明大ラグビー部4年の雲山弘貴は、「ぜんっぜん、だめっすね」。12月上旬、オンライン取材で漏らした。手元へスマートフォン、20歳の誕生日に両親から贈られた黒い長財布を置き、心境を吐露する。
「個人のパフォーマンスは、もっと上げていかないと、って感じです。FBとしての役割を何も果たせていないというか。ボールを持ってもゲインできてないですし、キックも――問題はないですけど――もっと試合(状況)を見て蹴り分けていかないと」
身長187センチ、体重93キロ。最後尾のFBとして1年時から1軍入りし、2年目のオフにはサンウルブズの練習生となった。しかし、最終学年として迎えた今季はけがで出遅れる。6月に右足を痛め、復帰を急いだ夏に再発させる。
今季の明大は、故障者の万全な復帰を目指してフィジカルパフォーマンスチーム(PPT)を結成している。身体動作に詳しい里大輔氏をトップに据え、栄養士、トレーナー、S&Cと各部門の専門家が連携を図って個別の強化計画を練る。
PPTは雲山のカムバックへも最善を尽くしたが、当の本人が復帰を焦ったと悔やむ。
「あんまり治っていない状態で、僕が『痛みほぼなし』と伝えて…。自分でもいける(戻れる)と思っちゃっていたところもあるんですが、これ以上、休んでいたらチームに迷惑をかけるとも感じていたので。…早まっちゃいましたね」
結局、加盟する関東大学対抗戦Aでは10月24日の4戦目で今季初出場(筑波大戦で後半13分から途中出場し、53-14で勝利)。しかしその後も、不完全燃焼の感を残す。
「もっと、自分の思い描いているプレーをしていかなくてはいけないな、というプレッシャーがあるっす」
それは、心境を明かした直後の早大戦でも同じだったか。12月5日、東京・秩父宮ラグビー場で7-17と敗戦。対抗戦Aを5勝2敗の3位で終えた。
「自信を持ってプレーして欲しい」
悩む雲山の背中をこう押した1人は、寮長の江藤良だ。報徳学園で8強入りした際の同級生で、今季からアウトサイドCTBのレギュラーに定着していた。雲山が持ち前の走力をいい形で活かせるよう、もっと声を出すようにも促したという。
「あいつに足りないのは自信と、コミュニケーション。孤立してしまうところもあるので、『もっとチームの皆としゃべって、自分がやりやすいように持っていったり、周りの意見も聞いたりした方がいいよ』『プレー中のトークを増やそう。自分が(ボールを)欲しい時に要求してくれたり、(味方に)仕掛けて欲しい時にそれを言ってくれたりと、指示をしてくれればそれに合わせるよ』とは伝えました」
当の本人も、「パスのタイミング、相手のスペースの見方とか、結構、話しました」。友とのやり取りを経て、わずかながらに手応えをつかんだ。
「(今季は)プレーに自信を持てなくなっていたところがあるんですけど、もっと積極的にいかないと」
そういえば雌伏期間から、1回40分程度のバイクトレーニングに注力してきた。身体を動かせない間に体脂肪を増やさないための工夫だが、いまもそのルーティーンを継続。東京は八幡山の本拠地で、「1日1回は漕ぐ。2回、漕ぐ時は、練習後と夜20~21時頃に」。徐々に身体のキレを取り戻せたか。
大学選手権へは12月18日から参戦した。東大阪市花園ラグビー場での4回戦では、長距離のタッチキックを披露。前年度王者の天理大を27-17で下した。本人はあまりよい感触ではなかったと述べるが、神鳥裕之監督にはこう褒められた。
「ここ数試合、なかなか本人の満足いくパフォーマンスではなかったと思いますが、きょうはキックで(全体を)前に出してくれるなど、チームを助けるプレーがあった。この先、もっとよくなるのではないかと感じます」
さらに26日には、3週間前に屈した早大と対戦。防御へランを仕掛ける場面も作り、20-15で勝った。本人は戦前から述べていた。
「負けたらどうしようとかは、考えてないです。優勝することしか、意識していないです」
新年1月2日には、前年度のチームが敗れた準決勝へ挑む。東京・国立競技場での東海大戦。最上級生となった大器が爆発するか。真価が問われる。