試合終盤に一気に12得点。それまではノースコアだった。いったい、何を修正したのか。リコーブラックラムズ東京の松橋周平は答える。
「修正といいますか、あれが僕たちのラグビーという部分。あれが、(最初から)出せなかった」
2月27日は、ホームの東京・駒沢オリンピック公園競技場で背番号7をつけた。リーグワン・ディビジョン1の第7節だ。
相手は横浜キヤノンイーグルス。このカードは、前身のトップリーグ時代には「事務機ダービー」と言われた。地域密着や社会化を謳ういまのコンペティションにおいては、ブラックラムズの貴重ないちホストゲームである。ウォーミングアップ中の場内には、選手のお気に入りの曲が順に流れる。
ブラックラムズが最後に試合をしたのは2月5日。その後は休息週、新型コロナウイルスの陽性者の発生に伴う不戦敗があった。
特に第6節は直前にキャンセルされたとあり、「フラストなところは、かなりありました」。フラストレーションがたまるという意味合いか、松橋が正直に明かす。
「試合ができると思って試合ができなかったなか、どこかで試合での感覚が薄れてしまったところはあるかもしれません。それでも、やるべきことはやらなきゃいけなかったですが」
果たしてこの日は、序盤から風下のイーグルスの猛攻を食らう。
イーグルスここ2シーズン、沢木敬介監督のもと運動量と果敢に空間を突く意欲を涵養(かんよう)。この日も陣地を問わずに攻め、ブラックラムズがラインをせり上げればその裏にキックを放つ。
5点を先行して迎えた11分、相手ボールキックオフを自陣22メートルエリアで確保すると、右、左と散らし、CTBのジェシー・クリエルのパスからFLのコーパス・ファンダイクが大きくゲイン。今度は左タッチライン際で、WTBのヴィリアメ・タカヤワが防御を巻き込みながら前進する。いったんハーフ線を超える。
その時、自陣10メートルエリアでSOの田村優が待機。接点から球を受けると、右奥の空洞へふわりと蹴り込んだ。弾道を追ったWTBの松井千士がフィニッシュ。直後のゴール成功もありリードを広げた。0-12。
かたやブラックラムズは、起点となるぶつかり合いでもやや後手を踏んだか。続く17分には15点差をつけられた。松橋はこうだ。
「相手は田村優さんが起点になって、乗ってくるとわかっていた。それで対策をとってきたつもりです。でも、(圧力を)受けてしまって、そのまま乗せてしまった。シンプルに、相手は勢いよくフィジカルに来るとわかっていた。僕らもフィジカルに行って相手の勢いを止めるつもりでしたが、そこのバトルに負けたということ。(日程の問題による)フラストレーションは言い訳にはならないです」
後半19分に0-25とされた頃からようやく息を吹き返し、22分にSHの南昂伸のサイドアタック、その後の継続を介して松橋がトライを決めた。松橋は、守っても相手NO8のアマナキ・レレイ・マフィへのハードタックルで気を吐いた。
さらに35分までの数分間は、ブラックラムズはイーグルスのお株を奪う。自陣から攻めるのだ。
SOのアイザック・ルーカスが飛び出す防御をすり抜けるように突破。敵陣22メートルエリアでは味方が落球も、まもなくフリーキックの獲得からフェーズを重ね、同ゴール前左でルーカス、CTBのメイン平とつないで、最後はWTBの栗原由太がフィニッシュする。献身的な姿勢を貴ぶのは、ブラックラムズも同じだった。
しかし、12-30で3勝目を逃した。松橋は嘆く。
「ファンのために必ず勝とうと挑んだ試合だったのですが、最初の20分でやりたいようにやられたのがすべて。僕自身もフィジカルに行けなかったのが悔しかったです」
かたや勝った田村は、「これから成長できる、いいレッスンだったと思います」と語る。
「皆がうまくスキャニング(状況把握)できている時はボールをスペースに運べたけど、それをおろそかになるとただぶつかっているだけになることもあった。うまくいっているところはぎりぎりのライン(を攻めていたの)ですけど、これから強いチーム(との対戦)にはちょっとのチャンス、スペースを活かしていかないといけない。よくなっているので、さらによくするというだけです」
ハーフタイム終盤にあった攻めあぐねたシーンも踏まえてか、このように先を見据えたわけだ。一方、序盤の総攻撃への手応えも語る。
「風下、というか(風が)舞ってはいたのでコンディション的に難しかったですが、ボールを保持しながらスペースがあれば蹴るし、ペナルティを取れれば取るし、と。とにかく精度の高いプレーが大事だと思い、意識しました」
イーグルスの序盤のプレーと言えば、前節の静岡ブルーレヴズ戦(19日/静岡・ヤマハスタジアム)も思い出される。
イーグルスは前半13、15分と続けて2選手がイエローカード(10分間の一時退場処分)でグラウンドを離れるピンチを背負いながら、その時にあった8点のビハインドを1点に減らす。FWのモールとラックの連取で時間を使ったそのマネジメントは、28-18で勝った一戦のハイライトとなった。
今度のブラックラムズ戦では、イーグルスは攻めに攻めて一気にリード。ブルーレヴズ戦の時よりもわかりやすい形で序盤のペースを握った。そのため試合後の記者会見では「前回よくなかった立ち上がりを修正したか」といった趣旨の質問が出た。
ところが田村は、「そう感じたんならそう書いてください」と毅然としている。
「先週も(序盤の試合運びを含めて)よかったですよ。皆、いいパフォーマンスができている。成長しているチームだと思います」
ブラックラムズが粘り強い戦いでファンの心をつかんだ一方、イーグルスは一気呵成に攻め切る技能と運動量を示した。この日の勝利で通算5勝2敗。12チーム中5位と、4強によるプレーオフ行きへ確かな一歩を刻んだ。