似ている人=赤井英和。
今は俳優。出だしは世界の頂点を狙うボクサーだった。その格闘的なところも羽根田智也(はねだ・ともや)は備えている。
大学時代、龍谷のラグビー部でロックとして力強さを磨いた。社会人で日本代表に選ばれる。キャップはひとつ。そして、指導者として京都の母校に戻る。52歳になった。
唯一のフルタイムのコーチとして2年目を迎える。部長兼監督の原田太津男(たつお)は経済学部教授、総監督の藤谷徹は京都・神川中の教頭。羽根田にかかる比重は大きい。
「自分にとってはチャレンジですが、コーチをさせてもらってよかったです」
笑うと細い目は線になり、顔全体が崩れる。そこも赤井英和に似る。円陣では頭ひとつは出ている。現役時代は188センチ、103キロ。今でもチームで一番の大きさがある。
フルタイムの前はパートタイムで1年を過ごした。昨年1月、ワールドを退社する。大学を卒業して勤めたアパレル企業は強豪ラグビー部を持っていた。神戸の会社へは大阪の実家から通っていた。フルタイムが決まり、京都に移り住む。前のめりだ。
「リューダイ」は現在、関西二部のBリーグにいる。昨年、早くも強さ増しを感じたのは立命GMの高見澤篤である。
「ボールキャリアーが倒れても、バンバーンって感じで瞬時に2人目が来てクリーンアウトする。あれは羽根田さんの教えだろう」
6月の春季トーナメントは20−17。格上Aリーグの立命はなんとかうっちゃった。
半年後、師走の入替戦は摂南に29−69。後半18分、14点差でペナルティー・キックのタッチがインゴールを超えてしまう。
「あのキックがちゃんとタッチに出て、7点差になれば、ウチは危なかった」
とは摂南の関係者。龍谷は16分前、ラインアウトモールでトライを挙げていた。
「それはポテンシャルが高い学生たちが4年間頑張った結果です。メンバーの4年生たちは1年の頃からレギュラーでしたから」
羽根田は自分の手柄にしない。ラグビー部の運営が学生主体ということもある。
「練習メニューも学生が決めます。課題を克服してチームを創り上げます」
自分が選手だった頃もそうだった。
出身は大阪の関西大倉。高2の時、ラグビーの授業があった。教員で監督の佐藤秀記は入部を誘う。そして龍谷に進む。
「当時はBリーグでしたが、自分の2つ上くらいからスポーツ推薦が始まりました」
1987年の入学から3年続けて入替戦に出た。3年時には24−4で立命を降し、Aリーグに初昇格する。1929年(昭和4)の創部から60年を経ていた。
「あの頃は自由でむちゃくちゃ楽しかった。サークルのような感じでした。練習に行きたくない、なんて考えたことがなかった。オフも早く終わってほしい、と思ったものです」
監督はいたものの学生の自主運営はよい方向に出る。4年時、初のAリーグは4位に入る。3勝3敗1分。黒星は喫したが、同志社には12−16、大阪体育には6−10とリーグ戦の優勝経験がある相手に健闘した。
ワールドでは1994年、神戸製鋼の公式戦連勝記録を71で止める。スコアは25−24。その翌年、日本代表に召集され、2月11日のトンガ戦に出場。名古屋・瑞穂でのテストマッチは16−47だった。2008年に現役引退。その翌年、チームは廃部になった。勤務は続ける中、母校から声がかかる。
羽根田に新4年生の主将、片山諒汰は親しみを感じている。
「話しかけやすい雰囲気です。去年は様子を見ている感じやね、と話していました」
学生たちを尊重する。年齢やジャパンをかさに着ない。ただ、視線は外さない。
「移動を早く」
言葉は短く、的確だ。このチームに合ったやり方を知っている。
4月の開講までは二部練の予定だ。グラウンドで2時間ほど、ウエイトルームでは1時間以上。これも学生たちが決め、羽根田が了承した。自分たちで決めたことだから前向きに取り組む。よい伝統が顔をのぞかす。
2年目の目標を羽根田は挙げる。
「Bリーグで優勝して、Aに昇格することです。リューダイの歴史の中で昇格は自分たちの時の1回だけ。あんな喜びはありません。それを学生たちにも味わってもらいたい」
龍谷は羽根田が4年生の1990年から18年間、Aだった。すべて1回戦負けも大学選手権には7回の出場実績がある。入替戦はこれまで、コロナで試合そのものがなくなった2020年を除き、7年連続で出場している。Aに復帰すれば、大学側の支援も「強化」から「重点」と最上に戻る可能性が高い。
1年生は15人ほどの入部が見込まれている。常翔学園、大阪桐蔭など強豪校の名前が上がる。関西の私大では関関同立に続く、産近甲龍(さんきんこうりゅう)。京都産業、近畿、甲南とともに一角を占め、人気はある。
新入生の来着と同時に春が訪れる。日々の練習があるのは、東山の峰の南東、南大日(みなみだいにち)のグラウンドである。冬枯れは終わり、辺り一面は生命の息吹に包まれる。人工芝と相まってそれらの緑は美しい。その自然界の流れに沿うように、羽根田は赤いジャージーにもう一度、力を吹き込んでいく。