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【ラグリパWest】リーチ2世。石橋チューカ [報徳学園/NO8]

2022.03.02

報徳学園の新チームをけん引するNO8の石橋チューカ。運動量の多さはチーム1。今月25日から始まる第23回全国選抜大会で上位進出を目指す



 西條裕朗のつぶやきを聞き洩らさなかった。
「リーチ マイケルより、将来はようなると思うんやけど…」
 視線の先には石橋チューカがいた。チームメイトから頭ひとつ抜ける大きさ。褐色の肌。丸顔の中の瞳の輝きは勇気を伝える。

 報徳学園の監督は新3年生のNO8に突き抜けた評価を与える。

 リーチの寸評はラグビーマガジン作成のリーグワン『OFFICIAL FAN BOOK』にある。
<誰もが知る、頼れる日本のラガーマン>
 BL東京(旧・東芝)に所属。バックローとしての日本代表キャップは72を誇る。

 チューカはナイジェリア人の父と日本人の母を持つ。身長は188センチ。リーチより1センチ低いだけだ。昨年から高校日本代表候補に入っている。

「チューカはトライを取っても、取られてもその場にいてます。普通の選手はブレイク直後は三分の走り。たらたら行きます。でも彼は違う。最低でも八分。だから追いつく」

 その骨惜しみしない動きを西條は特徴として話す。トレーニングのわずかな待ち時間、チューカはかがみ込まない。頭の後ろで手を組み、胸を張る。横隔膜を広げ、呼吸をしやすくする。教えられたリカバリーを守る。

 西條は59歳。目は確かだ。日和佐篤、庭井祐輔、梶村祐介らの高校3年間に関わった。日本代表のキャップはそれぞれ51、10、1。日和佐は神戸(旧・神戸製鋼)のSH、庭井と梶村は横浜(旧キヤノン)のHOとCTBだ。

 チューカはその幅広い機動力を生かすため、新チームではLOからNO8に下がった。
「トイメンに負けられないポジションです。僕が負けたら、チームも負けます。自分を強くしてくれる場所だと思っています」
 尊敬する選手はイングランド代表のマロ・イトジェ。195センチのLOだ。
「身長が高いのに下働きをいといません。目立たないところでも仕事をします」
 17歳とは思えない覚悟、そして着眼がある。

 チューカは下宿生だ。自宅は西の姫路。学校は東の西宮。同じ兵庫県内だが遠い。そこでOBの高木重保の実家に住まう。登校にかかるのは自転車で10分ほど。高木は46歳。PRとして龍谷大からヤマハ発動機に進み、日本代表キャップ5を得る。

 下宿先では、「おばあちゃん」と慕う高木の母・佐代子と2人で暮らす。父の純一は7年前に他界した。この学校で保健体育の教員だった。チューカは孫のように可愛がられている。ひとり部屋での気分転換は携帯での映画鑑賞である。
「海外のアクションものが好きです」
 最近見たのはスパイダーマンの『ノー・ウェイ・ホーム』だ。



 おばあちゃんはチューカが体重を増やす試みにも全面協力してくれる。
「作ってくれるごはんはなんでも美味しいです。特に好きなのは肉じゃがです」
 弁当や補食のおにぎりも手渡す。
「お米よりお餅が食べやすい、と言えばお餅を出してくれます」
 感謝がある。体重は入学時から15キロ増の90キロになった。

 おばあちゃんのごはんでできた体を居残りのウエイトトレで鍛え上げる。
「毎日、全体練習が終わってから、1時間くらい部位を変えてやります」
 相棒は同級生LOのジョーンズ日光。アメリカ人の父と日本人の母を持つ。
「ジョーンズはトレーニングのことに詳しい。お互い、強くなれたらいいなと思います」
 自己最高はベンチプレス100キロ。スクワットは140キロだ。
「まだまだです。スクワットは210キロを挙げる人もいます」
 飽くなき向上心がある。

 ジョーンズら同期は当然ながら、チューカは後輩も大切にする。森泰造は1つ下のSH。父の拓郎は関西大の監督である。
「息子と話をすると、よくチューカ君の名前が出て来ます。優しい、って言っています」
 本人は不思議そうな顔をする。
「自分ではわかりません。後輩たちには普通に接しているつもりです」
 チューカは今、人としてパーフェクトな状態なのかもしれない。

 競技を始めたのは糸引小の3年から。友達の誘いで姫路ラグビースクールに入った。
「楽しかったです。自由に走れました」
 姫路・灘中2年で兵庫県ラグビースクールに移る。並行してやったのは小学校で陸上のハードル、中学校は相撲だった。
「相撲で足腰が鍛えられたと思います」
 報徳学園を選んだ理由を話す。
「中学の時は女子がにぎやかでした」
 男子校で勝負に集中すると決めた。

 最上級生になるチューカは最初の全国大会に挑む。3月25日に開幕する23回目の選抜大会だ。報徳学園としては4年ぶり5回目の出場。選考となる近畿大会は連勝した。初戦の奈良朱雀・奈良商工には118−0、関大北陽には58−12とともに圧倒する。

「ボールを持ったら、必ずゲインをして、チームが勝てるようにしていきたいです」
 チューカは力を込める。この学年は報徳史上最高との呼び声が高い。SO伊藤利江人(りえと)やWTB海老澤琥珀(こはく)、FB竹之下仁吾ら才能が集まる。3人は7人制日本代表の予備軍であるセブンズユースアカデミーに2年生から召集されている。

 今年のチームスローガンは「IMPACT」。チューカは赤黒ジャージーの先頭に立って、対戦相手に衝撃を与え続けたい。