勝利後のロッカールームで歌うチームソングがある。
横浜キヤノンイーグルスのそれは、『オー・シャンゼリゼ』の曲に自分たちで作った歌詞をのせたもの。
今年はすでに2回、その歌声が試合後に響いた。
コロナ禍による1試合の中止を除く今季3試合で2勝1敗。
コベルコ神戸スティーラーズ戦の大勝、埼玉ワイルドナイツ戦の健闘も含め、今季の横浜キヤノンイーグルスは昨季より進化したパフォーマンスを見せている。
標榜するアタッキングラグビーが浸透しつつある。
沢木敬介監督、田村優主将(SO)体制2季目。ターゲットにするトップ4との距離は確実に近づいている。
「沢木さん、キャプテンが先頭に立っていた昨年と違い、みんながそれぞれ考えるようになった。そこがチームの力として大きいと思います。上に引っ張ってもらっていたところから、取り組む姿勢が変わった」
チームの変化をそう話すのはPR岡部崇人だ。
今季は自身も(今週末のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦まで)4戦連続で1番を背負う進化を見せている。
今季が4年目。充実した日々を送っている。
岡部自身、沢木監督の指導を受けて変わった。新体制1年目の昨季は、指揮官に怒られることも少なくなかった。
「すべてにおいて100パーセントでやれ、とアドバイスを受けました」
何も考えずに必死でやれ。そう言っているわけではない。
誰だって全力でラグビーに取り組んでいる。それは大前提で、戦術の理解、姿勢の低さ、細かなスキルなどなど。パワーを発揮するとともに、細部にまでとことん気を配らないでどうする。
その積み重ねが自身を少しずつ変えていった。
チャンスを掴んだのは昨季途中だった。ベンチスタートが多かったシーズン序盤。プレータイムも少なかった。
第5節のリコー戦だった。7-14とリードされた前半が終わると、先発フロントロー3人が退く。40分のプレータイムが与えられた。
逆転勝利に貢献した。
以降、プレーオフ2試合を含む3試合に続けて先発。リーグワン元年も含め1番を背負い続けている。
今季はシーズンまでの準備期間にFWパックの強化に割く時間も多く、スクラムも整備された。
「そういうこともあってスクラムも安定してきたので、それ以外の部分に気が回るようになったのかもしれません」
岡部は自身の好調さをそう分析する。
「スクラムの奥深さを語るには、まだまだです。いまは、チームがやろうとしていることを徹底して遂行したり、コーチの言うことを守って結果を得ている段階です。いろんな経験を得て、それをなんとか次に活かしています」
引き出しを増やすには、まだまだ時間がかかると自覚している。
チームも自分も、自信を得て少しずつ前進していると感じている。
「チームは昨季の序盤に大敗したパナソニックにプレーオフは善戦したり、そういったことで変わり始めました。自分も、少しずつですが、持ち味のボールキャリーなどを見せられるようになってきました」
関西学院大時代はバックローとして活躍した。LOでも時々プレー。学生時代にイーグルスの練習に参加した時、「フッカーでなら採用できると思う」と誘われ、フロントローとして加入した。
実際にイーグルス1年目はHOも、2年目からは当時のアリスター・クッツェー ヘッドコーチの勧めもありPRへ。
「山路(泰生)さん、城(彰)さん、金子(大介)さんをはじめとした先輩たちに多くのことを教えてもらいました」
苦しんだ時期もあったが這い上がった。周囲への感謝の気持ちを忘れない。
バックロー出身者だけに、フィットネステスト(ブロンコテスト)の数値はPRでナンバーワン。試合出場機会が増え、いろんなチームのいろんなPRと組むことが増えたから、スクラム内部での対応力も高まりつつある。
やるからには日本代表も含め、できるだけ上のレベルを目指したいと意欲も高まっている。
しかし、強豪と戦うことでトップチームとはまだ差があることも実感する。
「(今季第3節で戦い、3-27と敗れた)パナソニックはさすがでした。ディシプリン高い守りは凄かった。スクラムも研究して臨みましたが思うようにはいかなかった。でも、それらのことを体感した上で、また戦えるのは大きなこと」
未来を見据えて歩みを進める。
イーグルスのウイニングソング、『オー・シャンゼリゼ』の最新版は昨シーズン前に作られた。岡部は、外国人選手も含む数人の作詞メンバーの一人だ。
「沢木監督は、強くなるためにはチームを好きになることが大事とよく言います。チーム愛や、自分たちはイーグルス、という言葉を盛り込んだものにしました」
今季あと何回、仲間たちとこの歌をうたうことになるだろう。
その時間がどんどん楽しくなるなら、チームの一体感が高まっている証拠。チームの強さが本物になっていく。