1月9日、大阪・長居。ヨドコウ桜スタジアムにレッドハリケーンズとブラックラムズの意志を見た。一発一発のコンタクトの音、カバー防御へ駆け戻る一人ひとりの荒い息づかいに強い使命感が立ちのぼる。この一戦を、絶対にただの一戦では終わらせないという意志。レッドハリケーンズの司令塔、SOエルトン・ヤンチースの痛恨の負傷退場で最終スコアは開いたものの、気迫みなぎる80分は見応えがあった。
翌週日曜の16日は、東京・調布の味の素スタジアムでサンゴリアスの圧巻の攻守にうならされた。15人が誰ひとり目の前のバトルをおろそかにせず、あらゆる局面で仕掛ける姿勢を貫く。そのうえFBダミアン・マッケンジーやCTBサム・ケレビ、 NO8ショーン・マクマーンといった世界でも指折りのアタッカーが要所でスペシャルな才を発揮するのだから、1か月以上実戦から離れていたヴェルブリッツが大敗を喫するのもしかたなかった。ホーンが鳴ったあとのラストプレー、すでに勝負は決していたのに試合を終わらせず、トライを取りにいって取り切ったシーンに、チームの凄みが凝縮されていた。
生まれ変わった国内最高峰リーグ、「ジャパンラグビー リーグワン」がおもしろい。国立競技場で華やかに幕を開けるはずだったオープニングマッチをはじめいくつもの試合が中止になり、止まらぬオミクロン株の感染拡大でますます先行き不透明な状況は続く。それでも現地で、あるいは中継映像を通して観戦したゲームに心を動かされた。日本ラグビーの新時代の到来を感じるシーンが、そこここにあった。
3つのディビジョン分けに各チームの努力が重なって、カレンダーには毎節魅力的なカードが並ぶ。どちらが勝つかわからない緊迫感こそはスポーツの醍醐味だ。そして拮抗したゲームが増えることで、リーグの熱気は高まる。スケジュールを眺めあれこれとイメージをふくらませながら、キックオフ48時間前のメンバー発表を待つ時間が楽しい。
ホストチーム仕様にラッピングされたスタジアム。ラグビー体験企画やフードコーナー、グッズ販売のブース。開始前のピッチ上での実演ルール解説。そんなところにも各クラブの意気込みはにじむ。足を運んでくれたファンに、いかに次の試合にも来たいと思ってもらうか。さまざまな制約がある中、おのおのがそれぞれのやり方で懸命の努力を続ける姿に、頭の下がる思いだった。
長く唱えられてきた地域密着の大切さも、あらためて実感した。チーム名に地域の名称が入り、「自分たちの街で活動するチーム」という拠り所を明確にしたことで、より多くの人が親しみを抱きやすくなった。チームへの愛着がサポート意識の高まりを呼び、厚く熱い声援に背中を押されて、選手たちはよりいっそうの力を発揮する。そんな選手たちの感激的な奮闘がチームと地元への誇りにつながり、誇りの生み出すエネルギーが地域を活性化する。その幸福のサイクルを全国各地に創出することが、リーグワンの意義であると再認識した。今後は各チームとも、さらに地域色を鮮明に打ち出す方向へと傾いていくだろう。
鳴り物入りで来日した世界的名手のため息の出るような美技を目撃する喜びもさることながら、「こんな選手がいたのか」の驚きもまた、3ディビジョン制のリーグワンのおもしろさだ。現在のところ個人的な最大の「発見」は、ディビジョン2所属の釜石シーウェイブスのLO、チャールズ・マシュー。肉弾戦のタフさで知られるイングランドのプレミアシップで10シーズンプレーし、ハリクインズで163試合、ワスプスで28試合出場の経歴は伊達じゃなかった。セットプレーやモールの軸となり、ボールを持てば相手防御のもっとも分厚いところへ迷わず身を投じて、ディフェンスでは頑健なタックルで相手をぐいと押し戻す。レッドドルフィンズ戦でのパフォーマンスは、それまで存在を知らなかったことが恥ずかしくなるほどだった。24のクラブには、きっとまだまだ隠れた好プレーヤーがいるはずだ。
1月23日。熊谷ラグビー場でのワイルドナイツとイーグルスの激突には、リーグワンがビジョンに掲げる「世界」をはっきりと意識させる迫力とスリルがあった。キックオフ直後からイーグルスが満点のパッションで攻め立てるも、ワイルドナイツは堂々とそれを受け止め、球を奪うやただちに切り返す。仕事が重なり現地観戦はならなかったが、緊迫した試合展開にスマートフォンの小さな画面を凝視しながら「やっぱこれだよ」と何度も頬が緩んだ。今季初戦とは思えぬパフォーマンスで貫禄の勝利を収めたワイルドナイツのここからの上昇は間違いない。飛ぶ鳥を落とす勢いのイーグルスも、この敗戦を糧にまた力を伸ばすだろう。ホストが入れ替わる4月23日の再戦は、必ず今回以上のハイレベルな戦いになる。
開幕直前の不祥事発覚や相次ぐ開催中止に出だしでつまずいた感があるのは否めないが、芝の上とその周囲に充満する期待感は貴重な希望の光だ。一度訪れた人に、また来たいと思わせる魅力が、リーグワンの各試合にはある。それを一つひとつ、丁寧に積み重ねていった先に、2019年のような熱狂の光景が広がっているのだと思う。