世界的スターも大勢いるディビジョン1が面白い。
新しい国内最高峰リーグである『リーグワン』が開幕して3週間が経とうとしている。
ディビジョン1だけでなく、ディビジョン2もディビジョン3も試合内容が充実している。
大スターはいないけれど、選手一人ひとりの必死さが伝わる。学生時代は脚光を浴びることがなかった選手が出場機会を得て輝きを放つ。
そんな姿を見ると嬉しい。
マツダスカイアクティブズ広島の9番、10番を開幕から担っているのは梅川大我(うめかわ・たいが)、龍野光太朗(たつの・こうたろう)。昨年4月入社のルーキーだ。
それぞれ、明大、帝京大の出身。高校時代は両者ともトップレベルで輝くも、大学時代はレギュラーを張っていたわけではない。
帝京大で4年間を過ごした龍野は佐賀工出身。関東大学対抗戦には1年生の時、3試合に途中出場したのみだ。
梅川は石見智翠館出身。明大で関東大学対抗戦に出場したのは4年時の帝京大戦だけ。試合終盤に短い時間ピッチに立った。
スカイアクティブズを率いる中居智昭ヘッドコーチは、「新入団ながら頼もしい」とふたりを評価する。
ホストゲームだった今季開幕戦で日野レッドドルフィンズに17-43と敗れた同チームは、敵地で戦った開幕2戦目の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦では25-52。連敗スタートとなるも、ダイナボアーズ戦では前戦での課題を修正して後半10分過ぎまでは13-26だった。
今後に期待を抱かせる内容だった。
中居HCが言う。
「龍野はプレッシャーのかかる中でゴールキックを100パーセント決め、点差を詰めていく展開を作ってくれた。梅川は、声がいつも聞こえてくる。チームを、よく鼓舞してくれている」
細かいスキルには注文もあるものの、ふたりがチームに与えてくれているものについて「100点」と話した。
2G2PGを決めるとともに、エリアマネージメントをしながら、落ち着いてゲームを進めた龍野。
司令塔は、チームの初戦からの前進を攻守両面に感じた。アタック面ではFWがスクラムを修正するなど、セットプレー、ブレイクダウンから好球が出てくるようになった。防御面にも、コミュニケーションの高まりを感じた。
「(攻守両面とも)相手より多くの人数が(ピッチに)立っている状況にしよう。そう言って試合に臨んだ結果だと思います。チームとしての方向性が明確になった」と話す。
仕事100パーセント、ラグビー120パーセント。チームが掲げるそんなモットーに惹かれ、「ラグビーだけでなく社会の中で生きていく」人生を選び、広島での生活を選んだ。
プロ選手や外国出身選手の多いチームとの対戦もあるけれど、時間をうまく使ってその差を埋めようと工夫する。
同期・梅川との寮の部屋でのミーティング。全体練習以外の時間にも筋トレに励む。
仕事との両立は簡単ではないが、「このチームに入ったらレギュラーとして試合に出たいと心に決めていた」。その思いが忙しい毎日を支えている。
常に日本一を見つめている帝京大で4年間を過ごし、Aチームではなかなか試合には出られなくとも得られるものは多かった。
「なんとなくラグビーをしないチーム。常に考え続けています」
そんな集団だから、才能ある選手が競争し、成長して卒業する。リーグワンの各チームにも先輩、同期がたくさんいる。「負けたくない」と淡々と言う。
「大学ではなかなか試合に出られませんでしたが、自分も(大学時代の経験を活かして)頑張っているところを見せたい」
試合に出てはじめて磨かれるものもある。もともと高いゲームセンスを持つ。それを毎週高め、チームを勝利に導きたい。
龍野が「ラグビーへの情熱が大きい男」と評する梅川は、HCも言うように、常に声を出し続ける男だ。
試合出場経験がない中、大学4年時はリーダーの一人としてチームに影響を与え続けた。その姿勢は、現在も変わらない。
試合での経験と修正を重ねて前進したいスカイアクティブズは、日頃から『BIG』の意識を持ってプレーしている。『バック・イン・ゲーム』(倒れてもすぐに立ち上がり、試合に戻り、機能する)の略だ。
梅川が大学時代に叩き込まれたものを広島でも口にし続けたことでチームに浸透していった。
開幕の日野戦ではFWが近場を突破されることも多かった。しかし、『BIG』の意識を高めて臨んだ2戦目はそこが修正された。
「FW、BKのコミュニケーションが取れていた」
つなぎ目に立つ男は、実感をそう口にした。
大学時代は強力なライバルたちとの競争もあり、紫紺の9番を背負うことはなかった。
だからといって成長できないわけではない。前向きな性格で4年間を無駄にすることはなかった。
三股久典(コカ・コーラ→宗像サニックスブルース)、福田健太(トヨタヴェルブリッツ)らが先輩にいた。4年時は、1学年下の飯沼蓮が9番を背負った。
「いつも食らいついていこうと、自分なりに必死にやっていました。4年時は蓮とだいぶやり合いました」
刺激を与え、刺激をもらった。飯沼とは、いまも頻繁に連絡を取り合う仲。「蓮はとても高いスキルをもっているので、いろんなアドバイスをもらっています」と笑う。
龍野同様、大学時代の先輩や後輩たちがリーグワンには大勢いる。「経験を積んでもっと成長し、(みんなと)戦いたい」と言葉に力を込める。
戦力的に上回る他チームと戦うには、もっともっと『BIG』の意識を高め、相手より運動量を増やすしかない。仕事をしながらそれを手に入れることが難儀なことは分かっている。
しかし、「職場の人たちの応援も力にして」実現したいと覚悟を決める。
梅川は龍野のことを「実は、自分より熱い。それなのに冷静」と見る。
ふたりとも、リーグワンになって試合時の雰囲気が華やかになったと感じている。そして、それがチーム関係者やその周辺の人々の尽力のおかげと知る。
「勝って感謝の気持ちを伝えたい」(梅川)の言葉は、ふたりだけでなく、チーム全員の総意だ。
勝利への距離は、まだ遠いかもしれない。しかし、それが少しずつ縮まっていると感じているのはふたりだけではないだろう。
HB団の試合に出られる喜びがチームの勢いを増すエナジーになるなら、ディビジョン2の戦いがさらに面白くなりそうな予感。