そのプレースタイルを、やんちゃと言ったら失礼だろうか。
相手の想定を超えるプレーでアタックを仕掛ける。田代宙士はアグレッシブな10番だ。
入団14年目。生え抜きとしてチーム最古参の存在になった。
「毎シーズン、チャレンジしている」から変化はしているけれど、マインドはいい意味で何も変わらない。
ブルースの魅力を引き出す術を、誰よりも知っている。
34歳になっても「気持ちは若い」。プレーは攻撃的なまま、円熟味を増す。
「昔は(パスを)回しまくっていたと思います。でも、いまはキックするところはキック。攻めるところは攻める。状況に応じてプレーしています」
チームの意志と、自分の意志。自陣、敵陣。時間はどうだ。
勝利を第一に、それらのバランスを考えてゲームを組み立てる。
そして時々、冒険的。それがないと田代宙士ではない。
勝利を多く重ねた年もある。下部リーグに落ちたことも。いろんなシーズンを過ごしてきた。
過去を俯瞰して振り返り、「BKがのびのびプレーできたシーズンは、ブルースらしい試合をやれることが多かった」と話す。
「ただその裏には、FWの頑張りがあった」とSOらしくチーム全体に目を配る。
2016-2017シーズンが記憶に残っている。多くのファンが見守る中、グローバルアリーナで東芝にも勝った(31-21)。
15戦を戦い、7勝を挙げた。
その東芝戦を、自身のブルースでのキャリアの中のベストゲームと記憶している。
「よく仕掛けられました。ボールもよく動いた」
FWもBKも走り回った。
長くプレーして思うのは、同じシーズンなんてない、ということだ。
ラグビーは変化する。チームに所属するメンバーも変わる。
自分も成長する。
2022年シーズンのブルースは、特に変化が大きい。かつてのチームメートたちが移籍で宗像を離れ、あらたな仲間がたくさん加わった。
指導陣もガラリと変わった。
「スタイルも、システムにも変化がある。新しいシーズンは、10番から仕掛けることが多くなりそうです。責任が増えました。僕がちゃんとプレーすればうまくいく」と自覚する。
パスを供給してくれるSHも、外側にいる選手たちも、昨シーズンまでと違う状況が多くなるだろう。
「なので、コミュニケーションを多く取るようにしています。自分の考えを伝え、相手の考えも聞き、互いに理解を深めないと」
パワフルな選手、スピードある選手が増えて頼もしく感じている。その武器をどう使うか、腕の見せ所だ。
福岡・久留米の出身。りんどうヤングラガーズでラグビーを始め、大分舞鶴高校に進学した。卒業後は関西の大学に進学するも水が合わず、 すぐに故郷へ。りんどうクラブでプレーしてチャンスを待った。
トップレベルでのプレーを諦めずによかった。
やがてサニックスとの縁を掴んでいまがある。「拾ってもらった恩義がある」と、長くチームを支えてきた。
昨シーズン終了後に多くの仲間たちがチームを移ったときには、心が揺れた。
しかし、「ブルースでやる、と決めたからには、いまはディビジョン2に上がることしか考えていない」と前を向く。
切り替えの潔さも、この人の魅力だ。
長くプロ選手として生きてこられた理由を「ラグビーが好き。その気持ちがなければ、こんなに長くやれなかった」と話す純粋な男も年齢を重ね、将来を見据える。
年々「この1年が勝負」の思いは強くなる。やり切る気持ちで新シーズンへの準備を重ねる。
そんな背景もあり、コーチングの勉強も始めた。ブルースコーチ陣の日常を見つめ、指導法を頭に刻み、言葉の使い方なども学ぶ。
その積み重ねは将来歩んでいく道を照らすだけでなく、プレーヤーとしてのもうひと伸びにもつながりそうだ。
数年前に「以前は自分のことしか考えていなかった」と言っていた男は、「若い頃は試合に出ても判断ミスや失敗が多かったけど、コンスタントに試合に出られるようになって分かってきたことが多くあった。こうしたらうまくいくのにと気づいて、後輩たちにアドバイスできるようになった」と階段を昇った。
ラグビー人生のゴールへと続く階段が、あと何段残っているのかは分からない。
ただ、本人が「そろそろ」と言おうが、まだまだありそうと思わせるのが、この人の不思議なところだ。