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横河武蔵野アトラスターズ・萩原章雄氏に聞く。「メディカルチーフトレーナー」の仕事とは

2022.01.22

専門は治療。2008年からメディカルスタッフとして横河武蔵野のサポートをしている萩原さん。選手・スタッフだけでなく、その家族からも感謝される存在。(撮影/山形美弥子)

横河メディカルのクオリティの高さは歴代のトレーナーが積み上げた賜物。昨季、パンデミックの影響で大切なメディカルルームが閉鎖され活動の場を失った。知恵を絞り、何とか乗り越えようとしている。「仕事の質を維持することだけは譲れない。最後は意地です」(撮影/山形美弥子)
選手の身体を常にケアするのが仕事。テーピングを巻いたり、怪我を治療したり、病気になったメンバーのサポートもする。チームにとって、メディカルルームはなくてはならない場所だ。現在はクラブハスウスの一角を利用し、練習時間内に治療をおこなっている。(撮影/山形美弥子)
練習後の選手たちにスパインボードの使い方を教える萩原さん。昔と違い、メディカルスタッフが少なくなってしまったため、試合時の搬送は選手が協力しておこなっている状況だ。(撮影/山形美弥子)
安全に素早く搬送できるよう、試合前に何度も指導しながらシミュレーションを繰り返す。「選手もトレーナーと同じくらいうまくなるので、今では本当に信頼できるサポーターです」(撮影/山形美弥子)



 いまやラグビー界において、一流アスリートに専属コーチやトレーナーがつくのは当たり前。そういったスペシャリストの中から、今回は横河武蔵野アトラスターズでメディカルチーフトレーナーを務める萩原章雄氏(株式会社ナズー)にスポットを当てる。

 萩原さんは、チームがトップリーグに昇格した2008年度シーズンから横河武蔵野をサポートしている。
 出身は埼玉県羽生市。伊奈学園総合高校卒業後、東京リゾート&スポーツ専門学校で、アスレティックトレーナーの資格を取得、その後埼玉東洋医療専門学校で鍼灸師の資格を取得した。

「僕が所属している会社が以前から横河電機のラグビーをメディカルサポートしていて、入社してからまだ下積みだったときに、先輩のアシスタントで入ったのがきっかけです。メディカルスタッフになるための勉強は、トレーナーの学校が2年、鍼灸の学校が3年で、トータル5年ですね」

 自身はずっとサッカーをやっていた。トレーナーを目指したのも、サッカーのトレーナーになりたかったから。しかし、専門学校で『いろんな怪我を見ておいた方が勉強になるな』と思い、実習先にラグビーを選択した。
 今はサッカーよりもラグビーの方が自分に足りない経験を積めるのではないかと考えたのだ。

「競技特性で偏るじゃないですか。ラグビーの方が全身の怪我が見られる機会が多いかなと思ったんです。ラグビーだと全身、頭も首も、足首、膝、腰もそうです。肩も肘も怪我するんで」

 チームの一員として専門知識を駆使し、選手が安全なスポーツライフを送れるように支援するメディカルスタッフ。試合中は試合をサポートし、怪我人が出たら中に入って対応する。
 さらに、ベンチの中で応急処置もする。グラウンドだけでなく生活面でも風邪の症状など体調不良のケアをするため、コミュニケーション能力も求められる。

「初めは胃腸炎かと思っていて、何かおかしいなと病院受診させたら、実は虫垂炎だったというケースも実際にありました。メディカルの仕事って怪我だけじゃなく結構凄く範囲が広くて、基本的には選手もスタッフも、そこのチーム全員の健康管理っていう、ざっくり言うとそういう感じなんですよ」

「コロナの負担も大きかったです。いろんな施設が使えたり使えなかったりで、やり方をガラッと変えないとうまく対応できなくて、仕事が倍になった感じですかね。ホームグラウンドが横河電機から借りてる施設ということもあるんで、会社に対してもちゃんと配慮しないといけないですし」

 グラウンドで怪我が起きた場合には、武蔵野アトラスターズ整形外科スポーツクリニックで診察をおこない、必要に応じて治療やリハビリを進める。
「グラウンドのすぐ近くにある、クリニックに関わるスタッフの皆さんを含めたチームで、アトラスターズを支えている形です」

 試合には、チームドクター、トレーナーのメディカルスタッフ、マッチドクターが帯同する。
 何かが起きたときにはチームドクターと萩原さん、マッチドクターがグラウンドの中に入り対応する。
 怪我をしている場合には、試合が続行できるのかどうかをドクターが判断して、萩原さんが無線でコーチ陣に伝える。

「さすがに頭の怪我で搬送されたりすると、不安になったりとかはします。なので、安全に素早く搬送し、早く治療を受けられる体制を整えることは常に考えています。このマインドはチームドクターや歴代のトレーナーの先輩方から受け継いでいます。今はチームにメディカルスタッフが少なく、試合時の搬送は選手に協力してもらわないといけないので、試合前に何度も搬送のシミュレーションをし、常に準備するように心がけています。

 2021年度リーグ戦では、多くの選抜メンバーが怪我に泣いた。

 司令塔・衣川翔大は、11月28日におこなわれた東京ガスとの対戦で負傷退場したが、12月19日のトップイーストA・B入替戦で復帰し、チームの勝利に貢献した。
 萩原さんから強力なサポートを受けた衣川は、こうコメントした。

「今シーズンは特にお世話になりました。テーピングやケアはもちろんですが、いつも持ち前のトーク力とキャラクターで場を和ませて選手がリラックスできる空間を作ってくれています。来シーズンこそは結果で恩返ししたいです。
 余談ですが、いつも誰よりもバチバチに決めたヘアセットをしているので、ぜひ注目してみてください」

 もともとは試合に絡んでいたが、シーズンを通して戦っていく中で、個々のコンディションやチームの戦術によって、怪我から復帰してもなかなか試合に出られないことがある。
 しかしどん詰まりの世界は光明と紙一重。萩原さんはそんなとき、この仕事をしていてよかったと感じる。

「やはりチームが試合で好結果を残せるのは凄く嬉しいですよね。そこまでの過程で、いろんな怪我とか病気とか、そういうのを経て選手がグラウンドに戻り、チームに貢献する。最終的にチームが勝つ。そういうことがあると嬉しいですね」

 控えめに穏やかな口調で心境を語る萩原さんだが、メンバーのために心を砕いて費やした時間と精神力に表れたひたむきな情熱は、誰よりも頼もしく感じられた。

 横河武蔵野には萩原MDチーフトレーナーのほか、S&Cコーチ、アナリストなどが多角的な視点から選手を分析し、新たな戦略を切り拓くためのブレーントラストとしてチームに貢献している。
 次回はアナリストを務める阿多弘英氏の想いに耳を傾ける。

※今季リーグ戦の模様は、横河武蔵野アトラスターズの公式YouTubeチャンネルでご確認いただけます。

怪我や病気を克服し、メンバーが再びピッチに立ってチームに貢献する姿を見るのが一番の喜びだという。(撮影/山形美弥子)
タックルで懸命に相手の前進を阻止する衣川翔大(常翔学園/慶大)。学生時代はCTBとしてもプレーした。横河武蔵野ではおもにSOとして出場し、活躍中。(撮影/山形美弥子)
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