を見て欲しいと思いますが、策としては、相手のスクラムを組ませない」
互いにジャージィをつかみ合う「バインド」の段階から、向こうのまとまりに問いを投げかけるつもりか。そのような趣旨で問われ、後藤アシスタントコーチは「そうですね」とうなずいた。
最前列の左PRには、29歳の羅官榮(ナ・グァンヨン)が入る。今季初先発だ。
本来なら1月7日の開幕戦でメンバー入りの予定も、肝心の試合は対戦相手に感染症のトラブルがあったため中止となった。
選手との対話を重んじるフラン・ルディケ ヘッドコーチから「きっとチャンスは来る」と諭され、モチベーションを保ってきた。
「選手として、開幕戦がキャンセルになって、次の試合から出られなかったことは、苦しかったんですけど、フラン ヘッドコーチと話しながらハードワークし続けました」
過去に韓国代表選出歴のある羅は、リーグで「カテゴリB」と認定される。日本代表入りの資格を持つ「カテゴリA」が17名以上のベンチ入り、11名以上の同時出場が必須ななか、おもに強豪国代表が対象となる「カテゴリC」の選手と絡む形で出場機会が限られうる。昨季までのトップリーグで適用された「アジア枠」は、もうない。
右PRで同じ「カテゴリB」のオペティ・ヘルがブレイクするなか、「ライバルなんですけど、同じチームメイト。オペティ選手がこんなに活躍するのはうれしかったです」と羅。控え組に回っても自分を見失わなかったことで、指揮官の言う「チャンス」をつかめた。
普段「カテゴリB」の位置づけでプレーするルアン・ボタ、デーヴィッド・ブルブリングが、欠場を余儀なくされたからだ。
スピアーズでは、ボタ、ブルブリングに加え、日本代表経験者のヘル ウヴェと、長身でパワーのあるLOが揃ってコンディション不良に陥った。さらに、FLで期待された日本代表主将のピーター“ラピース”・ラブスカフニもラインナップから外れた。
インサイドCTBの立川理道主将は、かねて「軸になるのは大きなFW」。海外出身FWの活躍は、好調の原動力となっていた。
本来と異なる陣容で臨む次戦に向け、後藤アシスタントコーチは「選手を信じることしかできない。下のチーム(控え組)も上のチーム(レギュラー格)も必死にやっているのが、いまのクボタの強みだと思います」。今度LOに入る松井丈典、青木祐樹へ、自分の持ち味を出してほしいと発破をかける。
「ボタやDP(ブルブリング)は、常にFWのエナジーを上げてくれます。ラインアウトでは自主性を持ってコーチングもしてくれる。今週はけがで練習ができないけど、グラウンドに出てくれてアドバイスをしてくれています。それが強さになっている。今週の試合に出るメンバーには、彼ら(ボタ、ブルブリング)とは違う良さがある。青木には運動量があり、松井は攻守ともにパワフルでモールの強さもある。そこを出してくれれば、と思っています」
その後藤コーチから「自分から仕掛けられる。1番(左PR)から押せる」と期待される羅は、「この機会に感謝しています。自分ができることを100パーセントできるように、頑張ります」。
現在の順位は相手が11位なのに対して1位も(7節終了時)、下馬評は意味をなすまい。複数の主力を欠いていたシーズン序盤に続き、スピアーズの組織力が試される。