妻、3児と愛犬に囲まれて幸せに暮らす。
宗像サニックスブルースのHO、隈本浩太はプロ選手として同チームで11年目を迎えている(33歳)。
その在籍年数はFWの生え抜き選手としては一番長い。
「こんなに長く続けられるとは思っていなかった」と謙遜するが、10年超の競技年数はチームに必要とされてきた証(あかし)でもある。
派手な活躍はなくとも、与えられた場所で期待に応え続けてきたから息の長い選手になれた。
「トップリーグでプレーしたい。その気持ちを忘れずにやってきました」
静かに負けじ魂を燃やした日々がプレーヤー人生を支える。
30歳を過ぎて「不思議と走れるようになった」(現在33歳)。
3児は、上が小1で下の双子はまだ3歳。「下のふたりがラグビーをやっていると分かるようになるまではプレーを続けたい」という思いが活力の原点か。
楕円球の道に入ったきっかけは、世界でただ一人に違いない。
中学時代は野球部でキャッチャーだった。ファールフライなどへのダイビングキャッチが得意だった。
「中学3年のときの試合を、高校(宮崎・都城)の野球部の監督が見にきてくれました。そのとき僕がダイビングキャッチしたのを見て、(同校)ラグビー部の監督に、『あの動きはタックルに活かせるのでは』と伝えてくれた。それが、いまに繋がっているんですからねえ」
人生、なにがあるか分からない。
思わぬ形でラグビー部に入った隈本は、鹿児島・志學館大学に進学してNO8として活躍する。
そして、歩んだ道は宗像へ続くものとなった。
HOに転向したのはブルースに入ってからだ。
身体能力の高さは天然。トップチームのプレースピードには違いを感じたものの、「コンタクトプレーの強さには最初からついていけたと思います」と回想する。
バックロー出身だけにフィールドプレーは得意。「フロントローがしないようなパスができる」のも強みだ。
先発ではセットプレーの安定でゲームを落ち着かせる。途中出場の機会ではインパクトを。起用する首脳陣の期待を頭にプレーする(トップリーグ2021では8試合出場)。
周囲に若い選手も増え、経験を伝えることも自分の役目と分かっている。
「チームとしても、若い選手にチャンスを与えたいと思っているはずです。出番がきたときに貢献できる選手となるために、経験してきたことやアドバイスを伝えたいですね」
ただ、ひとりのプレーヤーとしての存在感を小さくするつもりはない。
ポジション争いがあるからチーム力も高まる。
今季は同じ年(2011年入団で同い年)にブルースに加わり、近鉄ライナーズでの4年を経て宗像に戻ってきた高島卓久馬がバイスキャプテンに就いた。HOの座を争う。
「切磋琢磨していきたいと思っています。練習でベストを尽くす。それを首脳陣に見てもらい、判断してもらうだけ」
プロとして貫いてきた姿勢を続けるだけだ。
フロントロー出身の松園正隆監督自ら、フッキングなど、細かなスキルを教えてくれる。
「気づきがあります。まだ成長できると感じます」と直接指導を歓迎する。
スローイングの精度をもっと高めたい。
当たり前のプレーを当たり前にやることの大切さは、10シーズンの間に痛いほど感じてきた。
ベテランとして、チームに安心感を与えるプレーを体現する。
趣味は釣り。SO田代宙士らと沖に出て鯛などを釣り上げる。
リーグワンでの船出がディビジョン3になったことについて最初は「ショック」も、「下から這い上がるのも楽しい。勝ち続ける」と切り替えた。
「(周囲は)ディビジョン3なら勝って当たり前と思うでしょう。その中で大差をつけて勝ちたい。1分でも多くピッチに立ちたい」
内に秘めた闘志も、厳しい世界を生き抜いてこられた理由のひとつ。
「35歳まではプレーを続けたい」と言うけれど、もっと先に、「こんなに長く続けられるとは思っていなかった」と話す予感がする。