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東京SG 36-33 BR東京。敗れた指揮官が後半38分に感じた「サントリーのDNA」

2022.01.30

ボールを持てば「必ず」ゲイン。東京SGのNO8テビタ ・タタフ(撮影:髙塩 隆)

 反対側のロッカールームにいる。そんな感覚もあったようだ。

「不思議でした」

 リコーブラックラムズ東京のピーター・ヒューワットヘッドコーチは1月30日、古巣とぶつかる。

 東京・秩父宮ラグビー場でのリーグワン第4節で、現役時代に在籍した東京サントリーサンゴリアスに挑んだ。

FLショーン ・マクマーンの突進には、パワーだけでなく巧みさがある(撮影:髙塩 隆)
後半14分のSOアイザック ・ルーカスのトライで3点差に迫ったBR東京。35分にはトライ&Gで勝ち越したが…(撮影:髙塩 隆)
後半38分、東京SGが決勝トライ&Gを決めた(写真はNO8テビタ ・タタフ/撮影:髙塩 隆)

 自軍が4強入りを果たせなかった前身のトップリーグで、5度の優勝に喜んできた強豪へ最後の最後まで対抗できた。

 結局は、33―36と惜敗した。

 80分間を通し、相手の底力を感じた瞬間は。

 そう聞かれて振り返るのは、後半38分の局面。33―29と勝ち越した直後のことだ。

 この時は、相手ボールキックオフを自陣ゴール前右隅で確保。陣地脱出を試みていた。ところがSOのアイザック・ルーカスのキックが、対する左PRの祝原涼介の手に収まった。キックチャージ。祝原が自らインゴールへ飛び込み、スコアをひっくり返した。

 ブラックラムズは以後も勝利を目指す。自軍キックオフを敵陣中盤左へ蹴り込み、反則を誘った。ただし最後は、敵陣22メートル線付近で得たラインアウトを向こうに競られてしまう。落球。

 スリリングなゲームを落としたヒューワットは、こう語った。

「彼らは80分間、プレーするチームです。最後のホーンが鳴るまで、試合は終わらない。78分では、ゲームオーバーにはならなかった。サントリーのDNA、感じました。もちろん、予想はしていましたが」

 部内のクラスター発生により、前節は不戦敗にて今季初黒星を喫していた。第2節は対戦相手に似た事情があり不戦勝としていて、この一戦が今季2試合目だった。

 HOの武井日向主将は、決意していた。

「厳しい状況が続いていましたが、サントリーに勝つために準備していた。最終的には、そこ(活動停止)を言い訳しないようにと話し続けていました」

 試合開始早々、自軍キックオフから鋭い出足で圧をかける。キックを蹴らせてハーフ線付近左で最初のラインアウトを得ると、クイックスローからテンポよく攻めた。

 攻撃自慢の相手を倒すための、それが手段だった。武井は言う。

「相手はアタックに自信を持っているチームなので、なるべく(自分たちでボールを持って)相手のアタックの時間を減らしたい。ただ相手のアタックが始まったら、我慢してディフェンスをする。そう思って、戦いました」

 転機を迎えたのは前半35分だ。

 ここまで7―19とリードされていたが、サンゴリアスのNO8、テビタ・タタフが、ラック上のラフプレーで一発退場。ちょうど味方をイエローカードで欠いていたブラックラムズだったが、残された時間のほとんどで数的優位を保てることなった。

 3分後、敵陣ゴール前でのラックを連取。武井がトライ。直後のコンバージョン成功で14—17と迫る。

 ハーフタイム直前には、CTBのメイン平がハードワーク。自陣22メートル線付近で右から左へ展開するなか、目の前で防御をひきつけてパスを放り、すぐに左大外へ回る。

 味方FBのマット・マッガーンが抜け出すのを見て、ギアを入れる。再びボールをもらい、一気に駆け上がる。

 キックダミーを、交える。

「抜けると思ったので、自分を信じて、蹴らずに行きました」

 敵陣の深い位置へ到達すると、最後は再び援護に来たマッガーンへ折り返す。やがて一挙に7点を奪取。21—17と勝ち越した。

 ブラックラムズは勢いに乗れそうだった。しかし、肝心なところで失敗を重ねた。

 

 後半開始早々、自陣深い位置でノックオン。スクラムからフェーズを重ねられ、最後はWTBの成田秀平に左隅を破られた。21―22。

 続く後半7分には、自陣中盤左でランナーが転倒。まもなく、相手FLのツイ ヘンドリックにボールをさらわれる。バトンはCTBのサム・ケレビを介し、CTBの森谷圭介に繋がる。まもなく点差を広げるトライが生まれ、直後のコンバージョンをSHの齋藤直人が決めて22-29とした。

 入部後初めてゲーム主将を任されていた齋藤は、途中からその役目を譲り受けていた。もともと正キッカーだったSOの田村熙の状態を鑑みてのことだ。

 サンゴリアスは前回の試合からメンバーを10名、入れ替えていたが、要所ではケレビ、FLのショーン・マクマーンといった主力のオーストラリア代表経験者が奮闘。自陣ゴール前では威力満点のタックルで粘り、接点へタフに身体を差し込んだ。

 大物たちの打つ波に、ブラックラムズは、流されまいとした。

 14分、敵陣ゴール前で厳しいタックルを喰らいながらも攻めを継続。防御の揃わなくなった隙を、SOのルーカスが抜け出した。29―26。

「(試合を通し)ボールを動かしていきたかった。相手防御をストレッチさせたい(広げたい)と思っていました。うちの選手がいいラインを走ってくれたことで、いい動きができた」

 待望の再逆転を決めたのは、サンゴリアスの再三の反則で敵陣ゴール前に入れたから。その後もペナルティーキックを得るたびにスクラム、ラインアウトを順に選び、勝機を探った。

 武井の述懐。

「相手のFWは7人でした。8人で話し合って、それぞれ自信のあるプレーを選択していきました。(最終的にラインアウトを選んだのは)相手の(スクラムでの)プレッシャーもありましたし、フロントロー(最前列)3人で話して、確実にスコアを狙えるのが(ラインアウトからの)モールだと判断したので、切り替えました」

 やがて、敵陣ゴール前右のラインアウトからラックを連取。対するケレビが9フェーズ中4本のタックルでゲインラインを押し戻してきたなか、最後はブラックラムズのFL、松橋周平がインゴールへなだれ込んだ。

 サンゴリアスが大逆転を果たして逃げ切ったのは、この直後のことだ。ゲームの中盤以降を14人で戦った末、不戦勝を含めて開幕4勝目を決める。

 普段は日本語で試合を総括するミルトン・ヘイグ監督は、「きょうは興奮しているので英語で…」と切り出した。

「これまでのコーチングキャリアのなかで一番、いい試合でした」

 ブラックラムズのメインは、ヒューワットが受けたのと同じ趣旨の質問に応じる。

 80分間を通し、相手の底力を感じた瞬間は。

 相手への敬意に、自軍への矜持をにじませて言った。

「相手は14人になってからのファイト、1人をカバーするエフォートは凄い。ただ、それ以外は自分たちも負けてないと思いました」

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