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【コラム】2021年、取材で出会った十の言葉

2021.12.30

写真は2021年暮の花園第3グラウンド。選手やコーチたちの息遣いまでが間近に感じられる(撮影:宮原和也)

他人の口元を見る回数が減ってどれほど経ったか。

ウイルスとそれへの政策へ嘆息が漏れて久しい2021年。ラグビーの取材現場にとっては、普及したリモート取材と本来からある対面取材のハイブリッド化が進んだ年でもあった。

視線の先、画面の向こうからは意義ある肉声が伝わる。本稿では間もなく終わる2021年に聞いた際立つ談話のうち、10編を振り返る(話主の肩書は当時)。

「カッカするんじゃなく、もっと主体的に考え、楽しんでやってほしいな」(大分東明高・白田誠明監督/1月1日・東大阪市花園ラグビー場)

無観客開催だった第100回全国高校ラグビー大会へ参加した。中部大春日丘高との3回戦では後半16分、主軸ウイングのジョアペ・ナコが自陣深い位置から攻め上がろうとして落球。失点を招いた。以後も強引さが目立ったと感じたか、指揮官はベンチから「ナコ、楽しんでないよ?」とリラックスするよう促した。

17―40で敗戦後、指揮官はその意図を問われて「彼らは死に物狂いでやってくれてはいましたが、これまで彼らがやってきたのはそういうラグビーじゃないから…」。ピンチを楽しむのも才能。

「選手ひとりひとりを理解するのが大事だと考えています」(トヨタ自動車共同主将/キアラン・リード/2月15日/リモート)

 元ニュージーランド代表主将が、加入2年目のクラブでリーダーを任された。ともにその責務を務めた茂野海人は「試合中のハドル(円陣)では、長々と話をすると選手の耳にも入ってこず、次の行動に切り替えるのは難しい。そこで(リードは)キーポイントだけを伝えます」と感心。当の本人は述べる。

「選手1人ひとり、スイッチの入れ方は違います。こちら側へ引き寄せるようにしたほうがいい選手もいれば、引き離すほうがいい選手もいる」

リーダーシップをとるには、その組織にいる「ひとりひとりを理解する」のが肝要だという。

「一流は、調べてくる」(明大監督/田中澄憲/3月19日/東京・明大八幡山グラウンド)

 現サントリーのゼネラルマネージャーである田中は、母校の指導陣に入閣してからの4季すべてで4強入り。監督就任1年目の2018年度は22シーズンぶりの日本一に輝いている。現役時代から世界的名将のエディー・ジョーンズの薫陶を受けてきたとあり、「一流」の「一流」たるゆえんを看破する。

「チームには独特のカルチャーがある。賢くない人は、それを理解しようともしないで自分のやりたいことをやろうとする。それで、軋轢も生じますよね。それに対して、普通の人は『あ、そうなんだ』と途中で気づいて適応する。一流の人は、それ(文化)を事前に調べてくる」

確かにジョーンズは、自身の打ち出す「アグレッシブアタッキングラグビー」というスタイルが「やってみなはれ」という社是に近いとプレゼン。元ニュージーランド代表アシスタントコーチで神戸製鋼のウェイン・スミス総監督は、工場見学を重ねて「スチールワーカー」としての矜持を礎に据えた。

「若い時から――ずっとそう思っていたわけでもありませんが――この状況を抜け出したいと思い、そうできる自信があった。そして、実際に抜け出せた。プロになってからは(当時の自身と)同じような若い人の支え、モチベーションになればと思い、このストーリーはいくらでもシェアしようと思って話しています」(NTTドコモ/マカゾレ・マピンピ/4月5日/大阪・レッドハリケーンズ南港グラウンド)

南アフリカ代表として2019年のワールドカップ日本大会で優勝したマカゾレ・マピンピは、東ケープ州のムダンツェンという町で生まれた。貧しさや困難と無縁ではなく、そのタフな人生は南アフリカ代表の密着ドキュメンタリー『Chasing the Sun』で知られる。

南アフリカ代表は大一番で、家族の写真を背番号に印刷することがある。ところがマピンピの「11」には自らの写真しか映っていなかった。NTTドコモに加入した今季、このエピソードを広く伝える意味を語った。

「誰かと比べるんじゃなく、自分の強みを伸ばそうとしてきました」(サントリー/梶村祐介/6月10日/リモート)

 サンウルブズの一員として臨む日本代表との強化試合を前に、それまでの道のりを明かした。

2021年の国内トップリーグでは、主将の中村とインサイドセンターの定位置を争うなかで「自信を失いかけた時期」もあったと吐露する。しかし時間が経つにつれ、自分に矢印を向けるよう心を整えた。

新装開店するリーグワン参戦に向け、契約期間満了を前にキヤノンへ移籍。サントリー、サンウルブズで梶村を指導した沢木敬介監督のもと、代表復帰へ勝負する。

「自分を大切にすることは凄く大事かな、とは思いますね」(ハイランダーズ、日本代表/姫野和樹/9月29日/リモート)

 今年はニュージーランドのハイランダーズでプレーした。海外生活を経て感じた日本のよさについて聞かれ、こう説く。

「ニュージーランドって、時間がゆっくり、ゆったりしている。自分の時間を大切にする。仕事が終わったら帰る…。オンとオフの切り替えはいいなぁと思いました。ただ、マイペース過ぎてダメなところもあるというか…。例えば、僕はもともと2週間フラットでチームメイトと過ごして、色々とダニーデン(現地)での過ごし方を学びながら、その後に一人暮らしをする予定だったんです。でも、結局家が用意されたのが4か月後で、不動産屋に鍵を取りに行って、部屋に入ろうと思ったら、その鍵が違った! 逆に日本はきっちりしすぎている部分もあるし、お互いのよさを混ぜればいいなぁと思いましたけどね」

最後は「(どちらにも)悪い部分も、いい部分もあるから、何とも言えないですが…」と、掲題の一言を用いた。簡潔な人生観に行きつく。

「周りの僕を見る目が変わったとしても、僕が変わるわけじゃないです。それによって僕が何かを変えることはおかしいじゃないですか。自分は自分。やるべきことは変わらないです」(パナソニック、日本代表/稲垣啓太/10月1日/リモート)

 2019年のワールドカップ日本大会を機に、競技の枠組みを超えた有名人となった。代表候補合宿への参加中、自身の知名度に関して話す。

「街を歩けば、まぁこんな身体ですから皆、わかるわけです。別にやましいこともないから堂々と歩きます。ただ、周りが『あ、ラグビー選手だ』と認識してくれることはありがたい、嬉しいことです。自分のプレーに意見を言ってもらえたり、感動しましたと言ってもらえたりするのも。そう言ってもらえるようにも、結果を出さないといけない。逆に、結果が出なかった時、ファンの人はもっと(自分たちを)罵ってもいいと思うんですよね。ラグビー界も、それくらいのレベルになっていかないといけない」

 夏までの遠征後は、隔離先のホテルにファンが差し入れを届ける事態に唖然。もっとも時間が経てば、「気持ちはありがたいです。その応援してくれる情熱を、もっと違った形にしてくれたら最高なんですけどね」と少し表情を崩した。

「私は女性として女性にラグビーを教える身として、男性へのコーチングと女性へのコーチングで何が違うかと投げかけられることもあります。ただ私はまず、人間をコーチングしていると理解しています。ニュージーランド人、日本人、男、女と、カテゴライズすると視野を狭くすると思っています」(女子15人制日本代表ヘッドコーチ/レズリー・マッケンジー/11月3日/リモート)

 カナダ出身で就任2年目。異国の選手を指導する難しさについて聞かれ、即答した。違いを受け入れるよりも、違いなどあって当然だからそれをあえて意識しないという思いか。

「ただ、日本に来たことを楽しんでいます。ここに来なければ、納豆のおいしさもわからなかった」

「誰かの真似をしようとか、誰かのようなキャプテンに…というのでは、皆が求めていた僕のキャプテンではなくなってしまうのかなと思っていて。僕は、僕のキャプテンというのを貫こうと思っています」(帝京大学主将/細木康太郎/12月4日/東京・秩父宮ラグビー場)

 関東大学対抗戦Aで全勝優勝。細木が会見し、「理想のキャプテン像というものは、なくて…」と切り出す。同級生に船頭役を託されたのは「僕の個性、僕自身を認めてくれているから」だとし、丁寧に言葉を選ぶ。強烈な突破力を誇る、自分の心に素直な人間が、そのまま帝京大の主将になった。

「60パーセントくらいでしょうか。…まぁ、花園で100パーセントになることはないので、パフォーマンスとしては上出来だと思います」(富山第一高監督/河合謙徳/12月28日/大阪・東大阪市花園ラグビー場)

 全国高校ラグビー大会へ3大会連続で出場が叶うも、いずれも初戦敗退。第101大会の飯田高戦を8―31で落とした後、選手が力を発揮できたかどうかを聞かれてこう述べた。大舞台で普段通りに戦う難しさを受け入れ、この場に立っていた。キックオフの前には選手へこう告げた。

「お前たち、よくここまで来た。自信持って、楽しんでこい!」