部内で新型コロナウイルスのオミクロン株が広まったことで、1月7日のリーグワン開幕戦を中止させた埼玉パナソニックワイルドナイツ。計2試合を不戦敗で終えて、活動再開から7日目の第3節では2連勝中の横浜キヤノンイーグルスとぶつかる。
前身のトップリーグ最終年度の成績はそれぞれ優勝、8強と差はあった。ただしリスタート2日目のワイルドナイツは、相手をつけずに連係をチェックする段階だった。組織的な観点で言えば、リハビリ中に近かったろう。
23日に本番を迎える。やはりホームの埼玉・熊谷ラグビー場で、タフな船出を強いられる。
キックオフ早々に自陣ゴール前でパスミスと落球を重ね、その後も球のつながりづらいシーンを重ねる。
しかし、ロビー・ディーンズ監督は落ち着いていた。
「我々にとって、きょうのようなパフォーマンスはある種、避けられない状況でした。ロックダウン下、最高の準備ができたかと言えばそうでもない。なかにはボールを触れなかった選手もいました。ただ、活動を再開させた月曜にはいい練習ができていました。その月曜がなければもっと悲惨だったと思います」
最初の危機をFLの布巻峻介が地を這って防ぐと、ワイルドナイツは、伝統たる堅守で相手をノートライに抑える。
ハイライトのひとつは、ハーフタイム直前に訪れた。
7点差を追うイーグルスは、敵陣10メートル線付近右ラインアウトからの1次攻撃で同22メートルを通過する。短いパスと突進を重ね、防御の枚数を削りにかかる。
それに対し布巻は、「何をしてくるかわからない相手へ、コミュニケーションを取って対応していく」。HOの堀江翔太が、PRのクレイグ・ミラーが鋭いタックルを重ねる。イーグルスの望むテンポは出ない。
22メートル線付近右で15フェーズ目を迎えると、パスを受けたHOの高島忍へCTBのディラン・ライリーが刺さる。仰向けにする。隣にいたLOのジョージ・クルーズがルーズボールを前方へ蹴り、消火活動に成功した。
強いクラブには確たる哲学がある。SOの松田力也がそう匂わせた。
「ディフェンスの部分は僕たちの伝統として根付いている。2週間休んだだけでは、簡単に崩れなかった」
特にライリーは、前半36分のチーム初トライがなくともマン・オブ・ザ・マッチ級と言われる働き。対面にいた南アフリカ代表のジェシー・クリエルへも強烈なタックルを決めたうえで、涼しい顔だった。
「ご指摘のシーンに限らず、チームの助けになるのであればどんな場面でも身体を張る気持ちでいます。他の選手も相手のトライチャンスを仕留めるタックルをしていた。そんななか、どうやったら自分がチームに刺激を与えられるかと考えています」
対するイーグルスでは、LOのコーリー・ヒル、NO8のアマナキ・レレイ・マフィが攻守で激しさを示した。多角度的なパス交換、接点の真上からの突進を交え、壁に風穴を開けんとし続けた。
しかし、なかなか牙城を崩せなかった。FBの小倉順平は、「理想は、もっと速いテンポで攻めることでした」。チャンスを広げるほどに、向こうがどんどん粘り強さを増すような展開。脱帽するほかなかった。
「敵陣に入るほど(ワイルドナイツの)ディフェンスが堅くなるのは、わかりきっていたことです。タックラーが立つ、リロードが速いチームをどう崩すかという課題が出ました」
さらに後半開始早々には、敵陣ゴール前に進みながらも自軍スクラムでの判定に首を傾げる。トライラインを、割れなかった。時間が経てば、本格的にスクラムで苦しむようになる。それをさらなる失点と向こうの好機につなげた。
ワイルドナイツは後半16分、敵陣10メートルエリア左のスクラムからWTBのマリカ・コロインベテを走らせその左をFLのラクラン・ボーシェーが援護。さらにその左へCTBのハドレー・パークスが大回りしており、ラストパスを受けてだめを押した。
松田のコンバージョン成功で17-3。ちなみに起点のスクラムを生んだのは、FBの野口竜司のハイパントと捕球役への圧力だった。守りに長けるチームに、足技と空中戦での技能が付随しているのだ。大崩れしないわけだ。
勢いに乗る挑戦者を、本調子でないながらも下したワイルドナイツ。後半11分からHOに入った坂手淳史主将いわく、「ディフェンス、プライドを持ってできたと思います。アタックでは前に出ること、サポートのところではこれからさらによくなる」。遅ればせながらも、悠然と優勝戦線に乗り込んだ。
現行ルールでは、感染症などを理由に試合を中止させたチームは勝ち点を得られない。有事にも前向きであろうとする坂手は、こう述べて次戦を見据える。
「僕たちの解釈では『(同じ感染するのなら)初め(のうち)でよかった』。いいスタートは切れなかったですが、あとは上がっていくだけなので」