2021年12月19日、トップイーストリーグのA、Bグループ入替戦がおこなわれた。
Bグループ1位・秋田ノーザンブレッツ、Aグループ5位・クリーンファイターズ山梨の対戦は、偶然にもチーム名に企業名を冠さず地域密着を目指すチーム同士の対戦となった。
トップイーストリーグは2019年シーズン末、それまでのディビジョン1、2の2グループ制度から新体制となった。Aグループ5チーム、Bグループ5チーム、Cグループ8チームの構成だ。
2020年シーズンは新型コロナウイルスの影響でトップイーストリーグ全体が中止となったため、この2021年シーズンが新体制での初開催となった。当然ながら入替戦も初めてだった。
「2年間、Aグループ昇格だけを目標にやってきた」
理事でチーム統括として18年前チームのクラブチーム化以降一貫して運営の陣頭指揮をとってきた新出康史は試合前2年間の思いを口にした。
試合は開始2分過ぎ、山梨が相手反則から相手陣へ攻め込んだ。しかしラインアウトを奪われ、ここは秋田がしのぐ。
秋田は17分にFLモセセ・ソキベタの突破からFB大塚隆史が飛び込んで先制。その後もNO8今井隆太がトライし14-0とした。
山梨の反撃は26分過ぎだった。秋田の堅いディフェンスをCTB李翔太がこじあけ、14-7と1トライ1ゴール差に詰め寄る。
しかしその後、秋田は29分、43分とトライをあげて試合の主導権を渡さない。前半は28-7で折り返した。
後半に入って秋田は、4分、6分、9分と立て続けにトライをあげ、49-7と大きく点差の開く展開となった。
山梨も18分、そして終了間際の44分にもトライをあげて意地を見せた。しかしファイナルスコアは75-19と、リーグ戦の勢いそのままに秋田の圧勝となった。
秋田は外国人選手の突進を軸に一気にゲインする場面が見られ、山梨ディフェンスを翻弄した。山梨も相手陣にたびたび攻め込むも、痛いところでミスを犯し、ペナルティやターンオーバーを許してしまったことが悔やまれる。
この結果、秋田がAグループ昇格となり、一方山梨は来シーズンBグループ降格となった。
「これが今の実力。ディシプリンが守れず、そこからペナルティをとられた、いや、してしまったということ」と山梨監督の加藤尋久は厳しい表情で試合を振り返る。
加藤監督は2019年より山梨の指揮を執る。今シーズンからはGM兼任となり、グラウンド外でのチーム運営の責任も担うこととなった。
新出理事と加藤監督。実はこの2人は明治大学の先輩後輩の関係にあたる。
その2人がトップイーストでそれぞれ地域色の強いチームを率い、入替戦で対戦した。いろいろな偶然が重なった試合でもあった。
「大企業のスポンサーがない、地域の経済界に支援いただいてやっているチーム」
チームの特徴を秋田の新出理事はそう言い表した。
「いい選手がいたら秋田に連れてくるのだが、その就職の世話からしなければならない。しかし一方で商社だったり銀行だったりと、自分の引退後のキャリアを考えながら競技を続けられることは魅力になるかもしれない」
秋田には地元で教員や消防士などをしながら競技を続ける選手もいるという。
一方の山梨も境遇はまったく同じ。選手は山梨出身もいれば他県から活躍の場を求めて移住してくる選手もいる。山梨で仕事を見つけ、地元企業や学校など、これまた幅広い背景を持った選手が集まっている。
ラグビーを「多様性のスポーツ」と呼ぶが、こうした多様性もまた日本の社会人ラグビーの現実なのである。
「兄弟チームのように思っている」と新出理事がコメントしたように、話を聞けば聞くほど両チームの境遇は似ている。今回の試合結果は秋田に軍配があがったが、グラウンド外の部分でも秋田はユニークな活動をおこなっている。
地元テレビ局へのニュース素材提供、地元新聞が遠征先まで取材にくるなど地元マスコミとのリレーションは万全。さらにグラウンドに秋田県のPRブースを設置するなど、地域への情報発信、還元と、地元を意識した活動に余念がない。
山梨もこの日、地元新聞、TVの取材があり、地域への情報発信はおこなっているが、秋田のそれはさすがに18年のチーム運営のノウハウと言える。ここが戦力の差になったとまでは言わないが、山梨としてもチーム運営の面で大いに学ぶところがあったのではないだろうか。
「Aグループにあがる。そうするとまた秋田でプレーしたいという選手がでてくる。地元スポンサーも少しでも上のリーグでやってくれれば応援もしやすくなる、と言ってくれている」(新出理事)
地域チームといっても趣味や余暇のためではなく、シビアなチームの運営があり、そのためには「強くなる」ということが好循環を生むための最良の手段ということであろう。
試合会場より少し広い目でラグビー界全体をみてみると、いよいよ新生のリーグワンが開幕する。リーグワンの掲げるビジョンの一つが「あなたの街から、世界最高をつくろう」である。今この瞬間のチーム状況から、秋田にせよ山梨にせよ、即座にリーグワンに参加を表明すれば、笑う人がいるかもしれない。
しかし、地域に対してつながりを持つ、地域のために強くなるというスタイルを地で行く両チームは、もしかするとリーグワンが目指すラグビーの一つの面を既に実現しているのではないか、と思わせられた。
この試合、実は山梨にとってようやく実現したコロナ後初のホームでの有観客試合であった。駆けつけた多くの地元ファンが、山梨の選手がボールを持って前進するたびに大きな声援を送っていた。
「今のAグループの強さを体が忘れてはいけない。またここに返ってくるよう、1人1人を鍛えなおしてゆく」
その声に後押しされるかのように、加藤監督は前を向いてそう答えた。