ハーフタイム。10-23。帝京大は、一発ではひっくり返せないビハインドを背負っていた。
1月2日、東京の国立競技場。大学選手権準決勝で、対する京産大のゲインラインへの仕掛け、鋭いタックルとジャッカルに手を焼いていた。
それでも10番の高本幹也は、落ち着いていた。
関東大学対抗戦Aを全勝優勝したチームのSOは、関西王者のタフさに「結構、来るなぁ」と驚きつつも、培った自信はそう簡単には失わなかった。
前半の反則数は京産大の「5」に対し、帝京大は「8」。ハーフタイム。3年生の司令塔は味方に伝えた。
「ノーペナルティで行けば、自分たちの形を出せる」
13-23と10点差で迎えた後半6分頃、敵陣中盤右のラインアウトから攻める。高本は好パスで得点機を手繰る。
まずは深い位置で右から左へ回り、球を受けるや目の前の防御を引きつける。ゲインラインとほぼ平行な角度で放り、真横にいたFLの山添圭祐に突破させる。
さらに左へ動くと、接点から出た球を立ち止まってキャッチ。斜め左方向へ急加速。視線の先の防御網が揃って飛び出すのに対し、その背後を通すように左タッチライン際へロングパス。WTBの白國亮大が無人のスペースで快足を飛ばすまでの間、京産大がオフサイドの反則を犯していた。
かくして、帝京大は敵陣ゴール前左でラインアウトを獲得。体重に勝る帝京大FWはモールを組み、HOの江良颯のトライを促す。直後のゴールキックは高本が決め、20-23と逆転圏内に入った。
続く18分までには20-30とされるが、「焦りは特になくて。どうやって相手を攻めようか、点を重ねようかと考えてやっていました」。ギアを入れた仲間たちは、前半に差し込まれたぶつかり合いで前に出られるようになっていた。その流れで京産大の反則を引き出し、陣地を制圧できた。
「僕たちも、1年間を通して激しいコンタクト、フィットネスにこだわってきたので、後半に(体力が)落ちることは、ない、と思っていた」
何より、残り20分で右PRの細木康太郎主将が登場すると、8対8で組むスクラムでも優位性が際立った。
「(細木の投入前のスクラムは)五分五分だったので、そこにアジャストして、NO8、SHには速く球出しをしようと言っていました。ただ細木さんが試合に入ってきてくれて、スクラムはいけるな、と。スクラムを中心に相手を崩していこうと、プランを変えました」
高本の言葉通り、帝京大は細木の投入から約4分間、敵陣ゴール前左でスクラムを押し続ける。組み直し、アドバンテージの攻撃を挟みつつ、京産大のコラプシング(塊を故意に崩す反則)を誘うこと3回。最後はFWが猛プッシュした脇を、SHの李錦寿がすり抜ける。高本のコンバージョン成功もあり、27-30とさらに迫った。
細木らは32分頃、自陣10メートルエリア中央の自軍スクラムを制圧。その脇を高本がパスのそぶりを示しながら人垣へ仕掛ける。3人のタックラーを巻き込む。左側の死角を、NO8の奥井章仁が突く。
最後は敵陣22メートル線付近中央で味方が落球も、帝京大にはスクラムでの優位性があった。細木らは相手ボールの1本でやや前のめりとなりながら、京産大のアーリープッシュ(合図より早く組む反則)でフリーキックを得る。自軍スクラムを選ぶ。
ここでもコラプシングを誘い、高本のペナルティゴールで30-30と同点に追いついた。大会規定上、同点の場合はトライ数の多い帝京大が決勝へ進める。高本はそのルールを認識していた。
「同点にすると、皆の気持ちも僕の気持ちも楽になる。同点にしてもう一回攻め直そうかな。もう一回、敵陣でアタックをするという形に戻れたのでよかったと思います」
タイスコアに持ち込んだ帝京大は、38分、またも相手の反則に乗じて敵陣深い位置へ侵入。高本はパスで味方を走らせ、最後はWTBのミティエリ・ツイナカウヴァドラの勝ち越しトライをお膳立てした。
後半の反則数は京産大が「12」で帝京大が「0」。形勢逆転の裏付けとなった。
ノーサイド。37-30。
高本は劣勢だった前半を反省しつつ、1月9日の決勝戦を見据えた。
「前半、僕たちの気持ちがあまり入っていなくて、相手に差し込まれるシーンが多かった。次の試合ではそういうことがないように、1週間、準備したいと思います。数少ないチャンスでミスをすると相手に勢いを与えるので、数少ないアタックのチャンスで攻め切ることを大事にしたいです」
敗れた京産大の廣瀬佳司監督は、現役時代に日本代表のSOとして活躍。体格的には小柄も、正確なゴールキックと献身的な防御で信頼を集めていた。
その廣瀬から見ても、高本が「素晴らしい」のは疑いがないようだ。今度の帝京大戦で「プレッシャーをかけたい」とマークしていた敵軍の司令塔を、こう称賛する。
「バランスが取れていて、スキルもあり、FWを前に出せるし、BKも走らせられる。80分を通しての全体的なマネジメントも間違いがない。本当に、素晴らしい選手だと思っています」
大阪桐蔭高3年時には全国優勝も経験している高本は、今度の決勝で明大に挑む。対抗戦での直接対決では14-7と勝利も、後半は守勢に回ることもあった。それだけにこう述べる。
「後半は攻められっぱなしでずっとディフェンスしていたので、(決勝では)前半も後半も攻められるように頑張っていきたいと思います」
選手権9連覇を果たした2017年度以来10度目の大学日本一へ、安全運転を誓う。