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コベルコ神戸スティーラーズの受難。今季初勝利で「強いラグビーをお見せできる」か。

2022.01.28

スピアーズを下してリーグワン初勝利となったコベルコ神戸スティーラーズ(撮影:牛島寿人)


 復調を目指している。

 神戸製鋼コベルコスティーラーズから名称変更したコベルコ神戸スティーラーズは、今年1月に始まったリーグワンで開幕2連敗を喫した。

 22日の第3節で今季初勝利を挙げたが、ノエビアスタジアム神戸であったこの1戦では、両軍の反則数が合計「34」。極端に笛の鳴る80分だった。

 対するクボタスピアーズ船橋・東京ベイが「15」でスティーラーズが「19」。ちなみに日本代表陣営はよく、「2桁台の反則があったら勝てない」との趣旨で発言する。

 27-22と辛勝した後、デーブ・ディロン ヘッドコーチはオンライン会見で述べた。

「(白星のなかった)先週までは結果を受け入れるのが難しかった。主将、リーダー陣の全員を誇りに思います。それに合わせ、コーチ陣のサポートも誇りに思います。思い通りにいかないこともありました。あるべきキャラクターを出し切って勝つことが(次の目標)」

 1988年度から日本選手権7連覇の古豪は、トップリーグ時代の終盤にもピークを迎えられた。

 2018年、ウェイン・スミス総監督を軸とした新体制を発足させる。元ニュージーランド代表アシスタントコーチのスミスはまず、鉄工所を代表する部史に着目。工場見学を習慣化し、選手数名が分かれて作る部内のミニチームの名称を「神戸」「加古川」「真岡」「大安」と、同社の製鉄所や製造所の所在地にした。海外出身選手の勤怠管理も徹底したことと相まって、一体感を生んだ。

 なおスミスは定期的な来日により、ディロンら常駐の首脳陣と意思疎通を取ってきた。クラブ関係者によると、スミスが合流すれば「他のコーチ陣の緊張感が違う」。別な日本人スタッフが取材を受けた際は、チーム戦術、外国人選手の採用とさまざまな話題へ「ウェインが」と返答。意思決定の大半がスミスによるものだとうかがわせた。

 グラウンド内では、長短のパスをスペースへ通す展開ラグビーを標ぼうした。SHの後ろにFWが3人ひと組で並び、防御を引き付けながら多彩な手業を披露する。その後方では、元ニュージーランド代表SOのダン・カーターがその都度、立ち位置を変えて球を動かす。

 戦う大義と方式を明確化したことで、体制を発足させて早々に15シーズンぶりのトップリーグ制覇を果たした。ワールドカップ日本大会後にあたる2020年のシーズンでも、リーグ不成立となるまで6戦全勝。華美で堅実な試合運びを重ねた。

 ところが昨季は、8強止まりに終わる。カーターが引退した司令塔の座は、外国人枠の活用方法によって日ごとに変わっていた。何より折からのウイルス禍で、枢軸たるスミスの合流機会が減っていた。

 今季開幕前、あるレギュラー選手がこのように反省していた。

「(昨季は)ゲームのプランに疑問を持ってしまうようなことが、あったのかもしれません。その時に、選手間だけで話してしまい、どうしていいかわからない…ともなった。今季は全員が(すべきことを)理解して、準備をしっかりしよう。そう、思っています」

 ただしリーグワン初年度に向けても、ニュージーランド在住のスミスに出国時、帰国時の長期隔離を強いるのは簡単ではなかったか。

 主力のひとりによると「(滞在中の)ウェインは改めて神戸のラグビーを落とし込んだり、レガシー活動をしたりしていた」とのことだが、開幕前、スミスが最後にスティーラーズのグラウンドにいたのは11月中旬頃だったようだ。

 さらに、加入2年目で元ニュージーランド代表FBのベン・スミスが契約を解除。家族の意向によるという。

 抜群のワークレートと抜け出した味方への援護が光る通称「ベン」の離脱には、日本代表FBの山中亮平が残念がっていた。

「ベンは、自分でパスをした後のサポートがすごく上手。そのコース取りは、簡単そうに見えて実際にやるのは難しかった。あれは(本人の身体に)癖づいているものだ、練習中から意識してやっていかないとだめだ(身につかない)と思いました。もうちょっと(ベンから)学びたかった。聞きたいことは、たくさんあったので」

 スタートダッシュは叶わなかった。第1節、第2節は、それぞれ昨季16強、8強のNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安、横浜キヤノンイーグルスに23-24、21-55と屈した。

 看板となっていた、SH周辺でのパス交換は、向こうの鋭い出足に阻まれることが増えた。好調イーグルスとのゲームに至っては、自陣から攻め上がる相手に防御網をちぎられることが多々あった。
 
 再建への第一歩は。FLの橋本大輝主将は、競技の根幹に触れた。
 
「ラグビーの基本的なことです。身体を当てて相手に勢いを与えないこと。それをやっていくしかないと思います」

 スピアーズ戦では、少なくとも戦術面での改善が奏功した。

 WTBの山下楽平いわく、「アタックのラインの深さ(防御との距離感)を意識しました」。確かにFWのユニットは、従来よりも攻防の境界線から遠い位置に置かれたような。一撃で前進する可能性を減らした代わりに、プレッシャーにさらされてミスをするリスクを制御できた。

 狭い区画を切り裂く走りで2トライ奪取の山下楽平は、こうも続けた。

「うちはディフェンスラインと接近してのアタックを数年、やってきましたが、最近は浅く(防御との距離感が過剰に近く)なりすぎて、圧力を受けてミスすることが多かった。そこを調整するようにはしました」

 守っても、「ディフェンスライン上の選手間の幅(が前節までの課題だった)」と橋本大輝。練習を通し複数の選手が一箇所に寄りすぎる課題を改善。本番では14-8のスコアで迎えた後半から、「リーダー陣が改善点をもう一回、思い出した」という。

 さらに27-19と接近された後半35分には、元ニュージーランド代表SOのアーロン・クルーデンが相手のコンバージョンゴールをチャージ。ベン・スミスとともに加入してこの午後も好判断連発のヒーローが、7点差以内にされるのを防いだ。

「(トライを許した直後とあり)他のメンバーは集まって次に何をするか話していました。だから、あそこはクルーデンともうひとりの選手(井関信介)が単独の判断で(キックチャージに)行ってくれました。あのワンプレーがなかったら、もしかしたら、負けていたかもしれない」

 橋本大輝が述懐するように、スティーラーズはクルーデンの一手に助けられた。

 一発逆転のない状態で最終局面を迎えられたことで、ラストワンプレーの防御局面でも敗戦のリスクを感じずにいられた。結局、スピアーズはラストワンプレーでペナルティゴールを選択。27-22と5点差に迫り、7点差以内の敗戦としてボーナスポイント1を獲得した。

 その瞬間、スティーラーズの今季初勝利が決まった。橋本大輝は続ける。

「自分たちの反則を含め改善点は多くありますが、皆のチームを変えたいという思いがこの結果につながったと感じます」

 29日は、ホームの神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で埼玉パナソニックワイルドナイツを迎える。

 前年度トップリーグ王者のワイルドナイツは、開幕直前こそクラスター発生で足止めをくらうも、「初戦」となった第3節でイーグルスを27-3で撃破。本拠地の埼玉・熊谷ラグビー場で、自慢の防御を披露できた。

 スティーラーズにとってはタフな道のりが続くが、フィニッシャーの山下楽平は「反則が多い点を修正し、磨きをかけていけば、さらに強いラグビーをお見せできる」と前を向く。稀代のセコンドに依存せずとも、負けない集団を作りたい。

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