マスク越しに口角を上げているのが伝わる。ジェイコブ・ピアスがオンライン取材に応じ、初めて体験する日本のラグビーについて語る。
「本当に信じられない。想像していたよりもタフで、フィジカルで、クイックな展開がありました。スーパーラグビーのような、質の高いラグビーをおこなっている印象です」
今年1月からの国内リーグワンにあって、最も際立つ新外国人のひとりだろう。
開幕から東芝ブレイブルーパス東京の正LOに定着し、地上戦に潜り込んでのボール奪取、相手をつかみ上げるタックルと、タフなプレーで防御を引き締める。
身長201センチ、体重106キロと大柄な24歳は「そう言ってもらえてありがたいですが…」と目を細める。それまでプレーしていたニュージーランドと異なる日本のスタイルに、敬意を示す。
「まだまだよくなれる箇所があります。ラッキーなことにブレイクダウン(接点)で何度かボールをスティールできていますが、日本ラグビーにもっと合わせていけるようにしたいです。(足元への)チョップタックルをされることが多く、展開が多い。それにニュージーランドでは相手ランナーが真っ直ぐ来ることが多いだけに動きが読みやすいところもありますが、日本ではそうはいかない。ぶつかり合いのところでも、(ランナーが)すぐに倒れないイメージが強いです」
表情を緩ませるのは、開幕戦でのファインプレーに話題が及んだ時だ。
味の素スタジアムでの一戦は46-60と敗れたが、ピアスは攻守に奮闘する。特に前半17分には、対する東京サントリーサンゴリアスが接点からもぎ取ったボールに鋭くアプローチ。約25メートルの距離を3つのドリブルで直進し、インゴールエリア右中間で弾んだ球を抑え込む。
直後のコンバージョン成功で14-8と勝ち越した瞬間について、このように笑う。
「ただ単に、ラッキーでした! 毎日あれを練習していますと言えたらいいんですが」
父のスコットさんは、ニュージーランドと日本の両方で7人制日本代表となったことのある親日家のラグビーマンだ。
山口の日新製鋼、静岡のヤマハ、神奈川の三菱重工相模原などで選手やコーチをしていたため、ジェイコブも幼少期から両国を行き来していた。静岡ブルーレヴズの前身にあたるヤマハに縁のあった時期は、父のチームメイトに元フィジー代表のワイサケ・ソトゥトゥがいた。
ソトゥトゥの家は、学校などの代わりを果たすホームスクーリングの場所だった。そのためジェイコブはよく、自身の1つ年下のソトゥトゥの子どもと楕円球を追った。
その子どもの名はホスキンス。一昨年初めてニュージーランド代表となったパワフルなNO8である。
ジェイコブ少年が日本ラグビー界により親しんだのは、父が三菱重工相模原で働き始めた2003年以降のことだ。ロッカールームやウェイトトレーニング場へ出入りし、その雰囲気、光景、匂いを身近に感じた。
所属する外国人選手に、ニュージーランドを代表する司令塔であるダン・カーターの元フラットメイトがいるとわかったことがある。向こうに「あっちへ行け」と言われるまで、カーターのことを詳しく教えてくれとせがんだ。
思い出を時系列で語るのは簡単ではないが、極東の島国への愛着は強い。
「日本には幼少期に過ごした楽しい思い出があるので、帰ってきたいと思いました」
青年期は母国で過ごした。オークランドのノースショアラグビークラブをおもな拠点とし、18歳以下ノースハーバー代表、20歳以下ニュージーランド代表に選ばれる。
「日本のシーズンの合間に帰国したヤマハや三菱の選手が、私の家に泊まり、現地のクラブでプレーしていたのをよく覚えています」
もともとラン、パスが主体のBKの選手だったが、「14~15歳」で急速に背が伸び、「16歳くらい」から空中戦要員のLOに転向。17歳までには2メートル超となり、「あのままBKをしていたらジョーディー・バレットにはっていたかも!」。身長196センチのニュージーランド代表BKを引き合いに出し、おどける。
2018年からは、スーパーラグビーに参戦するブルーズに在籍した。4度目のシーズンを終えると「もう一度契約を結ぼうか。ただ、長年いた。今後をどうしようか」と思案。なじみのある日本からオファーを受けたのは、ちょうどその頃だった。
2021年までのトップリーグで5度の優勝を誇る東芝の歴史や特徴については、父から伝え聞いている。判断は難しくなかった。
「ニュージーランドから離れることはつらい決断でしたが、いまはこの選択がベストだったと考えています。日本での滞在を毎分、毎秒、楽しんでいます。現実とは思えない、本当に素晴らしい時間を過ごしています」
入団するや八面六臂の活躍。元ニュージーランド代表LOのトッド・ブラックアダーヘッドコーチにも評価される。
「いいスキルを持っていて、ダイナミックに動ける。リーダーシップも発揮しています。ここまでいいプレーをしてくれていることは、いい意味で想像していませんでした。彼は若いので、これからもっと成長するでしょう」
そうなればおのずと、将来の日本代表入りが期待される。
海外出身者が代表資格を得る条件のひとつに「通算10年の居住」がある。ピアスは出生時からの約12年間でこの国にいた時期が多くあるため、「そこに精通した方」へ諸々の調査や調整を頼んでいるとのことだ。
「もう、何人かの方から『ジェイコブ、日本代表でプレーしたいのか?』と話をされることがあります。私自身、日本代表でプレーできたら素晴らしいと感じます」
強くて朗らかなピアスは2月5日、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場での第5節に先発する。対するはブルーレヴズ。くしくも父と縁の深いクラブだ。