文化のあるチームは強い。
「何年間もやってきたベーシックなところをまず、やろう」
堀江翔太。埼玉パナソニックワイルドナイツの前主将だ。
1月23日、埼玉・熊谷ラグビー場でのリーグワン第3節。開幕2連勝中の横浜キヤノンイーグルスと、活動停止明け最初の試合をおこなう。本来の開幕戦が近づいていた1月5日に新型コロナウイルスの感染者がいるとわかる前から、チームは全体練習をできずにいた。
試合の6日前に再始動が叶うと、堀江は「ベーシックなところ」、つまりは原点回帰を意識した。あれこれと手をつけず、かねてチームの文化となっていた組織防御に注力。いつものように守り切るためのスキル、コミュニケーションに意識を傾けたのだ。いわば、苦しい時でも立ち返る場所があった。
当日、堀江はHOで先発した。FLの布巻峻介たち長年のレギュラーとともに「自分のポジショニング(立ち位置)についた時の仕事をやり切ろう」と言い合っていた。
果たして、1本もトライを奪われずに初白星を得た。27-3。
「ベーシックなところ。これが崩れない限り、僕らのディフェンスはなかなか崩しにくいかなと。まだ100点じゃないですけど、どんどんそれをよくしていきたいなと思います」
それぞれが前方を見て声を掛け合い、防御ライン上のスペースを敷き詰める。適切な歩幅で相手に詰め寄り、強烈なタックルを繰り出す。適宜、接点の球に絡む…。防御で必須のタスクを、クラブに息づくシステムに基づき遂行していたようだ。
特に興味をひいたのは、「ピック&ゴー」への対策か。
イーグルスは、昨季のトップリーグプレーオフでワイルドナイツに敗れている。複層的な攻めと両コーナーへのキックに活路を見出そうとしたが、前半終了までに3-20とされ、17-32で終戦した。
接点で球に絡まれたり、援護役が身体を差し込まれたりして攻めのテンポを出せなかった。
再戦に向け、就任2季目の沢木敬介監督は「まず、ブレイクダウン(接点)がどれだけ通用するか」。人と人とがぶつかってできる接点から、なるたけ素早く球を出す。かくして、向こうの守備網の揃わぬうちにスペースを攻略したい。
「(前回対戦時は)あと1回(接点から)ボールが出ていたらチャンスになっているところで、ボールが出せなくて。ブレイクダウンは、大事だと思います」
そこで用いたのが「ピック&ゴー」。接点上のボールを近くの選手が拾い上げ、そのまま直進する動きである。ワイルドナイツのように、選手同士の間隔を広げて守る相手には有効に映った。
前半5分頃、ハーフ線付近中央でSHの荒井康植がこぼれ球を拾う。ダイブパス。受け手のLOのコリー・ヒルは目の前の防御をいなし、前方へ倒れ込む。
ここに赤いサポートの束ができると、その最後列にいたLOのアニセ サムエラが仕掛ける。「ピック&ゴー」だ。じりじりと前に出て、FLの嶋田直人、HOの庭井祐輔の援護で球を活かす。
荒井が右へ展開する。ヒルが再び突進役となる。対するPRのクレイグ・ミラー、堀江と2人の防御を巻き込む。
その地点へは岡部崇人、津嘉山廉人の両PR、FBの小倉順平がサポートに入る。するとミラーがその下敷きとなり、ノット・ロールアウェーの反則を取られる。イーグルスは「ピック&ゴー」の活用と接点での激しさで、ペナルティキックを得たのだ。
小倉がペナルティゴールを決める。3-0とする。
しかし堀江は、件の接点から逃れていた。どこ吹く風だった。
「ピック&ゴーのところも(守りの)役割が決まっていて。その役割をやり切ろうと、試合中に声をかけました」
この意識が垣間見えたのは、3-3と同点だった前半17分ごろだ。
自陣ゴール前まで攻め込まれると、ワイルナイツの防御がかえって活性化する。SHの内田啓介が対面の荒井のパスコースを防ぎ、布巻が接点の球へ絡む。
対するイーグルスのNO8、アマナキ・レレイ・マフィへは、ミラーがロータックルを打ち込む。
そしてその局面へ、堀江が乗り込む。
ジャッカルを狙う。成功しづらそうだ。そうなれば、抜け出して防御のラインに入るのが常道である。
堀江はここで、機転を利かせる。
「ブレイクダウンに入る。ジャッカルに行く。それで無理やったら(ボールを奪えなさそうだったら)、次(の防御)に行かず、残る。それでボールに手をかけている奴を、どんどんつかんでいくということはしました」
その言葉通り、接点になだれ込むイーグルスの赤いジャージィをつかんでゆく。
「そいつが、ピック&ゴーをするので」
そう。ボールを拾って「ピック&ゴー」を狙うイーグルス側の動きを、渋い働きで未然に封じたのだ。
「(相手がボールに)手にかけているということは、プレーをしようとしている。(その選手を)手にかければ、大丈夫。それは、自分のなかで、やろうとしたことですね」
果たして、イーグルスの攻めは速度を落とす。結局、ゴール前中央での接点へ内田が腕を入れ、ワイルドナイツに攻撃権が渡った。マフィは脱帽する。
「チャンピオンシップのようなプレーを見せてもらえた」
堀江はその後も、イーグルスの「ピック&ゴー」に目を光らせる。
21分、自陣中盤でタックル。すぐに起き上がる。いったん防御網へ入りながら、すぐにその列を離れる。右にあった接点の、ほぼ真後ろへ移動する。相手の「ピック&ゴー」の進路を、先回りするのだ。
その視線の先では、内田のジャッカルが相手にはがされていた。
すると、ランナーが地面に置いたボールが見えた。絡んだ。
ジャッカル成功。イーグルスの反則を誘った。
「本当に、判断なんですよ。相手(のボール)が見えたから(味方がジャッカルを狙いに)いって、それがはがされて、(改めてボールが)見えたから(ジャッカルを狙いに)いって、見えなかったらいかない、みたいな」
36歳。ワールドカップに過去3大会出場の大物は、クラブ文化に即したプレーから普遍を見出していた。
「数秒、数秒で、細かーいところで判断していくのがラグビーだと、僕は思っているので。その判断を、自分のなかでしっかりしたということです」
ラグビーは、判断力の問われるスポーツだ。