田村優が端的に言った。
「身体は他の人に使ってもらって、僕は頭を使う試合だった」
横浜キヤノンイーグルスの主将として、ジャパンラグビーリーグワンの第6節に挑んだ。会場である静岡のヤマハスタジアムは雨に見舞われ、自軍は一時2枚のイエローカードをもらい13人でのプレーを強いられた。
ところが、そのタフな時間帯に8点ビハインドを1点差に詰め、その後は7-18とやや離されながらも後半27分に初めて勝ち越した。2月19日のこの一戦では結局、ホストの静岡ブルーレヴズを28-18で撃破。今季通算4つめの白星を得た。
数的不利を強いられていた時は、攻撃権を得るやFW陣のモールと突進を多用。確実なボール保持を心掛けた。動きが途切れるや味方の足を止めて声をかけたのも、抜けた仲間が戻るまでのタイムマネージメントの一環だったか。
かような意思決定についての言葉が、「身体は他の人に…」であったのだ。
日本代表として2度のワールドカップに出場してきた33歳。苦境を脱するまでの心境につき、行間を読ませるような証言を残す。
「時間を使いながら、(相手の)ペナルティ(で得られた)を使いながら。そこには、いろんなチョイスがありました」
「人数がいない時間があったので、勢いは後からついてくると思った。きょうみたいな試合をがまん強く、(集中力を)切らさずに勝てたことはよかったです。成長する試合になったと思います」
「(13人の時は)通常とは違うプレーを選択したところもあります。これはラグビー。相手より1点でも多く取れればいい。FWが力を発揮するところで発揮してくれた。自分たちの優位に立てるところを探しながら、そこで力を出せるようにエネルギーを与えました」
田村とともに会見に出た沢木敬介監督は、「ああいう状況でFWがタフに戦ったことが、勝利につながったと思います」。モールの押し込みやラックの連取で計4トライを奪ったFWを讃えた。
奮闘には伏線があった。約2週間前にあたる2月6日、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場での第5節を落とした。21-50。不戦勝を挟んで2連敗となった。
あの午後は、クボタスピアーズ船橋・東京ベイに攻めのテンポを鈍らされた。昨季前身のトップリーグで初めて4強入りしたスピアーズは、南アフリカ代表HOのマルコム・マークス、身長2メートル超のLOのルアン・ボタら大型FWを要していた。
敗れた指揮官は、自軍の選手の動きを「コンタクトを見ていても、パッションが伝わってこない」。同時に「負けたのは僕の責任」とも述懐した。結果責任を問われる職業倫理に沿って、公式戦への準備の仕方を見直す。
次戦までのインターバルが通常よりも1週間、多かったのを活かし、リフレッシュの時間を確保。その代わりに、グラウンド上では圧のかかるメニューを増やした。
沢木は「自分たちのスケジュールを詳しくは言いたくないです」としながら、トレーニングの基本設計を明かす。
「いままでずっと試合が続いていたので、コンタクトのレベルや時間を制限していたんですが、今週は、ゲームライクに近い形でやりました」
かつて日本代表のコーチングコーディネーターを務めた46歳。昨季からイーグルスの強化を託されるや、短時間ながらも高強度なセッションをするよう心掛けてきた。かくしてゲームにおける持久力を高め、昨季はチームにとって2016年度以来となるトップリーグ8強以上を果たしていた。
もっともシーズン中の練習では、試合への調整のために軽度な練習を採り入れるのが一般的。沢木もかねて「時間を使って(サインプレーや連係を)確認しなければいけない日もある。(ハードな練習との)バランスが大事」と話していた。
ただ今回、改めて感じたことがあった。負けたスピアーズ戦までの過程を頭に思い浮かべながらであろうか、こう振り返った。
「もっとプレッシャーのある練習が(あれば)よかった。イーグルスには、そういうことの必要な選手がたくさんいるんじゃないでしょうか。(強度の低い練習でも)ゲームで起こりうるプレッシャーを作ってはいるんです。でも、(時として)いままでの悪い癖が出ますよね。『練習の練習』をする、みたいな」
例に挙げるのは、昨年6月12日にお目見えした特別なチームのことだ。
沢木はこの日、日本代表の強化試合に挑んでいた。特別に編まれたサンウルブズのコーチングコーディネーターとして、約1週間の準備で本番に臨んだのだ。
すべての出場選手が練習に出そろうのは、試合の2日前だった。それでも代表の主軸を並べたJAPAN XVに、17-32と対抗。見事な連係技を披露し、前半は3-14とリードしていた。
当時の状況を想起し、国際的選手の特徴とイーグルスの現在地について述べる。
キーワードは、「ゲームをイメージする」だ。
「少しレベルの高い選手やチームになると、練習の強度に関係なく常にゲームをイメージして動けると思うんです。例えばサンウルブズにいた選手は、準備期間が2~3日でもゲームに対応できる。ただ、いまのイーグルスにはそういう選手がまだまだ少ないです。だから、ゲームのような強度の練習で(本番でかかるプレッシャーを)イメージさせる必要があるなと。まずは、こうやって(練習時から試合を)イメージさせられるようにマネジメントしなければいけない。ここから選手が成長していけば、自然と強度に関係なくゲームをイメージできるようになってくると思います」
つまり、田村がブルーレヴズ戦で「成長できた」と実感できたイーグルスには、まだ伸びしろがあると沢木は見る。
「強度が低いからといって『練習の練習』をするか、大事なポイントを自分のなかで整理してゲームのための練習をするか(の違い)です」
ちなみにイーグルスは、ディビジョン1加盟の12チームにあって所属する他国代表経験者が3名に満たない4チームのうちのひとつだ。沢木は展望する。
「今年は一試合、一試合、全力で、高い基準、レベルのラグビーをやり切れるかどうか。その――メンタル面を含めた――強さを、試す、年だと思っている。他のチームと比べて外国人の人数も少ないし、選手層もそんなに厚いわけじゃないですけど、逆に、成長できるチャンスだと思っている」
リーグ戦は残り10試合。現在5位と、4強以上でのプレーオフ行きも射程圏内に捉える。