10-17。1月30日に福岡・ベスト電器スタジアムでおこなわれた九州ダービー(ジャパンラグビー リーグワン/ディビジョン3)は接戦となった。
宗像サニックスブルースが競り勝った80分を引き締めたのは、九州電力キューデンヴォルテクスの粘り強いディフェンスだった。
全員でいっきに飛び出す鋭い出足。トライラインに迫ったブルーのジャージーにグラウンディングを許さない。
失トライは2つだけ。よく守った。
それでも共同主将(ゲームキャプテン)のFL高井迪郎(みちろう)は、「よくやったというより悔しい」と話し、健闘を称える声を簡単には受け入れなかった。
「サニックスのプレッシャーは強かった。もっと自分たちのやりたいことをしたかった」
ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチ(以下、HC)が「プレッシャーをかけ続けるゲームプランがありました。しかし、キーになる局面で緩めてしまったことがあった。良いチームはかけ続けられる」と振り返るように、集中力が途切れることがあった。それが悔しい。
主将は、シーズンは始まったばかり。「まだまだ成長できる」と先を見つめた。
九州ダービーを「意識した」という高井主将は、魅力的なラグビーを見せようと試合に臨んだ。
「見に来ていただいた方に、ラグビーって楽しいな、サニックスも九電も頑張っているな、と思ってもらえたら九州からラグビーを盛り上げられる、と」
自分たちの色を強く出したかった。
ヴォルテクスにとっては、それがディフェンスだった。
「九電のレガシーの中に、ディフェンス、我慢するというものがある。心の底にあるもので、(チームとして)自信を持っています。きょうの試合には、それにもっと自信を持って臨もうと言いました」
力は出した。でも、届かなかった。
付け焼き刃ではないプライドがある。時間をかけて、その時代にあった九電スタイルを構築するのが自分たちの流儀だ。
「(ヒルトンHCとともに)積み重ねてきたものがあり、少しずつ精度を上げてきました。去年トップリーグだった強い相手にもしっかり戦えるラグビーができ始めている」と手応えを話す。
大切にしているのは、つながりだ。
やみくもに前に出続けるわけではない。
「信じる心が大事。隣としっかりコミュニケーションをとり、コネクトし続ける」
ブルース戦でも、それを実践した。
出て、倒し、すぐに立ち、また出る。動き続けるタフさは春シーズンの猛練習のたまものだ。「これでもか、というくらい走りました」と主将は振り返る。
仕事も100パーセントのチームだ。限られた時間の中で必要なものを積み上げた。
しかし、「仕事や、サラリーマンということは意識していません。リーグワンに参加している時点で(自分たちは)ラグビー選手」と言う。
「お客さんに、お金を払って見に来ていただいています。日常はサラリーマンだけど、フィールドに立ったら関係ない」
80分間はラグビーのプロ。その考えをチーム内で共有する。
ヒルトンHCも付け足す。
「ディフェンスにはチームカルチャーが反映されるものです。お互いのために、という気持ちが表れる」
個々が組織としての動きを理解した上でピッチに立つことも大切だ。しかし、そのシステムに血を通わせるのは密な絆。経験豊富な指導者は、それを知っている。
同HCは、選手たちがサラリーマンであることもチームカルチャーの大切な要素で、その日常から「ラグビーを助けるものも見つかる」と話す。
ヴォルテクスのチームスローガンは『BROTHERHOOD』。兄弟のような間柄を築きたい。HCは、そこに込めた信念を「お互いの人生に関わり続ける」と言う。
そのためにも、「お互いがなぜプレーしているか理解し、コネクトする、お互いのためにプレーする」のだ。
キャプテンの肩を叩きながら言った。
「以前、私がコーチとして在籍していた11年前、迪郎さんはルーキーでした。時間が経ち、いまは家庭を持っています。人として成長しました。ブラザーフッドのカルチャーは、いい選手になるだけでなく、お互いの家族も含めて同じ人生を歩む。30年経ってもいい友だちでいようというもの」
一生の付き合いとなる仲間の前で腰の引けたプレーなんてできない。
ライバルへの負けじ魂とともに、その覚悟がヴォルテクスのディフェンスを支えている。